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転生怠惰譚~ゆるゆると生きてたい~  作者: おばあさん
第一章~転生して良くも悪くもめんどうくさい~
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五話 〃 ―④

 表示されたはいいけど、この啓示とやらの見方はイマイチわかんないなあ。

 でも、表示されてるだけで嬉しいものがあるね。

 “海神の寵愛”と“海神の寵愛者”。

 頬が緩む思いだ。


「君の信じる神は、より深く君に応えてくれたようですね」


「……? うん」


 ちょっと引っかかりのある神父さんの言葉に疑問符を浮かべつつも、その通りなので僕は首肯する。


「それは良かったです。では、啓示の見方について、少し教授させていただきます」


 神父さんは、僕に見えているこれについて、軽く教えてくれた。


 Statusは、その人の基本的な能力値らしい。

 最低G~最高Sの大雑把なランク付けで、現在のその人の六つの能力を表している。


 STRが筋力。VITが生命力。AGIが身体の操作能力。

 INTが知力。MNDが精神力。DEXが魔法の操作能力。


 それ以上細かい所までは流石に教えてもらう時間がなかった。

 まあ、僕は身体的にはてんでダメってことだけは分かると思う。


 Abilityはその人が扱っている技能であるようだ。

 自分が習熟したレベルに応じてランクが表示されている。

 適性によってこれには限界値があるらしいけど、表示はされないようだ。


 Giftはその人の才能みたいなものらしい。

 神様からの加護もこっちに表示されるようだ。

 これによって、自分が何に適しているかが分かり易いらしい。

 ただ、分からないこともあるらしいし、これに記されることが絶対ではないらしい。


 Nameは称号だ。

 人にどう呼ばれているかを、神様が判断して勝手に書くらしい。

 神様が勝手に決めることもあるらしい。

 ……だと思ったよ。

 おっぱい魔人とか、絶対ミルイニちゃんのせいだよ。


「その啓示は、他者に見せようと思わない限りは他者に見えません。ですが、見せたいと思えばその人たちに対してだけ見せることができます」


 彼は優しく笑いかけながら、僕に問うた。


「初めての啓示です。ご両親にも見せてあげませんか?」


「……」


 さて、どうしよう。

 見られたらマズそうなところは隠れてるけど、ちょっと見られるのが憚られるのもある。


 おっぱい魔人とか。


 これ常に表示されてちゃいけないでしょう。

 僕じゃなかったら生きてけないよ。


「……みせたくないとこだけ、みせないのはできない?」


「基本的にそれはできません。表示の変更ができるのは、称号のみになりますね」


 お、良いこと聞いた。

 念じれば非表示にできるかな?

 ……おっぱい魔人を非表示に~。


『Negative! “おっぱい魔人”は指定により、非表示不可項目です』


 これ絶対ミルイニちゃんだろ!

 イタズラが可愛いなぁもう!

 というか『受け止めて』ってもしや寵愛とこれ!?

 二つのサプライズって寵愛とこれ!?


