十話 ガンバレマイシスター! ―①
一週間もすれば、アーケディア家に慣れるなんてことは容易だ。
……と、思ってたんだけどね。
実際は、僕の思った以上に我が家はある意味で色々キツかったようだ。
『おいぃぃ……おまえの家族なんなんだぁぁぁぁ……』
とは、下働き一日目を終えた時のアシの嘆きだった。
一日目。
アシを足にして騎士舎(周りの人はそう呼んでる)まで行って、適当にカナリアちゃんと魔法の練習をして帰宅――とはならなかった。
というかできなかった。
『アキラ君、どうせ暇なら、暇つぶしに剣でもやってみないか? 少し手解きをしてやろう』
僕の魔法の練習中に、様子を見に来たお父さんが、暇を持て余したアシのことを誘ったのだ。
そしたら、こうだ。
『まだ荒いがいい体捌きだな! タフネスに至っては凄まじいものがある! いいぞ! ガンガン行こう!』
アシの身体能力に目を付けちゃったお父さんは、なんというか、途中からはとても子供に施す手解きなんかじゃなかった。
訓練、だね。
そう、訓練を施してた。
またやろうと約束までさせられてた。
その後、ボロッボロのアシを引っ叩いて家まで戻ったんだけど。
そこで丁度、リアねえも帰ってきた。
『アシ! ちょっと来て!』
リアねえの言葉につられてついて行くと――中庭。
そして今度は、戦闘が突然始まった。
『アシ凄い! 叩いても全然響かせた気がしないよ!』
それがキラキラ顔でアシを殴りながら言い放った、リアねえの素敵なセリフだった。
早くからお父さんに稽古を付けられ、アシを上回るAGIで以て全力で挑んだリアねえ。
そんな彼女に、アシは終始フルボッコにされていた。
サンドバッグ状態。
正にタコ殴りだ。
でも怪物VITのアシにどれだけ攻撃を浴びせても、女の子のSTRでは全く歯が立たない。
耐え抜いたアシが、体力・集中力の切れたリアねえの隙をついて捨て身の攻撃。
そこで勝負は決し、アシの辛勝……のようなもので終わった。
またやろうと約束させられて。
その後はしばらく、下働きらしいことをサヴァさんに教えられながらやっていた。
僕はそれをルナと見ながらゴロゴロ寝てたんだけど、お母さんが帰ってきて再びアシは呼ばれた。
『お母さん命令……じゃなくて家主の妻命令よ! お買いものしましょう!』
誰にも引き止められず、アシはお母さんに引きずられていった。
そして二時間ほどして帰ってきたアシは……こう……精神的に可哀そうな目に遭ったんだと思う。
口から魂が抜け出てしまってた。
そしてまた行こうと約束させられてた。
僕はその様を見ながら、無慈悲に足としてアシを使い続けた。
唯一ルナだけが無害だけど、ルナはルナでアシにあまり近づきたがらなかったので逆にダメージになったかもしれない。
『この三日で分かった。下働きの時間が一番心が休まる』
そうして三日目の夜には、アシは突然そう言いながらぶっ倒れてそのまま眠りに落ちた。
うん……まあ、これも下働きの勤めだと思うから、頑張れ。
なお、お父さんたちがアシに構いまくるから、ルナが僕にひっきりなしに甘えてきたのが可愛かった。
とっても可愛くて、逆に不安になってしまうぐらいには。
☆
そんなこんなで一週間。
経過観察みたいなもので孤児院に顔を出したアシを見て、シスターさんは口に手を当てて驚いていた。
そして、とても心配そうにして彼に声をかけた。
「……アキラくん。大丈夫? 疲れてない?」
身形は別に、大して変わっていない。
ただ、目つきがすごかった。
目つきと言うか、目の下の隈が凄まじかった。
「ああ……愛が、重いんです」
「あ、愛?」
首を傾げるシスターさんだけど、多分アシの目には映ってないだろう。
そのくらい疲れてるみたいだ。
傍から見てただけだけど、凄かったからね。
もしかしたら、アレを僕が受けてたのかって思うと、家族には申し訳ないけどゾッとする。
絶対についていけないと思う。
それが分かってるから僕にはしなかったんだろうけどね。
これはこれで家族愛だね。
「だからシスター。俺、学びましたよ。下働きってのは、心を落ち着かせる一時なんだ」
「べ、ベルくん。アキラくんがどこかとんでもない悟りを開いてるのですけど……」
「ことばどおりでふかいいみはない」
あっちこっち動き回ってるより、家の中の事をチマチマやる時の方が彼はとても安らかだ。
一番意欲的に活動してると言い換えてもいいかもしれない。
サヴァさんが教えるの上手だし、無理に詰め込んだりしないから、それも一入だろうね。
とてもいい笑顔でおやつ持ってきたときには思わず『キモイ』って口走っちゃったけどね。
『本日のおやつはシュークリームでございます』
って言われたんだよ?
会って半月程度でしかないけど、違和感が凄まじくて怖気すら走ったね。
「とりあえず応接間行こうぜ。そうだ、お茶は俺が淹れるぜ。アレ楽しくてさ。ちょっと上手くなったんだぜ。今度、サーヴァさんにコツを教えてもらうんだ」
「…………」
「シスター? どうした?」
手で覆うことすらわすれて、シスターさんは口を開けっ広げにして絶句した。
多分、前までのアシでは考えられない働きっぷりなんだろうなあ。
うん、まあ、あれだ。
想定以上にアシの囲い込みには成功してるんだと思う。
本当はサヴァさんと一緒に、使える使用人を作るだけだったんだけどなあ。
とりあえず喜んどこうか。
わーいわーい。
アシの称号は感想欄で考えてくれたのを踏まえて考えますね。ありがたや




