七話 愛すべき海とお邪魔虫 ―①
冬だけど海・水着。
南半球が夏だからいいよね!
さあさあ、この日を待ってました!
いよいよ今日ががやって来た!
今日はみんなで、海水浴だ!
天気は素晴らしいまでに快晴!
突き抜ける程の青空だ!
……でも、女の子の柔肌にはちょっと厳しいのかもしれない。
「海日和だなあ、ベル」
「うん。たのしみ」
海パンに白いTシャツ姿のお父さんは、既に玉のような汗をかいている。
お父さんはみんなより先に海へ行って、サヴァさんと一緒に荷物運びをしてる。
……そう言えば、サヴァさんの姿は?
「――失礼、遅れました」
言葉通りにやや遅れて、サヴァさんが帰ってきた。
おかしいな。
サヴァさんの恰好いつも通りなのに、汗一つかいてない。
「とても海が輝いていましたよ。思わず目を奪われてしまいました」
「確かにそうだった。もしかしたら、海神様がベルのために張り切っているのかもな」
お父さんの言葉に、僕は肯定も否定もしかねる。
どっちかと言えば、拗ねてそうなんだけど。
でも、なんだかんだ優しいんじゃないかなって信じてるけど。
「――よし、これで最後だな。お母さんたちは教会の方へ着替えに行ってるから、先に俺たち二人で海に出ようか」
休日の教会は海水浴のお客さんのために、着替えの場所として開けている。
ただし女性専用である。
女性専用である。
僕そっち行きたいな。
「準備はいいか?」
まあそんなわけにはいかないので、大人しく海に行きます。
荷物を担いだお父さんに、親指を立てた。
「……ばんたん」
僕も既に海パンだから、準備はばっちりだ。
「じゃあ行くか! サヴァ、留守は任せた」
「いってきます」
「かしこまりました。二人とも、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
サヴァさんを留守番に残して、僕たちは楽園へと歩き出す。
彼の分まで、女の子を存分に見てこようじゃないか!
燦々と照らす太陽を背負って、青々とした空を仰ぐ。
それだけでとっても清々しい気分になる。
でも、僕は次の瞬間。
スカイブルーの真下の光景に目を奪われた。
☆
碧落の彼方を望むと、深い蒼で真っ直ぐに引かれた水平線が空と海を隔てているのに気付く。
そこから静かに視線を落とせば、透き通ったマリンブルーが煌々としながら広がっている。
その細波が見せる幾千の輝きは、星の瞬きに勝るとも劣らないだろう。
そうして海の星々を泳ぎつつ視線を此方へと戻していけば、水はただただ透き通っていき、白々と敷かれた砂浜へと波と共に行き着く。
寄せては返す波のように、僕の目もまた海の向こうへと戻っていく。
「目を、閉じてみろ」
その最中、そう聞こえた通りにすれば、耳に届いたのは幽かな潮騒。
それが僕の心を凪ぎ、けれど揺られるような心地になって安らかな気持ちになる。
「……ここは、普段は人が多く来るからな。こんな景色はもしかしたら、後にも先にもないかもしれない」
ふっと目を開いて、僕と同じように足を止めて目を奪われたお父さんを見る。
そしてそれに倣うように――はたまた惹き付けられるように――また、海を眺める。
……嗚呼、多分、目ではないんだろうね。
――僕はこの海に、心を奪われたんだ。
☆
「……」
「……」
どれほど時間が経ったかは分からない。
長いようで短いような、でもやっぱり長いような。
ああ、もう、目を閉じてもマリンブルーが広がる。
目を開けていても、細波に揺られる。
潮騒が凪いだ心に響き続ける。
なるほど、やられた。
僕は得心を内にしまい込む。
ゆるゆると頬が緩む。
そのままもうしばらく、世界一の大好きな彼女に見惚れる。
その後に、僕はお父さんの手を引っ張った。
「いこ。もっと、ちかくに」
「……そうだな。行くか」
この時の気分は、今までで一番浮き足立っていたかもしれない。
海に近づいていく。
彼女に近づいていく。
女の子の水着姿のこともしばらく忘れるぐらい、ただただ海に心を傾けていた。
☆
男二人で砂浜に座り込んで海を眺めていると、潮騒に混じって話し声が聞こえてきた。
というより、僕たちに届かせるように響いてきた。
「ベル―!」
「にぃーっ」
ハツラツとした声と、それに紛れた遠慮がちな声。
間違いなく、僕の姉妹の声だ。
走り寄ってくる、正装の時と同色の水着姿の二人。
リアねえはビキニタイプで、ルナはワンピースタイプだ。
元気に手を振って来る二人のその後ろには、見守りながらもこちらの奥の方――海を見つめるお母さんの姿もある。
「海! 海スッゴイキレイだね!」
「まっさおで、キラキラっ」
そうだね、と僕が答える前にはもう二人とも海に見惚れてしまって、会話が続かなかった。
お母さんもいつの間にか足を止めている。
正直、このまんまでも良い気がしてなくもない。
けど、ただずっと日に照らされながらっていうのはちょっと危ない気がするから、お父さんを突いた。
「じゅんびしてない」
「あっと、そうだな。シートを敷いて、パラソルは立てないと」
お父さんがようやく動き出したのを確認してから、僕は大きな声でお母さんを呼び込む。
気づいてくれるのに時間は掛かったけど、お母さんは小走りで僕たちの方までやってきた。




