十話 〃 ―②
応接間に来て、アシは言葉通りにお茶を淹れた。
所作がそれっぽすぎて後に来た二人のシスターさんも同じように驚いていた。
やたら美味しいこともそれを更に助長していただろう。
ま、サヴァさんの方が美味しいけどね。
「まだだなあ……」
「いーからすわんなよ。ここ、ウチじゃない」
「ああ。そうだった」
僕の半歩後ろで立って控えていたのは、驚くと言うよりも流石に不安になったみたいだ。
三人とも口が引き攣っていた。
「途中経過を聞かせてもらいたかっただけなんですけど、その……もうやめます? 神父さんには、私たちから言っておきますから……」
「は? なんでさ。別にいいよ」
「だ、大丈夫なの?」
「問題ねえ……家族愛以外は」
アシの言葉で混迷極まったシスターさんたち。
流石の僕も口を開かざるを得なかった。
かくかくしかじかと説明してあげて、働くこと自体にあまり問題はないことを伝えた。
「なら、いいのでしょうか?」
「どうでしょう……」
「でも、悪いわけではないですし」
三人のシスターさんによる緊急会議が始まっちゃった。
そこまでかなあ。
お母さんに膝枕してもらって鼻血出す様な奴だよ?
全然大丈夫だと思うけど。
しかしそんなお話も、彼女の登場で打ち切られた。
「あに~?」
「フラワっ!」
アシの義妹、ふわふわちゃんことフラワちゃんだ。
今までいなかったもう一人のシスターが、ここまで連れてきたんだろう。
「だいじ~?」
「俺は元気だよ。フラワは?」
「だいじ~」
くしゃくしゃとアシがフラワちゃんを撫でる。
それは一週間前と何も変わりがなく、シスターたちもホッと一息。
「みんなとは仲良くできたか?」
「……できたっ」
「ああ、できてないんだな」
「あうう……」
勢いよく告げたけど、そっぽ向きながらじゃ説得力がない。
嘘だって、誰でもわかった。
「フラワちゃん、頑張ってますよ」
「どんくらい?」
「……距離が五センチほど縮みました」
あっちゃー。
心の距離云々の前に、物理的距離からかー。
フラワちゃんは『ごめんなさい』と、項垂れてしまった。
「ああ、そこまで落ち込む必要はねえよ」
「でも、あにーがんばってる」
「俺はまあ、バツだからさ」
と、ここでアシが僕の方をチラリと見た。
言いたいことは分かってるので、僕は小さく頷いた。
「シスター、フラワ。あのさ――」
アシが、一週間前に僕が持ちかけた話を、シスターさんとフラワちゃんに告げる。
シスターたちは、アシと同じようなことを問いかけてきたので、僕も同じように答えを返した。
「でも、フラワちゃんもいきなりお家の中に入っていけるかどうか……」
なるほど。
それは確かにそうだ。
そこを考えてなかった。
なら、こうするのはどうだろう。
「きょーかいなら、ひともすくない。しんぷさんもいるし」
神父さんのことは、フラワちゃんなら十中八九知ってるだろう。
ルナも、最近では一人で挨拶できるくらいにはなってる。
誰か大人が付き添いになるなら、彼は適任だろう。
「そうね。それだったら、いいかもしれないわね」
「たしょうおそくなっても、アシをパシればそうげいはよゆう」
「オイ。いや、まあやるけどさ送迎ぐらい」
「“送迎”なんて言葉よく知ってるわねベル君……」
おっとっと。
褒められちゃったてへへ。
「ま、あとはとーにんしだい」
「だな。どうするフラワ?」
「え~と~」
か細い声で唸るフラワちゃん。
その気持ちは分からなくもない。
でも、僕としてはルナには友達がいてほしいんだよね。
そう思うのは、ここ一週間でルナがいつもどうしてるかがありありと分かったからだ。
ルナは、家の中でお母さんといるか、一人でいるかしかしていなかった。
なんというか、まるで僕みたいな生活してた。
僕が言うのもなんだけど、それはいけないと思うんだ。
その生活自体がいけない、なんて思ってるわけじゃないけど。
お父さんたちがアシに構いまくってるその間。
いつもは恥ずかしがって寄ってこなかったのに、僕に構って来た寂しがりの妹だ。
僕のように『一人でも生きてこ~』なんて思えると、僕は思わない。
まあ、それは主観的な結論だけどさ。
それに、アシからしても、フラワちゃんには友達がいてほしいと思ってる。
フラワちゃんも、この状況をちょっとでも改善したいとは思ってるみたいだし。
だから、柄にもないけど怠惰を押して、少しお節介を焼こうと思う。
「フラワちゃん、ともだちほしい?」
「……ぼちぼち」
ぼちぼち、て。
ある意味、予想だにもしなかったよ、それ。
「ぼくのいもうとがね、ひとりでいるんだ」
「……そ~なの?」
「そう。フラワちゃんも、ひとり?」
「わたし、あに~がいる」
「いなかったら?」
「…………」
黙りこくってしまった。
答えが必要なのではないので、待たずして僕が続ける。
「ルナもいま、そう。ぼくも、おねえちゃんもいないから、いえにひとり」
「そ~、なの?」
「そうなの」
だからね、と。
顔を上げたフラワちゃんにお願いした。
「おはなししてあげてほしい」
会うだけでもいいしね。
「ダメ?」
「……だいじ」
「そっか」
「――よく言ったな、フラワ」
その言葉を待っていたアシが、フラワちゃんを強く撫でた。
いつもより乱暴なそれには、どこか彼の嬉しさが滲み出てるような気がする。
フラワちゃんは不安そうな顔だけど、頑張ろうと言う意思は見えたから、大丈夫だろう。
ミルイニちゃんの閑話いつぶっこもうかな。




