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転生怠惰譚~ゆるゆると生きてたい~  作者: おばあさん
第一章~転生して良くも悪くもめんどうくさい~
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間話 ベルフェルミナという少年 ―①

 俺こと、アキラ・シフトがベルフェルミナ・ゴルドス・アーケディアという少年を見たのは、七歳の時の夏の海でのことだった。


『ベルフェルミナ・ゴルドス・アーケディア。……よろしく』


 そう喋ったのは、ふわふわとした金髪と、子供のくせに気だるげな碧眼をした――人形のような美しさを備えた件の少年だ。

 俺はそいつを見て、動揺した。密かに目を見張って、そいつを凝視したのを覚えてる。


 ベルフェルミナという少年は、浮いていたのだ。

 宙を漂いながら――そしてそれが当然であるかのようにしながら――彼は俺たち孤児院の面々に挨拶をしたのだ。


 皆が凄いと口を揃えて囃し立てる中、俺はその異常さに冷や汗を流したのを覚えている。

 彼の使っているのは、彼自身も口にしたように明らかに魔法の力であり――とりわけ扱い難い超常系統の魔法であることは間違いなかった。

 そしてそれをそいつは、何の苦もなさそうに自然体に扱っていたのだ。


 自分も(五歳になって啓示で知ったことなのだが)超常魔法の一つである【空間】という魔法が使える。


 だからこそ分かるのだ。

 身を以て知る超常魔法の扱いの難しさと――目の前の子供の異質さに。


 俺は戦慄を隠すので手一杯になっていた。

 何故五歳になったばかりでそこまで扱えるのかとか、その魔法の正体は一体何なのかとか、色々と思考が廻った中。


 どうにか頭が行き着いたのは――俺に課せられたある使命についてだった。




 ☆




『でっかい魂がねえ、こっちに来ちゃったのお。君たち巻き込んでえ』


『……はあ』


『どー考えても常人じゃありえないっていうかあ……君みたいな魂を巻き込んでくるくらいだからあ……なーんか、やばそうだねってみんな心配してんのお』


 記憶の中に鮮明に残る、セポーセと呼ばれる上位の神との会話。やたらと言葉の尻を伸ばして間を取る彼女の話し方と、ダボダボの服からチラリと見える綺麗な脚が印象的だった。


『その魂の担当はくじ引きで決めてえ……ついでに他の魂もくじ引きで決めたのねえ? でえ……私引いたからあ、君の担当っていうのかなあ?』


『聞かれても分かんねえから。多分そうなんじゃねえの』


『そうかあ……てなわけでその魂っぽいの見つけたら、監視? 警戒? まあしておいてほしいんだよねえ生まれ変わったらさあ』


『転生したら記憶は消えるんじゃないのか?』


『そこはあ……ちょっとだけ残しておくみたいなあ。だから他の記憶も残っちゃうかもお……どこがどう残るとかはわかんなあい』


『ふーん』


『でまあ誰が担当かはあ……多分言っても意味ないしい、省くねえ……まあ危険って決まったわけでもないしい……大丈夫そうなら傍観でもおっけえねえ……』


『はいよ』




 ☆




 ――鮮明に残る記憶はそこぐらいだ。


 転生のために貰った特典みたいなものを五歳になるまで分からなかったぐらい、俺の記憶は他に関しては穴だらけだった。


 当初はその記憶に中々混乱させられたものだ。

 だけど、何故か残っていた“俺”という自意識のおかげでなんとか混乱は落ち着けることはできたし、なにより自分の最悪な境遇にもなんとか対応できたから結果オーライと言うやつなのだろうとは思ってる。


 おかげでフラワという名前の大切な義理の妹という存在までできたし。

 彼女には前世の悔いを重ねていただけだったのだが、ここに来るまでにはいつの間にか大きな存在になっていた……という感じだ。

 まあ、後悔のないよう、義妹のことはこれからも温かく見守って行こうと思う。


 っとそれは置いておいて、問題はベルフェルミナだ。

 彼の異質さは目に見えて明らかで、どうにかして確認を取りたいところだった。

 どうするべきか悩んでいると、神父さんが今度そいつを孤児院に呼ぶことになったので、それに乗じて接触することを決めた。




 ☆




『≪グラビティフィールド・ゼロ≫』


 ――そんな魔法が使える五歳児がいてたまるか!


