六話 生き物多くて困ります ―①
洗礼を受けたからと言っても、別に日々の暮らしが劇的に変わるわけじゃない。
強いて言うなら、啓示を見た後にその子の教育方針みたいなものを固めるぐらいだと思う。
元々魔法の才能が五歳以前から露呈しちゃってた僕の日常に、何か新しいことが増えるなんてことはない。
……や、嘘だ。
書斎に籠る代わりに、ここ三ヶ月は教会に入り浸るようになった。
「……ベル、今日も教会?」
「うん」
カナリアちゃん(とたまーにロザリーちゃん)との魔法の練習が終わった後に、よく教会に足を運んでいる。
ミルイニちゃんに言われちゃったし。
それに帰りのついでに寄れるから、そこまでめんどうじゃないんだよね。
でも、ミルイニちゃんには三カ月経っても一度も会えてない。
どころか洗礼の時のような話すらもできてない。
それを不思議に思っていたら、教会の副祭神でミルイニちゃんと親しい森神って神様が。
『ミルイニはまだちょーっと謹慎中っス』
と教えてくれた。
どうやら彼女は、洗礼みたいな大事な仕事じゃないと人の前に姿を現したりできないらしい。
僕の夢枕に立った時は、洗礼の時の加護(僕の場合は寵愛)を受けるかの意思確認のためだから出てこれたようだ。
つまり今のところ、僕に顔を出すほど重要なことはないために出てこれないのだ。
謹慎が解けたら、大分自由になるらしいけど。
じゃあ、僕が何しに教会に行っているのか。
「ベルは何しに教会に行くの?」
「おいのりと、ほん」
さっきも言った通り、家の書斎の代わりだ。
意外と教会には本が沢山あるのだ。
家にはどっちかと言えば、戦闘指南の本が多くて、僕にはあまりためにならない。
でも、教会にはそれ以外の本がたくさんだから、ヒマをしない。
……ほとんどの時間を、文字を教えてもらいながら(と言ってもフリだけど)、シスターさんとのふれあいに割いているのはナイショの話だ。
「……今度ついていっていい?」
カナリアちゃんがそんなことを突然言い出した。
もちろんだけど、疑問から口にした。
「なんで?」
「……ベルの啓示、見てみたい」
ダメなら構わないと言い残して、カナリアちゃんは答えも聞かずに訓練場を後にしてしまった。
急にどうしたんだろう。
僕としては、一向に構わない、けど。
……どうしよっか。
“おっぱい魔人”。
あれ、未だに消せないんだよなあ。
☆
「いらっしゃい、ベル君」
僕が教会につけば、神父さんやシスターさんが出迎えてくれる。
神父さん以外の面々は、毎日人が違う。
彼女らは、ここから離れたところにある孤児院でも勤めているからだ。
自慢じゃないけど、僕は最近では大方彼女たちのローテーションが分かってきてたりする。
「今日も、本を読みに?」
来て初めに、神父さんがにこやかに話しかけてくれる。
「まずは、おいのり」
「そうでしたね。では、奥へ」
そして彼の背を追うように、偶像の目前までは浮いて行く。
そして祈る時だけ、足を付ける。
流石に浮いたまま祈ると、ミルイニちゃんに怒られそうだしね。
『――やっス、ベル坊』
祈ってると、たまにルンヴィちゃんが話しかけてくる。
ミルイニちゃんと僕のメッセンジャーみたいなことを、わざわざしてくれている。
『ベル坊が毎日祈るから、謹慎期間が短くなったっスよ。ミルイニが超ビックリしてたっス』
『そんなことあるんだ』
『私もミルイニも、初めて知ったっスよ。まあベル坊のおかげで、君が七歳になるまでには解けるみたいっス』
『……おー』
元々が分からないから、驚いていいのやら。
まあ、短くなったのは本当みたいだし、喜んでおこう。
『そしてミルイニから伝言っス。前世から好きな食べ物は? ……っス』
『そのよく分かんない自己紹介みたいなの、まだ続くの?』
『謹慎解けても続くんじゃないっスか?』
目的のイマイチ分からないミルイニちゃんの僕調査が、その都度繰り返される。
切欠はどうもルンヴィちゃんのせいらしいけど、彼女的にはこうなるつもりではなかったらしい。
まあ、苦ではないから別にいいけどさあ。
『流動食とかスープが好きだよ。食べるの楽だから』
『ハイハーイっス。……あそうそう。シスターさんに構いすぎっスよ。ミルイニ拗ねてたっス』
うぇぇ。それは大変だ。
今日は真面目に本を読んでよっかな。
……拗ねたミルイニちゃん見たかったな。
『神様が人に拗ねたり妬いたりって、何だって話っスけど』
『夫の浮気相手の人間に嫉妬して、悪質な意地悪する女神なら知ってるけど』
『……私ちょービックリっスわ』
何に驚いてるのかは分からないけど、全体的に驚いているってことでいいのかな?
いや、この反応はどっちかと言うと信じてないのか。
まあどうでもいっか。
『今日はここまでっスかね。またねん、ベル坊』
『またねー』
ルンヴィちゃんとの会話を打ち切って、祈りを止める。
会話は他の誰にも聞かれないで、そして一瞬程度にしかならないから、何事もなく浮き上がる。
そして最後に啓示だけ見てから僕は頭を抱えた。
『女の子大好き』なんて称号が増えてた。
しかも、非表示不可で。
ごめんて、ミルイニちゃん。
頭を下げながら、とりあえず移動した。
私も可愛い女の子は大好き。
20150107_衍字修正




