九話 変態は世界を越える? ―①
だったら私も越えてみたいです。
画面、とか。
場所は、本日で二度目となる孤児院の大広間。
子供たちが、無重力場で色々な遊びに興じているのから目を離し、隣に座るアシにニヤニヤと笑いかけた。
「やあ。一週間ぶり妖怪スプーン。拳骨の味はどうだったの?」
「最悪だったよ。くそっ」
頭の上に治りかけのたんこぶを作ったアシは、僕の方を見ないで苦々しい顔を作る。
多分、怒られたことを思い返してるんだろう。
何があったか、詳細は分からない。
けど、シスターさんから聞いた限りだと、相当こっ酷く怒られたみたいだ。
怒るつもりだったシスターさんたちの方が気圧されて、怒るに怒れなかったぐらいらしい。
寧ろちょっとだけ気遣われたとは、アシの弁だ。
「魔法がバレたのが痛かった……それで芋づる式だった」
「魔力でバレるよヘタクソ」
素直にあのままあの場にいて、抜け出したと言えばよかったんだ。
そしたら魔法がバレることは、もう少し先の話だったと思う。
というか魔法の練習で人のお菓子とるのがそもそもいけないんだけど。
やってることは性質の悪い悪戯だしさ。
雷が落ちても仕方がないでしょーに。
「ア゛ア゛ー!」
シフはぐしゃぐしゃと頭を掻きむしる。
ちょんとタンコブに触れて地味に痛そうにするのが、バカっぽい。
「ふわ~。あに~」
発狂中の彼にふわふわと近づいてきたのは、彼の被害に遭ってたふわふわちゃんだ。
彼女は心配そうに彼のことを“兄”と呼ぶと、ゆっくりとした動作でこぶに手をかざそうとした。
彼はそれを、手で制した。
「フラワ、いい。治したら、怒られんだ」
「また~?」
「そう、また。だからこれは気にしないで、お前は遊んで来い」
「わかった~……」
しょぼーんと肩を落として、ふわふわちゃんはアシに押されて再び宙を漂った。
彼女……ふわふわ以外に喋れたのか。
「あの子、妹だったの?」
「あー。まあ、見りゃ分かるだろうけど血は繋がってねえよ」
そりゃあねえ。
頭髪も顔立ちも違い過ぎるし。
繋がってるって言われた方が驚きだよ。
僕は彼をジッと見つめる。
「……なんてことはねえよ。ここに来るまで兄代わりだった。それだけだ。まあ、今もだけど」
「……妹からお菓子とる兄とか死ねよ」
「あ、そっち!? 気にしてたのそっち!? 分かりづら!」
やー、同じ兄としてどうかとおもう。
寧ろ分け与えてやるぐらいのことをしなよ。
リアねえはその上あーんまでしてくれるんだぞ。
いいお姉ちゃんだろ!
「……一応、フラワからは許可取ってたよ。食べたいって時は取んなかったし」
「でも結局他の子からは無許可でしょ?」
「はい」
「僕だったら見つけ次第潰してたね。ぷちっと」
「洒落にならねえ」
はあ、とため息をついて。
「そんなヤツの家に二週間も行かなきゃいけねえとか、ほんと、どうなるんだか……」
と、もう一度ふかーくため息を落とした。
まあ、ソレが彼に下された罰の一つだ。
子供たちに迷惑をかけた分、一ヶ月間おやつ抜きとお風呂掃除。
そして僕に迷惑をかけた分として、その前に二週間、僕の家で下働きだ。
因みに、僕の提案だ。
外堀から埋めてって僕から逃げれなくするよ!
家族――特にサヴァさんにはもう話してあるから、準備は万端だ。
そんな僕の思考が伝わったのかは分からないけど、彼は苦虫を噛み潰したような顔で。
「……ちょっかいかけんじゃなかった」
と後悔を口にした。
「ま、僕に襲い掛かる“フリ”したことまだ言ってないし、言われたくないならキリキリ働いてね」
「……悪魔め」
シフトの嘆きに、僕は満足気に頷いた。
☆
そして僕が帰る時刻になって、それにアシが付いてくる。
お昼寝の時間なので、見送りはシスターさんと特別にふわふわちゃんだけだった。
「あに~ふぁいと~」
「アキラ君。しっかりね?」
「わーってます。……フラワも。仲良く、な」
「……うぃ」
「ケガすんなよ」
アシがポンと彼女の頭に手を置いて薄緑の髪をくしゃくしゃにする。
ふわふわちゃんは眉を細めて、こう、表情がふわ~ってしてた。
もっと言い方があったかもしれないけど、多分これが一番合ってる。
手を振りながら二人で帰路につく。
僕は彼女らの姿が見えなくなってから、疲れた様に息を吐いた。
「歩くの怠い」
「浮いてるやつが何言ってんだお前」
二人は見えなくなったけど、家までは歩きなのだ(浮いてるけど)。
どうも≪テレポート≫はアシが行ったことのない場所には使えないらしい。
「大体、そんなに時間かかるわけでもないだろうが」
「怠いよアシ」
「こんぐらい気張れって」
「一メートルは百メートル」
「MIDバカ高いクセに精神軟弱過ぎんだろ……っ」
「根性論はどっちかと言えばVIT」
「それでもだっつのっ」
「てか背負えよ足」
「お前浮いてんだから必要ないだろ!? さっきからさあ!」
いや、疲れはしないけど。
それでも使わない方がラクじゃないか。
「あ。あの家」
「あ? デカいなおい」
「ほら、跳んで。使って」
「もうここまで来たら別にいいだろ……どんだけ貧弱もやしなんだよ」
「褒め言葉はいらない」
「いや褒めてないから……」
“貧弱もやし”かあ。
言い得て妙だし、称号増えるかな。
ルンヴィちゃんがやってくれそうな予感がするけど。
あ、そうだ。
「海。連れてって」
「今更かよ!? 孤児院出る前に言えって」
海から家に行くより、孤児院から家に行く方が近いんだよ……理由は後付けだけど。
言う必要ないから言わないけど。
そんなことしてたら家の前まで着いてしまった。
僕は無言で『さっさと行け』って急かす。
「分かったから加重すんなっ。ああもう――≪テレポート≫」
たった一言でフッと、視界に移る景色が変わった。
アシ入ると会話多いですねえ。
そして会話がやたら流暢です。
毎日更新一ヶ月かぁ……




