六話 〃 ―②
教会にある本は、良くも悪くも幅が広い。
読むのに専門的な知識を要するものはない。
色々な基礎知識や常識を知るためにあるものが多い。
だから、魔法の息抜きにちょっと別の本を取ってみても、意外と読めてしまう。
……なーんてことも度々できてしまう。
そして今日もまた、久々にまじめにやってたから、気まぐれに別の本を取ってみた。
「……各種族の伝統と習慣?」
室内に僕の疑問が響く。
一人のはずだから、それに答えが返ってくることはない。
「――その本はそのまま、普人種以外の人間種族の伝統や習慣を記したものですよ」
なんて思ってたから、突然後ろから掛かった声に僕はひっくり返りそうになる。
「わっ!?」
「おっと危ない」
それを容易く受け止めた声の主――神父さんは、にこやかに笑っていた。
「ベル君は、他の種族を知らないようですね?」
「……うん」
「では、これを機に読んで、知っておくとよいでしょう。……ああそうだ。あっちの棚の黒色の本もお勧めですよ」
それだけ告げると神父さんは、数冊本を取ってからどこかへと言ってしまった。
……ビックリした。
心を落ち着けて、とりあえず言われた通りに読むことにした。
☆
人間種族(よくよく省略されて“人族”とされる。この本もそれに則って、以下では人族とする)は、大きく分けて七種類いることはご存知だろう。
普人種――ヒューマン。
森人種――エルフ。
獣人種――ビースト。
小人種――ドワーフ。
海人種――マーマン。
竜人種――ドラゴニア。
魔人種――デモーナ。
これら七種類の種族には、それぞれの異なった身体的特徴と精神性、それに応じた伝統・文化・習慣が見られる。
例えば生活環境が異なっていたり、活動時間が夜であったり、特定の神を全員が信仰していたり――などなど。
昨今では各種族間での壁が薄れつつある。
個人で言えば、冒険者のような一蓮托生の間柄。
もっと大きな規模で言えば、国家間で協定すら結んでいる。
あちこちで友好的な関係が築かれることは、もはや稀ではなくなっている。
むしろ、嫌悪感を抱いて他種族を見ることの方が稀になっている。
筆者もまた、数多くの他種族の人々と交流を行ってきた。
あちこちにある彼らの大きな集落や国にも、体当たりで関わってきた。
それ故に、人種が異なる故の色々な失敗も数多く経験している。
そんなわけだから、これから他種族と関わりがもっと深くなるのに、気づかないうちに粗相があっては困るだろう。
そのようなことがないために、ここにいくつか、私の知り得る限りのことを全て記しておこうと思う。
☆
とりあえずそこまで読み終わってページを捲ったけど、直ぐに本を閉じた。
なんか冒頭には基本的なこととか書かれてたけど、そのくせ文字の量が大量だったから。
うん、あれだよ。
必要になった時に知ればいいんだよそんなの。
読む気が失せたのでその本はさっさとしまってしまう。
そう言えば、神父さんはあっちの本もおススメだって言っていたなあ。
そっちも眺めるだけ眺めてみようか。
――『世界の魔法生物』?
☆
この世界には動植物とは別に、魔物――魔法生物――と呼ばれる存在が至る所に生息している。
それらは種族や生息地域によって性質が非常に異なる。
基本的に温和な種族。
人と共に暮らす友好的な種族。
姿を見せるのを嫌う臆病な種族。
人や他生物を襲う凶暴な種族。
意思の疎通がとれる賢い種族。
例を挙げればキリがない故にこの辺りで止めるが、それぐらい魔物の種類と言うのは――恐らく、人族以上に――複雑で多岐に渡る。
未だ確認の取れていない魔物や伝承上の魔物、地域によって性質が異なった同種の魔物などもすべて含めてしまうと、恐らく千は優に越えてしまうだろう。
この本ではそれらの魔物の――五分の一。つまり二百種を未確認や派生のものも含めて、詳細に説明しようと思う。
☆
やめやめ。
二百種って何さ。
千種類って何さ。
バカなんじゃないの。
バカなんじゃないの?
なんだってそんな一杯生き物出来上がっちゃったの。
魔物……魔法生物だっけ?
他の生き物と何が違うんだろう。
……それを知る方が絶対先だよねえ。
「はあ~~~」
二冊手に取って、どっちとも僕が読むには早すぎた結果となった。
そのせいで、やる気が一気になくなってしまった。
とりあえず『世界の魔法生物』を棚に戻して、ごろんと寝っ転がる。
こういう時はシスターさんに膝枕とかしてもらうけど、ミルイニちゃんのヘソをこれ以上曲げたくはないからなあ。
「……あつい」
部屋の中に熱が籠って、暑い。
そりゃーそうだ。
夏なんだから、暑くもなる。
それでもこの暑さに今まで気づかなかったのは、二つの本を読む前はそれなりにちゃんと読んでいたからかもしれない。
どうしよっかな。
家に帰って涼もうかな。
「ベル」
「おにい」
「んー?」
ひょこっと、入口からお母さんが顔を出していた。
その後ろにはルナがひしっとしがみついて覗き込んでいた。
「なあにおかーさん?」
「お昼ご飯。今日は一緒にお家で食べるんじゃなかったかしら?」
…………あ。
「わすれてた」
「もう、ベルったら」
「おにい……ばか」
グサッ!
ルナの言葉が思った以上にぐっさり刺さった。
妹にバカって言われると、キツいんだね。
「もう食べちゃった?」
「まだよ。ルナが一緒に食べるって言うから」
「……」
ぷいとそっぽを向いたルナに、僕は抱きつきたくなった。
なんだこの天使。
そして本当に申し訳ない。
「ごめん。きょうはもう、かえるから」
「だって、ルナ。どうする?」
「……ゆるす」
ルナ様の寛大なお心に、感謝を。
帰りはいつも以上にルナにべたべたしながらとなった。
ちっと説明っぽくなってきてます。
今話はまあ確かにそれが目的だったのですが、まだあまり重要性ねえよなあって思いながら書いてました。
因みに書いた分の半分ほどを没にしてます。
20150108_誤字訂正
進行→信仰




