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転生怠惰譚~ゆるゆると生きてたい~  作者: おばあさん
第一章~転生して良くも悪くもめんどうくさい~
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九話 〃 ―③

 彼曰く、彼自身もまた世界を越えて転生した身であるらしい。

 そしてそのことを覚えている通り、少しだけだけど前世の記憶と神様との邂逅も覚えているようだ。


「つっても、覚えてるのは思い入れの強いものや、長く親しみのあったものぐらいだ。あとはどうでもいいことがちらほらとって感じで、穴ぼこだらけでクソほど役にも立たねえ」


 そこで彼は、水平線の先を見据えながら、焦点の合わない目をした。


「それでも、もっと小さい頃から自意識みたいなのはえらくハッキリしてたから――苦労で心が潰れかけはしたけど――まあここまで死なずにすんだ。フラワと一緒に、な」


 左の手で右のわき腹を摩りながらアシは言った。

 何があったかはわからないけど、大変な目にはあってそうだ。

 彼は遠くを見ていた目をこちらに戻して、今度は上を見上げて想い起す様に唸る。


「そして、んー。神様がどんなヤツで、どんな姿してたとかもあまり覚えてない。……スゲー脚が綺麗だったことぐらいだな。後はやたらぼけーっとしてたような……それと会話がちらほら」


 また脚かよ。

 まさか神様に会ってまで脚かよ。

 さぞ綺麗なんだろうな!


 それは置いておいて、会話か。

 脚フェチの彼は神様と何をお話ししたのかな?


「何を話したの?」


「転生したら何が欲しいとか……ああ、そうだ。なんか、俺はたまたま流れてきたとか言ってたな」


「たまたま流れて?」


 一体どういうことだろう。

 世界間の異動が、たまたま起こり得るとでも言うのかな?


「なんでも俺が死んだとき、運悪く別の魂が移動する最中らしくてな。どうもそれに巻き込まれたっぽいぜ。異動による消耗? みたいなのも抜きでこっちに流れ込んできたから、とてもラッキーだ……って、どうでも良さそうに言われたような」


「ふうん……いくらか、ねえ」


「詳しいこと聞かされた気もするけど、忘れちまった」


 巻き込まれていくらか、か。

 はたしてどう巻き込んだのかなそれって。

 それに、他にも来ちゃってるらしいね。

 一体どれだけ来たかは分からないけど、ヤバいそう。

 でも、元々死んで現世から離れていた魂だろうし、別段そうでもないのかな。


 僕、神様じゃないからわかんな~い。


「お前もそうなんだろ?」


「どうだろうね。僕が会った女神様は丁度謹慎中で、あまり詳しいこと知らないみたいだったから」


「神様にも謹慎なんてあるのか」


 あ、やっぱそこ喰い付いちゃう?

 じゃあとっておきの情報だ。


「断髪もするらしいよ」


「マジかよ」


「そしてそれで落ち込んじゃうんだ」


「カワイイなおい」


 だろうだろう。

 ミルイニちゃんは可愛いのだ。




 そこまで話し込んでいると、大分日が傾いていた。

 まだ空は赤らんでいないけど、浜辺で遊ぶ人たちの数が減っていってる。

 それ故か、それとも彼の何らかの感情のせいか。

 小さかった声が少しずつ戻っていく。


「……多分、この空間魔法ってのは空神――セポーセって神様に俺が願ったんだろうな。何をどう願ったとかどう受け答えしたとか全然覚えてねえけど……そう言えばお前は? なんか願ったんだろ。もしかしてその寵愛?」


「僕は前世の記憶だよ。力とか興味なかったし、だったらこの記憶継続させてって」


「……それでそのぶっ壊れたステータスしてんの? お前の才能? それとも女神の愛?」


「どっちもぉ」


「あ、うぜえ。そのドヤ顔うぜえ」


 凄い鬱陶しそうにするアシが、あっちに向けと手でしっしと払う。


 ドヤ顔ね。

 積極的に使ってこう。


「まあ、寵愛を受けてる理由は少し分かりかねるところあるけど、加護自体は僕が『信仰する』って約束したからかな。ミルイニちゃんには一目惚れしちゃったからさ」


「はー。なるほどねえ。俺は全然そんなことしてないなあ」


 ダメダメだな。

 まるで愛が足りてない。

 記憶に残る脚してんなら、ちゃんと崇めてあげなよ。


「ミルイニは、海神だよな」


「様を付けろよ」


「……ミルイニ様は、海神だよな。じゃあ、【重力】の魔法はお前の才能か?」


「そういうことになるだろうね」


「うわあ、天才かよ。棚ぼたの俺とはちげえなあ」


 棚ぼた、ね。

 確かに考えてみれば、彼の魔法は――そもそもここに転生したこと自体が――偶然に依るものだろう。

 でも、偶然なんてどこでだって起きるし誰にだって起きる。


「持ち腐れにしないなら、棚ぼたでも悪くないでしょ」


 拾ったものでも、与えられたものでも、借りものでも。

 使えないなら持ってても意味がない。

 あるだけのものに意味なんてない。

 だったらヘタクソだろうと、使える人が持ってる方がマシだ。


「そうかあ?」


「そうそう。……だから自分の神様ぐらい信仰したら?」


 ここの神様は、しっかり応えてくれるんだから。

 だったら縋らなきゃ損損、ってね。


「あー……そうだなあ。実際、この世界には神様がいるって分かってるしなあ。感謝も込めてしてみるか」


 アシは遥か上を眺めて言った。

 信仰が神様にメリットのある行為なのは、僕が証明したからね。

 リターンがあるかは分からないけど、無駄なことじゃないと思う。


 アシは、ボソっと空に呟いた。


「……今度拝んでみっか」




 そろそろ夕陽が水平線に近づきつつある。

 時間も時間なので、帰ることにした。

 今度はアシですぐに帰れるから、楽だなあ。


「なあ」


 アシはその直前、僕に尋ねてきた。


「お前って前世でも神様信じてたのか?」


「え?」


 突然、どうしてだろうね?


「いや、やけに信じてるしさ、神様のこと。もしかしたら前世でも、見えもしないのに、どうもいたらしい地球の神様のこと信じてたのかなって」


「んー……この世界の神様は、記憶保持のおかげで会ったことを覚えてるから、まだ強く信じられるってだけだよ。偶に、別の神様だけど話したりもするし」


「そんなこともあるのか」


 興味深そうにしてから、アシは再度尋ねた。


「で? 前世では?」


「文脈で分かってよ」


「分かるか」


 うん、ごめん。

 今のは僕が無茶を言った。


 僕は仕方ないから、それに答えた。


「……信じてないよ。神様、っていうの、あまり好きじゃなかったからね」


 ミルイニちゃんに会うまでは、だけどね。


 アシは『そうかい』と一言言うと、≪テレポート≫を発動させた。

 彼の魔法はさっきと変わらず、ヘタクソだった。


ま、そういうわけでしたとさ

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