 ……ならしょうがないか。

 甘んじて受け止めます。


「……みせる」


「そうですか」


 僕がそう言えば、神父さんが静かにお父さんたちを呼ぶ。

 やって来た彼らに、僕は啓示が見えるように意識する。


「……わあ、すごいわ。寵愛ですって」


「魔法系の能力値の伸びが、正直とんでもないレベルだな」


 お父さんたちがまず見たのは、やっぱりそういう所だ。

 僕のStatusやGiftを真剣に、でも嬉しそうに眺めていた。


 そしてまじまじと見ながら思考する彼らだけど。

 しかしリアねえの言葉でそれらが全てぶっ飛ばされた。


「ベル、おっぱい魔人だって!」


「「!?」」


「おっぱいまーじん……?」


 ああ、リアねえ。

 なんで君がそこに反応しちゃったかな……。

 いや、反応するなって方が無理だよね。

 両親もいずれ目に入ったと思うし。


 Nameにある“おっぱい魔人”を確かめた両親は、多分魔法をバラした時よりもショッキングな表情をしている。

 なんかそれ、複雑なんだけど。


「……まじんじゃない」


 僕はゆっくりと首を振った。

 そんな、魔人なんて大層なものじゃないからね。


 しかし開き直ってこれだけは断言した。


「ただおっぱいはすき」


「「…………」」


 それはもう胸を張って言いましたよ。

 遅かれ早かれ、僕のこれはばれるだろうし。


 だって可愛い子好きだし。

 おっぱいは大好きだし。


 子供のうちからバレた所で、大したことじゃないと思いました。


「……あらあら」


「……そうか」


 お母さんがどこか呆れたように笑い、お父さんが感慨深げに深く頷く。


「……お父さんに、似ちゃったのね」


 僕はお父さんを見た。

 かなりすごい勢いで顔を向けた。

 かれは今一度深く頷いて、一言。


「おっぱいは、良いよな」


「うん」


 僕とお父さんの間に、確かな絆が出来上がった。


「……おっぱいまーじん?」


 ルナだけが、しきりに首を傾げていた。




 ☆




「これで、少しは安心してくれたかな」


 何もない空間で独りごちるのは、ベルに寵愛を施した張本人――ミルイニだった。


「正直、彼がそこまで不安に思うほどの前世って、私には見当もつかないけど」


 彼女は、慈しみだけを露わにしながら、誰にともなく語りかける。


「怯える君を、私は受け入れてあげたいんだ」


 ――無論、海神として。


 それ以外の感情は、多分恐らく、彼女は無いと思っている。


「もうそろそろ、謹慎も解ける。だから、もうすぐだよ」


 そう思うとなんだか、自身も緊張してしまうミルイニ。

 聞けると決まったわけではないのに、凪いだ心が脈を打ち乱れる。




「――ミルイニー。元気っスかー?」


「うひゃっ」


 唐突に背後から声が掛かり、ミルイニは身を竦ませる。

 振り向いた先にいたその姿に、彼女は可愛らしく悪態をついた。


「……ルンヴィ。驚かせないでよ」


 ミルイニが見たのは、緑色のもっさりヘアーに、中性的な容姿の神の人柱。

 ()()の名前はルンヴィ。

 森を司る神様だ。


「ははーん」


 その慌てた様子に何か思い当たった彼女は、にやにやとしながらミルイニをからかった。

 と言っても、たった一言だけである。


「まーたあの少年っスか?」


「――!!!」


 カッと、彼女の白い頬が赤に染まった。


「図星っスね。うひゃー。こりゃめでてえ」


「からかわないでよ! もう!」


 怒るミルイニを眺めながら、ルンヴィはけたけたと笑う。

 笑って――しかし、少しだけ眉尻を下げた。


「でも、ちょっと残念なお知らせを伝えにきたっス」


「……何よ」


「どうも地球世界の神界は深刻なトラブルが発生してるみたいで、しばらくの間赴くのは無理そうっス」


「え?」


 青天の霹靂とは、正にこのことか。

 かなり意気込んでいたのに、それがいきなり頓挫してしまった。


「地球世界内の神様同士が結託しながら事の解決を計ってるみたいっスけど、それでもすぐに行き来できるレベルに回復するのは無理みたいっス」


「なんてタイミングが悪いんだろ……」


 頭を抱える前に、彼女は膝を抱えて落ち込んだ。

 傍から見れば、その豊満な胸に顔を埋めているように見えなくもない。


 ミルイニは、純粋に彼のことが知りたい気持ちもあった。

 だからその悲しみも一入なのだろう。


 その様子をルンヴィは、ちょっとからかいたい気持ちもあったが、それを押し留めることにした。


「ま、気長に待つっきゃないっスね!」


 ルンヴィは快活に笑いながら、そんな彼女の肩をトントンと強く叩いた。


「深く考える必要はないっスよ! そっちができない代わりに、今のうちに彼と仲良くなればいいっス! 『彼のことを知ってから仲良くなるか』から『仲良くなってから彼のことを知るか』になる程度で――順序がちょっと変わるだけっスよ!」


「…………」


 ルンヴィの言葉に、塞いだ顔をミルイニは上げた。

 そう言われれば確かにその通りではないか、と。


 今までは謹慎のせいで、用もなく積極的に関わることはできなかった。

 でもそれが解けてしまえば、度々顔を出してもいいはずだ。

 それに彼の言葉通りなら、教会まで顔を出してくれることもあるはず。


 そう考えると、ミルイニの心はちょっとだけ浮いた気分になった。

 ルンヴィはその機微に、目聡く喰い付く。


「楽しみっスねえ?」


「! ち、違うよ? 私はただ、もっと彼に信頼して欲しくて……」


 ルンヴィは再びけたけたと笑った。

 最近の彼女はこの調子で、弄り甲斐があって面白くてしょうがないのだ。

 逆に言えばこの調子でなければ、弄る意味がないと考えている。


 また顔を赤くしたミルイニに、しかしルンヴィは一度笑顔を引っ込めて真剣に告げた。


「ま、ミルイニがどう思ってようがそこは些事っス。どちらにせよ、ゆっくりと距離を詰めなきゃいけないのに変わりはないっス」


「……そうだね」


 あまりにも真面目な答えに、ミルイニも怒りを鎮めた。


「ありがと、ルンヴィ。トラブルのこと伝えてくれたりして」


「いやいやー。それこそ正に遅いか早いかっスよー。でも、お気持ちはありがたく受け取っときます!」


 ピシッと崩れた敬礼をしながら、彼女は揚々と踵を返してさっさとその場から去って行ってしまった。




「……距離を詰める、か」


 やるべきことを復唱して――そして気づいた。


「どうやって、詰めていけばいいのかな……?」


 彼女は謹慎が解けるまで、ずーっと悩み続けていたのであった。

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