五話 〃 ―③
教会の中は、静謐ながらも温かみのある、心の安らぐような雰囲気があった。
青と白の屋内を爽やかに輝せる、天窓から注ぎ込む日差しに目を細めながら、僕は奥の方へと意識を向ける。
教会の最奥には、煌めく海を模したステンドグラスと、どこか見覚えのある大きな偶像が立っていた。
――あれは、もしかしたらミルイニちゃんか?
だとしたら、この教会の主祭神がミルイニちゃんなのは、本当らしいね。
もう一柱、別の神様を祭っているらしいけど、彼女は別格らしい。
流石は海の町ってところだね。
……どうでもいいけど、偶像だからかあれは所々本物と違うね。
髪はロングじゃないし、おっぱいはもっと大きいし。
雰囲気もどこか凛とし過ぎている。
そんなミルイニちゃんでも変わらず可愛いんだろう。
けど、どっちかと言えば僕は今のミルイニちゃんが好きだ。
そっちの方がいいと断言できる。
「――ようこそ。海神の教会へ」
教会の中を眺めるのに集中し過ぎて、横からの声に思わずドキリとした。
荘厳な、いかにも神父らしい姿をした翁が二人の修道女を伴ってそこにいた。
「此度は、ベルフェルミナ様の洗礼の儀でよろしいですかな?」
「ええ、お願いします」
「では、ベルフェルミナ様。こちらへ」
いやあ、久々に聞いたけど、僕の名前は長いね。
なんてどうでもいいことを思いながら、神父さんについてく。
ミルイニちゃんの偶像の前まで連れてこられると、前に神父さん、両サイドを修道女さんたちに挟まれる形になった。
そこからしばらく、神父さんが一人で祝詞をあげているだけの時間だ。
一人で黙って立ってるのって、暇で怠くて仕方ないなあ。
「――五年を生きた人の子よ、汝の限りある生が、信ずる神のためにあると、誓えるか?」
仰々しく言った神父さんの言葉が僕に向けられたものだと気づくのに、ボーっとしてたせいでちょっとだけ時間がかかった。
んー……僕の生が神のためにあるか、か。
どうなのかなあ。
少なくとも、ミルイニちゃんには感謝してる。
僕の今の生が彼女のためにある、って言うのであれば僕は喜んでそれを享受したい。
でも、他の神様ってヤツのためにまで、僕の生があるかと問われれば、否と言う他ないよね。
僕はこの世界の他の神様を、ミルイニちゃん以外に見たことなんてないし。
僕に構ってくれたのも、ミルイニちゃんだけだし。
もっとはっきり言ってしまえば。
僕はミルイニちゃんだけを信じてるし、その他の神なんてのはどうでもいいのだ。
それに、約束してるしね。
どこの誰とも知らない神の下になんてつきたくない。
あんなに喜んでくれたのに、他の神を信仰なんて裏切りをして悲しませたくもない。
僕自身のため、そして彼女のために、約束を果たしたい。
そしてそのために、言葉にするべきなのだろう。
「母なる海神に誓います」
僕がハッキリと告げれば、神父さんは僅かばかりだけど目を見開いた。
何に驚いたのかは分かりかねる。
けど、彼は微笑むと『どうりで』と声なく呟いた。
「……愛を受けしこの無垢なる人の子に、どうか更なる神の愛と啓示を」
そして最後の神父さんの祝詞が響き渡るのと同時。
水色の光が僕に降り注ぐのを、確かにその目で見た。
☆
『本当に五歳になるまで来ないんだから』
……ごめんよ。
来たくなかったわけじゃないんだ。
『分かってる。どーせ面倒だったんでしょ?』
否定はしきれないなあ。
『酷いなあ。来てくれるかもって、期待してたのに。ちょっと悲しい』
……面目ないです。
『でも、嬉しいこと言ってくれたから、特別に許してあげる』
本当?
『うん。だから、私からのサプライズ。二つあるからしっかり受け取ってね?』
わあ、なんだろう。
楽しみだなあ。
『あ、そうだ。これからはちゃんと顔を出してね?』
――モチロン。
ちゃんと、ミルイニちゃんを拝みに来るよ。
あ、そうそう。
『??』
ミルイニちゃん、ロングも似合うけど僕はショートカットの方が好きだよ。
『……あ、ありがと』
じゃ、またね。ミルイニちゃん。
『……またね、ベル』
☆
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ベルフェルミナ・ゴルドス・アーケディア
Sex:Man Age:5
Status
STR:G- VIT:F AGI:F+
INT:A MIN:A+ DEX:B-
Ability
自然魔法:【水】E++
生命魔法:【治癒】F+【強化】E
超常魔法:【重力】B+
Gift
海神の寵愛
≪越界する魂≫
≪メモリーホルダー≫
≪???≫
Name
海神の寵愛者 アーケディアの奇才
重力魔法使い ナマケモノ
やる気ない努力者 ファミコン
おっぱい魔人 ≪???≫
※≪ ≫内部は
特殊条件下を除き他者に認識されません。
適性限界値は
特殊条件下を除き啓示に表示されません。
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刹那の間の、意識だけの彼女との逢瀬の後。
水色の光の全てが僕に入り込んでいった。
そして僕の目の前に、僕自身のことが記された半透明の“啓示”とやらが映ったのだった。