 やってきたそいつに心中で悪態を吐き、転生者であることだけを俺は半ば確信した。


 一体どれだけ修練したらここまで扱えるレベルになるのか、俺には分からない。

 ただ、あの気だるそうな雰囲気とは裏腹に、意外と努力家なのかもしれない。


 問題は、その努力の方向性だ。


 そう思って、俺は練習と報復を兼ねていたお菓子の横取りの矛先をソイツに向けた。

 ベルフェルミナは最初こそお菓子を味わっていたが、彼はすぐに異常に気付いた。

 ここまでは予想通りだ。


 ――流石にその後、直ぐにスプーンを捕まえられたことには肝が冷えた。


 バレてないかと周りを見て、気づいていない様子にホッとした束の間に、アイツに良い笑顔を向けられたのは今でも覚えてる。

 まるで悪魔のようだ、と思ったのは間違いじゃないと思う。


 そのぐらいに、あのただの笑顔に怖い思いをさせられた。




 ☆




『――超常系統【空間】。それが君の魔法』


 一週間後に呼び出された俺は、その五歳児にあるまじき洞察力と流暢な喋り方で、九割ほど転生者であることを確信させた。


『正解だぜ』


 だから、警告諸々を含めて先手を取ろうとしたのだが――呆気なく俺はそいつの魔法に叩き潰された。

 魔物に囲まれてもどうにかフラワを守りながら生き延びた俺だが、手も足も出ずに地面に這いつくばった。


『何しようとしたかは知らないけど、君の負け』


 ケラケラと笑われながら敗北を宣告された。

 確かにこの状況は俺の負けだった。

 現状、【空間】魔法や【強化】を使ってもどうにもならないことは嫌というほど分かった。

 ――魔法という技術の技量において、俺とそいつは隔絶していたのだ。


 そして後に見せてもらった啓示のステータスで更に思い知らされた。

 俺は自分のステータスはヤバいものだと自負していたのだが、ベルフェルミナ・ゴルドス・アーケディアはそれすらも越えた。


 彼は魔法のステータス面において五歳児でありながら既に人間の中でも超一流の域に立っていた。

 人間の基礎ステータスでBという大台は、それだけで天才、あるいは超人と囃し立てられると言われるのに、下三つの魔法ステータスはそれを優に越えていた。MINなんてもう一歩でSだからこいつマジで人間じゃねえんじゃねえのかとちょっと思ってしまったぐらいだ。


 俺はもう『監視対象はこいつで決まりだろ……』と思っていたのだが、神様から加護――どころか寵愛なんていう代物を貰っていると言う点が些か不明だった。


 色々と限りなく黒なのにイマイチ踏み切れないで教会を後にした。

 そしてその日の夕飯の前に、俺は神父に悪戯のことをこっ酷く怒られた。

 まあしょうがないし、確かにらしくなかったので素直に反省した。


 ――そして、そこで罰としてアーケディア家に二週間潜入できることになったのは僥倖だと思った。




 ☆




 潜入には普段のベルフェルミナの様子を見る、というのが目的なのでその前に色々と話をしたかった。

 どうしようかと悩んだところで、突然彼が海に行きたいと言ったのでそれに乗じた。


 色々と話したが、驚いたことを一つ。


 こいつ変態だ。


 ……じゃない。

 どうもベルフェルミナの担当の神様は謹慎中で何も知らないらしいとのことだった。

 これじゃあまり深くは分からない。

 そもそもそれが嘘なんじゃないかとは思ったが、どちらと断定することは現状出来なかった。


 ただ、ベルフェルミナの願ったことは前世の記憶らしい。

 なので、彼のその超常の魔法やそれを扱う才覚に関しては天賦のもの――否、魂に依るものだということだけは確かとなった、と思う。

 ようやく一歩、前進できたような気がする。


『自分の神様ぐらい信仰したら?』


 寵愛を受けてるからかよく分からないが、彼はミルイニという神を大層信じ込んでいるようだった。

 もしかしたら彼がその魂の所為で、彼女に裏切られるかもしれないのになんとも呑気なことだ。


 ただ、セポーセに拝んだりしてみたことなかったとも思ったので、それについてはイエスの返事を返した。

 その時、なんとなく前世で信仰はしていたのかを聞いたら、意外と神様を信じてなかったのには呆れた。

 そしてミルイニ……様とやらはどんだけ可愛かったのやらと、ちょっと羨んだ。

 俺、セポーセの顔はちっとも覚えてなかったからなあ。

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