十話 〃 ―③
許可を得て、大まかな段取りだけ決定してから、僕たちは≪テレポート≫で孤児院を後にした。
「後はルナ次第だ」
「そうだな」
そう話す僕らは教会にいた。
無論、神父さんに話を通すのと、お祈りのため。
あと、少々のお話のためだ。
……あ、【重力】の“-”が取れた。
【重力】がAランクだー。
やったーわりとどうでもいー。
「今更だが、大丈夫なんかな。フラワはお前と話すのは大丈夫みたいだけど、ルナちゃん俺にてんでダメだろ」
「そう?」
やや心配そうにするアシだけど。
僕はそう思わないなあ。
「見てないだろうけど、アシの背中を目で追ってるよ?」
「うっそ、まじ?」
下働き(という名のアシの憩いの時間)に、ルナはその後ろ姿をボーっと見てることがある。
アシは真剣に集中してると、見た目通りというかなんというか、とにかく静かだからなあ。
まあ、サヴァさんみたいなものだと思って警戒が解けて、興味が沸くんだと思う。
逆に家族にもみくちゃにされてる時のアシは煩いし口調は粗野だしで、近寄りがたいみたいだ。
だから。
「ふわふわちゃんに接してる時みたいにしてれば、問題ないでしょ」
「そんなもんかよ?」
「そんなもんだよ」
顔は優男風のイケメンなのだ。
ただ、口が少し悪いだけだ。
なんだったらいっそ、サヴァさんにそこら辺も仕込まれてしまえばいいのに。
世の中、イケメンは大抵のことはなんとかなるっていう設定が働いてるからね。
所作まで完璧にしたら、こいつどうなるんだろ。
……ちょっと腹立ってきたぞ。
「…………普通さ」
「? なに」
僕が勝手にアシにイライラを募らせていると。
アシが、ミルイニちゃんの偶像を仰ぎ見ながら、小さな声で呟いた。
「こういうの、お母さんとかがやるもんだよな」
「……あー」
その言葉に込められた意味を、感情を。
分からないなんて言うほど、僕は鈍くない。
恐らく、彼もそう分かってるだろう。
でも僕は、あえて履き違えて答えてやった。
「ま、ウチのお母さん、子供の背を押すの苦手だしね」
精神面で既に成熟しきったような、転生者である僕にとっては嬉しいことだけれど。
でも、未熟な子供の成長を促すと言う点において、お母さんは甘やかしたがりに過ぎるし、教えると言う行為もあまり上手じゃない。
でも、お母さんの愛だけは確かだ。
「良くも悪くも、お母さんは“母”って感じだからさあ。愛を注ぐ。愛で受け止める。リアねえが年上の子と喧嘩してボコボコにしても、僕が魔法使ってだらだらとしていても、お母さんはお母さんらしく受け止めてくれる」
僕がそうやって外れた答えを返しても、アシは何も言わなかった。
いや、言えなかったのかもしれない。
まあそこは、どちらでもいい。
彼からのアクションを期待しないで、僕は続ける。
「だから、押すのはお父さんなんだ。それとなく道を示したり、やることに付き合ってくれたり、唆したり、ね」
そうやってお父さんが、子供を前に進めてくれる。
興味と恐怖で止まる体を、ポンと押してくれる。
「でも、お父さんは忙しいからねえ」
サヴァさんとかに聞いたり、休みの日には張り切ったり。
色々やってくれるけど、それでもできないことはある。
「だから、僕が代わりにやるってわけ」
お父さんには、二年前にそうやって唆されたからね。
それでいて、妹はとても可愛いし可愛いし可愛い。
そんな僕の妹のためなのだ。
面倒の気持ちは全力で押し込めて、やれるだけやるさ。
「……代わりになれるのか?」
その情けない声に、僕は笑った。
「代われない理由があるの?」
「……ないとも限んねえだろ」
はっはっは。
何言ってるんだろうね、こいつ。
「兄貴分の君が、“あに”と呼ばれてる君が、それを言う?」
「……!」
開いた口から、また情けない声が漏れてくる前に、僕は畳み掛ける。
「まあ、“成る”なんて無理な話だ。でも、同じようなことをするぐらいはできるでしょ」
母だから“母”。
父だから“父”。
兄だから“兄”。
立ち位置で“役割”のようなものが決まるわけじゃない。
……良くも悪くも、だけど。
「君がこの一週間でみんなから何を感じたかなんて知らないけどさ」
愛が重いなんて言うぐらいだ。
そりゃあ色々思う所もあっただろうけど。
「見る限りフラワちゃんに今、ちゃんとした母が絶対に必要だと思わないよ」
「……そう、だな」
父と母を作ることが、彼のやることじゃない。
母の代わりに彼女を受け止めてあげること。
父の代わりに彼女に道を作ってあげること。
それが、彼のやるべきことだ。
……ま、流石にそこまで言う必要は、ないかな。
「……じゃあベルさん。ウチの子のためにも、お宅の子のことはよろしく頼むわネ」
「キモイ」
「……すまん」
おカマ口調になれなんて言ってないでしょーが。
照れ隠しの仕方、もっとマシなのないの?
「まあ……よろしく頼むわ、ベル」
「はいはい。じゃ、さっさと家に帰せ、足」
「あ、ムカつく」
今までの雰囲気を完全に取っ払ってから、僕たちは家に帰った。
――そして三日後。ルナとフラワちゃんのご対面は、実現した。
次回は幼女ミーツ幼女




