十話 〃 ―④
ミルイニちゃんの偶像に見守られながら。
僕とルナ、アシとフラワちゃんは、向かい合っていた。
二人とも互いの兄の背に隠れる形からで、だけど。
さて、こっからどうしていくかは、正直な話なんにも考えてない。
とりあえずは、切っ掛けだけでも作ってあげないといけないかな?
「さっき言った通りにやってみな」
「……わかった」
と思ったら、あちら側がすでにそれをやってくれていたらしい。
フラワちゃんが頭だけ出して、僕の後ろへ話しかけた。
「フラワ・シフト。……っていいます。おなまえ、なんですか?」
「……」
無言のままのルナをちょいちょいと引っ張る。
僕の方を見上げたルナに、『同じようにやってごらん』と小さく唆す。
「……ルナロード・シルバニー・アーケディア」
そこでボソッと、耳打ちをする。
「……ルナってよんで」
「……ルナ?」
「……ルナ」
「私、フラワ」
「フラワ」
「ルナ」
「フラワ」
「「……」」
スーッと、二人同時に背の後ろに戻って行った。
動きだけ鏡に映したみたいで、ちょっと面白かった。
「ふ、ふふっ……フラワ――」
アシが僅かに吹き出しながら、フラワちゃんに耳打ちする。
そして再び、彼女はにゅっと出てきた。
「すきなたべもの、なんですか」
今度は僕が何かをする前に、ルナがにゅっと出た。
「……シュークリーム」
「……私も好き」
「あ、あまくておいしい」
「ふわふわしてる」
「ふわふわ」
「あまい」
「「……」」
そして行われた天丼に、僕とアシは耐えきれずに大笑いした。
☆
あれから……大分長い時間をかけたけど、二人はようやく背中から出てこれるようになった。
ちゃんと対面して話ができるようになった。
会話は、良くも悪くも子供らしいものだ。
二人とも友達なんて居なかったから、もしかしたらそれ以上に拙いかもしれない。
でも、二人はちゃんと仲良くなった。
一生懸命に、楽しそうにお話している。
僕とアシが既に二、三歩離れて見守ってるだけであることにも、もしかしたら二人は気づいてないかもしれない。
「……成功だな」
「ね。まさか一日で仲良くなれるとは、流石に思ってなかったや」
「まあ、それが子供なんじゃねーの」
「だねえ」
めんどうを押してまで動いた甲斐があったというものだね。
こういう経験なんてなかったから、ちょびっと不安もあったし。
密かにホッと、胸を撫で下ろした。
達成感も一入だ。
……達成感。
長らくなかったことだ。
いや、生まれ変わってからは、随分と味わったかもしれない。
「さて、そろそろ時間なんだが……」
と、ここでアシが気まずそうに言った。
「あー……」
僕たちは、顔を見合わせた。
「アシ、行ってきなよ」
「嫌だよ。壊したくねえよあの雰囲気」
「僕だって同じだよ」
もう帰る時間ですよー、なんて言って二人を帰らせろと言うのか。
引き離せとおっしゃるのか。
僕には無理だ。
そんな残酷なこと、僕にはできない!
「――お二人とも」
「「? しんぷさん?」」
僕たち二人がやきもきとしていると、神父さんがスッと現れた。
「もうそろそろ帰るお時間ですよ」
め、メシア……!
メシア神父!
「え~」
「やだぁ……」
けどそれは、二人にとっては、二人を引き離す悪魔も同然で。
二人はイヤイヤと一緒に首を振る。
愛らしいけど、ゴメン!
「ルナ、かえんないと」
「やぁ……」
「フラワも。シスター達待ってっから」
「い~や~」
おおう。
僕たちの心も引き裂かれそうだ……!
なんて罪悪感だ。
「お二人とも」
そんな中でも、神父さんはとても穏やかに言った。
「今日はお別れですが、ずっと会えなくなるわけではありません。また明日、会うことができます」
「……でも~」
「やなのぉ……」
神父さんは、それでも駄々をこねる二人に、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「“また明日”。そうやって約束した友達とまた明日に会うことができるのは……もっと楽しいことです。明日なんてすぐに来るのに、それだけでもっと、明日が楽しくなるのです」
「「……ほんと?」」
「ええ。友達というのは、そういうものです」
二人はなおぐずるけど、でも、泣き言は言わなかった。
「ルナ」
そっと後ろからルナの手を撮った。
ルナが後ろに立つことはあっても、僕が後ろに立つのは初めてだった。
僕はその手を、小さく左右に振りながら、教えてあげる。
「また、あした」
「また、あした……」
「フラワもやってやんな」
「……また、あした」
しっかりと自分で手を触れるようになった妹たちの手を離す。
うん、神父さんが言ったんだ。
また明日も会える。
「じゃ、帰ろーな」
フラワちゃんがアシに手を取られて、出口の方に向かっていく。
二人はお互いの姿が扉に隔てられて見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
そして、姿が消えて、ルナは泣いた。
「……にぃ、おにぃ~~~!!!」
「よしよし」
僕はルナの背中をとんとんと叩きながら、逆の手で頭を撫でてやる。
大声を上げて泣きじゃくるルナを見るのは、赤子の頃以来だった。
「またあした、あえる。しんぷさんは、ウソをつかない」
「ええ、約束します」
それでも泣き止むのには時間を要する。
泣いて、泣いて、泣いて――泣き疲れて、ルナは静かに寝息を立てたのだった。
「――戻ったぜ」
まるでタイミングを計ったかのように、その場にふとアシが現れた。
「よかったね。丁度泣き疲れて寝たところだよ」
「ああ、こっちもそんな感じだったわ」
どうやらフラワちゃんも泣きじゃくったみたいだ。
泣き疲れて寝たところを、シスターに預けて戻ってきたそうだ。
「お前達送ったら、一旦孤児院戻って様子見るわ」
「ふ~ん。ま、どっちにしろ後が大変だ」
「ああ? あー、そうか。俺が帰ってきたら、ルナちゃん勘違いするな。今日はあっちいようかな……」
「どっちでもいいんじゃない?」
苦笑する僕ら。
仕方のないことだ。
それは追々、考えるとしよう。
「で、神父、さっきの言葉、守れよ?」
「モチロン。話は通しておきますよ」
神父さんがそれを確約した後、一呼吸を置いてアシに告げた。
「罰は、いい刺激になったようですね」
「……否定はしねえよ」
ついと、彼は僕からも神父さんからも顔を背けた。
「さ、お二人も帰りなさい」
「言われなくとも帰るよ」
僕は≪グラビティ・ゼロ≫でルナを抱えて、アシの方へと寄る。
「アシ、三人纏めていける?」
「サヴァさんに教わってんだ。上達してるんだから、そんぐらいできる」
「本当? なんかできなさそう」
「ああ? 舐めんな」
「お二人とも」
軽口の応酬の最中、僕たちは呼び止められる。
「また明日」
「「…………また明日」」
微妙な笑顔で、僕たちもまた手を振って帰った。
魔法とおっぱいとミルイニちゃんと怠惰目的以外で、今回ベルは初めて超能動的に動いたと思います。
適当こいてますごめんよく覚えてないです多分そうなんだと思ってます。




