十一話 〃 ―②
一日に二回更新したのはですね~。
今回神父さんが喋るだけだからです……。
「――おやベル君。私にご用ですか?」
「うん。……どうせ聞いてたんでしょ?」
「それでもですよ」
教会に入る扉の横で突っ立ってた神父さんを、胡乱げな目で僕は見る。
わざわざ盗み聞きするような真似して……はあ。
「聞きたいことがある」
「なんですかな?」
「――アシにはなんて言って叱ったの?」
「……そう来ましたか」
僅かばかり彼は瞠目して、苦笑した。
「もう殆ど、自身の疑問に答えは出ているようで」
「あれだけ聞けばねえ」
アシが悪戯っ子だなんて線はもうないだろう。
そりゃーちょろっと何かしでかすぐらいはあっても、人を困らすことを嬉々としてやる人間じゃなさそうだ。
神父さんは瞑目する。
どう話すべきかを考えているのか。
神父さんはしばらくしてから、重く口を開いた。
「……孤児院の中には、まず二種類の子供に分けられます。親を失くした子供と、捨てられた子供です。そして後者は更に二つに分かれます。捨てられたことを認める子供と――未だに帰りを信じる子供です」
アシは“後者の前者”で、フラワちゃんは“後者寄りの前者”だろう。
分かり辛いから一、二、三で分ければよかったなあ。
「親の帰りを信じる子供は、逆を言えば、捨てられたことを信じられないのです。もちろん、そのことは歳を重ねることで事実を受け止めることができます。しかし、受け止められないうちは、信じようとするために他の子たちを否定するのです」
他者を否定することで、自分の優位性を保とうとする。
子供であれ大人であれ、よくある話だろうさ。
「そのせいで、子供たちはグループを二つに分ちます。親がいないことを認める多数派と、それを認めない少数派です。その二つは、基本的には互いに不干渉を貫いています」
神父さんは一息吐くと、冗談めかして言った。
「さて、ようやく話の肝となる部分ですが……寝てませんよね?」
「ギリ」
「それなら良かった」
そしてようやく、本題に足を踏み入れた。
「……二年前、ここに来たフラワちゃんは今日に至るまでどっちつかずの子でした。彼女にとって肉親的存在――親以上に頼りになる、“兄”という立場のアキラ君がいることで、そういったことを大して気に留めていなかった。そして何より、彼女は彼に会う前の経験から、人見知りの傾向にありましたし、どちらのグループにも属せなかった」
『実は来たばかりの頃は、一緒の部屋にいることすらできなかった』――なんて、今では考えられないことを神父さんは抜かしつつ、言葉を続けた。
「なのでしばらく距離をとりながら過ごして、そしてつい最近――君が洗礼を受ける一月前ほどに、君が初めて会ったぐらいにまでなりました」
――そこまで来て、一度だけ後者のグループの的になってしまいました。
僕のほぼ予想通りの答えが、近づいてきた。
「……親のことはどうでもいい彼女ですが、“詰られる”という行為自体にはとても敏感です。彼女は酷く怯えてしまい、その様子を見つけた子が急いでシスターを呼びました」
そこで彼はクスリと笑った。
「そしてシスターが駆けつけるその一瞬のうちに、既にアキラ君はフラワちゃんを庇うように立っていました。そのあまりの剣幕に泣き出した子達を見て、アキラ君が手を出したと勘違いしてしまうほどの大泣きです。……その誤解は、遠くで涙目になりながら見てた別の子のおかげで解けましたがね」
「……手は出さなかったんだ」
「ええ。中々、我慢強い子だと思いましたよ。些か子供には過ぎた圧だとも思いましたけど。彼は立派な子です」
だからこそ。
神父さんはそう続けて、ようやく答えを差し出した。
「私は、彼があの悪戯をしていたと知った時、彼にこう言いました。『――そんな姑息な手段でやり返すような人に、貴方は堕ちるのですか』とね」
……概ね予想通りだけど、子供に言うようなことじゃないよねそれ。
それに僕に対してここまで迂遠に話してることも、子供にすることじゃあない。
「……答えまでが長かった」
「失礼。年を取ると、どうにもお喋りになってしまって。……それに、ベル君も同じようなことをしたじゃないですか」
ああ、やっぱりあの時も聞いてたんだこの人。
盗み聞きが趣味なのかな?
あんな素晴らしい仕事をしてるなら、それもまた疑わざるを得ないかな。
「……まあ、いいや」
態々途中経過の答え合わせまでしてくれたと思えばいい。
ただうつらうつらと話を聞いてただけだし、大して苦でもなかった。
そうだ、一応聞いておこう。
「ダメ元で聞くけど、アシの生い立ちは知ってるの?」
「いいえ、知りません。知っているのは、彼が親に捨てられ故郷を追われたぐらいです。恐らく、フラワちゃんもその程度しか知らないでしょう」
「そっか……ありがとう」
「いえいえ。ほとんど、ただの老爺の情けない独り言です」
随分と長く、語りかけるような独り言もあったものだなあ。
呆れつつ、僕は踵を返し(地に足ついてないけど)その場を去ろうとする。
「アキラ君は」
ふと、呼び止められる。
というより、声に反応して僕が勝手に止まった。
「しっかりやれていますか?」
「……嬉々として紅茶を淹れるぐらいには」
「それは良かった」
本当にいいと思っているのだろうか。
ちらりと一瞥したら、とてもいい笑顔だった。
なんか明日の更新がこれだけってやだなあって思ったから二話更新でした。




