八話 〃 ―③
『お久しぶりっスベル坊』
更に一週間たって、いつも通りにお祈りしてたら二週間ぶりにルンヴィちゃんが話しかけてきた。
『久しぶり。どうしてたの?』
『不注意で魔物をやっちゃったっスから、ミルイニから大目玉喰らってたっス』
『ああ、なるほどね』
ルンヴィちゃんが森の神様だからね。
怒られるだろうねえそりゃあ。
『やー、ごめんっス。折角のところを邪魔しちゃって』
『んー……もう気にしてないよ。しかたないしかたない』
――神様なんて、そんなもんだろうし。
という言葉は飲み込んだ。
言おうとしたけど、神様と一括りにすると、頑張ってくれたミルイニちゃんまで含めたような言い方になって、嫌だし。
『そう言ってもらえると助かるっス。あ、そうだ。加護いるっス?』
『いらない』
『つれないっスねえ。別に、加護の複数持ちは珍しくないっスよ?』
そう言うわけじゃあない。
ただ、ミルイニちゃん以外から加護を貰うのが、なんとなく嫌なだけだ。
『ミルイニちゃん一筋だから』
『うひゃー。言うっスねえ。このこのぉ』
なんだルンヴィちゃん。
いつにもましてテンション高いなあ。
……ちょっとめんどうだぞぉー。
『ようけんはー?』
『あっとそうそう。ミルイニが謝ってたっス。後、もう少し期間が短くなるかもしれないっス』
『ミルイニちゃんが謝る必要はないよ。でも、へえ……嬉しいことだね』
『これもまたベル坊のおかげみたいっスよ~。それとはあんま関係ないかもっスけどミルイニが「女の子の水着にあんなに現抜かしてたのに、最後にあんなこと言われたら怒るに怒れない~」って顔真っ赤だったっス』
『超見たかったっ!!!』
写真はないんですか!
その場を収めた写真か何かはないんでしょうか!!!
『……ベル坊、そんな叫ぶの初めてじゃねっスか?』
『叫ばずいられなかった』
『あ、戻ったっス』
流石に何度も叫ぶ気はないよ体力減るし。
頭の中で会話してるみたいなもんで、体力とか関係ないけど。
『あー。あと、好きなお菓子は? って質問なんっスけど……』
『プリンとかヨーグルト』
『だと思ったっつか見てたっス。はいはいっと……そうだそうだ』
(実際そうだけど)思い出したように、ルンヴィちゃんはやや不安そうに尋ねてきた。
『大丈夫なんっスか? 手紙で呼び出して、これから会うんっスよね? ケガしないかってミルイニがかなり心配そうにしてたっス』
……サヴァさんといい、ミルイニちゃんといい。
なんなの? 僕ってそんなに頼りないの?
確かに殴り合いみたいなのは苦手だし、そこまで体も強くないけどさあ。
でも僕、魔法使いだよ?
『やられたら、二発目はないから』
『? ――ああ!』
気づいてくれたみたいだね。
なるほどなるほどと頷いたルンヴィちゃんは、しかしいやいやと頭を振った。
『それ、そもそも殴られる必要あるっスか?』
『触りに行くよりめんどうじゃないじゃない』
『面倒で殴られる人見るの初めてっスわ』
なんとも言えないなあ。
『安心してよ。【治癒】の魔法も上手くなったしさ』
『ここ一週間練習しまくってたの、それが理由っスか』
『モチロン』
呆れた様子のルンヴィちゃんに僕は胸を張る。
『ミルイニの愚痴がひどくなりそうっス』
『がんば』
『んも~~~! もういいっス。用件は伝え終えたから今日は帰るっス! じゃあね!』
『おつかれ~。じゃあね~』
――うん。ルンヴィちゃんは、帰ったみたいだ。
はあ、それにしても心配性だなあ。
しょうがない。
折角練習した魔法は、使わないように立ち回ろう。
☆
「うーみーはーひろいーなーおーきーいなー」
そんな歌があったよなーなんて思いながら、僕は浜の手前の縁石で待ち人を待つ。
あの時ほどではないけど、依然として美しい海を眺めながら、そこしか知らないその歌を繰り返す。
「うーみーはーひろいーなーおー……お?」
気配が一つ、僕の後ろに立った。
僕はくるりと振り返ると、あの時と同じ笑顔で語りかけた。
「おそかったね」
「……ああ」
そこにいたのは、僕より背の大きい黒髪の少年。
その体躯はやや細め。
風貌はかなり整ってる。
全体的に見た目の雰囲気が柔らかい。
優男というのがしっくりきそうなイケメンだ。
その少年は、けれどすこし粗野な口調で。
「抜け出すのって、結構しんどいんだよ」
と、かなり流暢にのたまった。
「そんなの、まほーでスグじゃないの?」
「俺はお前ほど、熟練してるわけじゃないっつの」
黒色の瞳を揺らしながら、悪態をつくような口ぶりで少年は言う。
ビビってるのに、どこか肝が据わってると言うか、なんというか……。
「……なあ」
「ん?」
「なんで分かったんだ?」
「んー」
説明かあ。
めんどうだなあ。
でも、目的のためには教えておいた方がいいしなあ。
労力とリターンを計算……する労力をつかって説明するか。
「ヘタクソの魔法は、魔力で発動が分かる」
「お前思いっきり言い過ぎだろ!」
少年ががなる。
いやいや、僕にオブラートな言い回しを期待するなよ。
僕は子供だぞ、見た目は。
それにめんどうだしさ。
だから僕は事実だけを述べてあげる。
「察知して押さえて、慌てる君を見つける。君のと魔法の魔力を照らし合わせて一致。確定」
にっこり笑顔でね。
「……お前、本当に五歳かよ。どこまで魔法に精通してんだ」
「先生がすごくってね」
まあ殆どは独学なんだけど、そこは言う必要ないか。
「……その様子だと、俺がどんな魔法使ってたかも、知ってそうだな」
「まあね。教えて欲しい?」
「ご自由にどーぞ」
色々と諦めたような――それでいて何か企んでそうな――様子の彼。
僕は満面の笑みを浮かべて、答えてあげた。
「――超常系統【空間】。それが君の魔法」
「正解だぜ」
その言葉と同時に、彼の姿が掻き消えた。
受け身と【治癒】魔法の練習の成果、でるかっ!?




