五話 〃 ―②
そんなこんなで、怠惰を挟みながら不本意ながら真面目に生きて――五年。
子供用の礼装を纏った僕が、鏡の中で気怠げにしている。
相変わらずクセのある金髪を軽く整えてから、僕は部屋を後にする。
「お。ベル、カッコいいな」
いつものグレースーツとは違った、ベーシックな黒のモーニングコートで身を包んだお父さんに褒められる。
ありがとう。でも。
「くるしい」
「ははは、そうか。洗礼が終わるまでだ。ちょっと我慢しような」
ポンと頭に手を置かれ、僕は不満を醸し出しながら頷く。
分かってるけどさあ。
ボタンがキッチリ上まで締まってると、息苦しいんだよね。
分からない? この気持ち。
今日はようやく五歳の誕生日。
五歳になったら子供は、洗礼を受けることで神様の下につくらしい。
どの神様の下につくかは、なんと人による。
家系や能力、その他諸々を考慮されたうえで、どっかの神につくらしい。
マジでえ……他のヤツだったらどうしよ。
「家は代々戦神の下につくが、ベルはどこか特殊だからなあ。魔法神や水神とか。もしかしたら誰も知らない神様の下につくかもしれない」
お父さんが色々と知らない神の名前を挙げる。
その選択肢の中に、海神はないんですか。
僕、不安になってきた。
信仰したいのはミルイニちゃんなのに。
……ハッ!?
まさかミルイニちゃんが『来い』って怒ったのはそのせいだったり?
もしそうだとしたら、ヤバい。
どうしよう、顔向けできない。
僕が不安を募らせながら悶々としていると、勢いよく扉の開く音が。
「ベルー!」
視線を向けるより早く、お母さんに着付けてもらったのだろうライトグリーンのドレスワンピースを着たリアねえが飛び込んできた。
僕は成す術なくぶっ倒れた。
「ベル、カッコカワイイいね!」
「……リアねえも、かわいい」
その褒め言葉はなんだと思いつつも、夏の日差しより眩しいリアねえの笑顔に僕は文句を押し殺す。
僕のことなんて些事だろそんなの。
こんなに可愛いお姉ちゃんがそう言ってるんだからそうなんだろ多分。
≪グラビティ・ゼロ≫を密かにリアねえにかけながら、僕は起き上がる。
リアねえに気づかれたけど、彼女が跳ね回る前に僕は魔法を止めた。
「ああっ! 魔法がっ」
「……リア。折角可愛いんだから、あんまり動き回るなよ? 着崩れちゃうぞ」
「えー!」
お父さんに窘められて、彼女もまた不満を露わにした。
ベクトルは違うけど、僕たちは似てると言えなくもないのかな。
「お待たせ―」
そんなことをしていたら、とうとうお母さんがやって来た。
お母さん(あとお父さんも)はリアねえの洗礼の時と変わらない姿だ……と思う。
白基調のアフタヌーンドレス姿のお母さんはパッと見では清い美しさを放っているのに、どんと膨らんだ胸元だけがその意に反して素晴らしい。
実に素晴らしい。
「ルナ。ほら、お父さんたちにも見せてあげて」
「……ん」
おっと。
その後ろに隠れた妹のことも忘れちゃいけない。
二歳になったルナは、ちょっとシャイな天使だ。
右手でお母さんのスカートの裾、左手で自身のライトイエローのワンピースドレス(リアねえのおさがりだ)の裾をギュッと握りしめながら、おずおずと姿を出す。
「ルナもおめかしして、もっと可愛くなったなあ」
「ねー」
「あり、がと」
お父さんとお母さんに褒められて、恥ずかしそうにはにかんだ。
もじもじと体を揺らす様に、僕だけでなくリアねえも興奮気味だった。
……ん?
こっち見てる。
「おにい、かっこいい」
…………。
たどたどしく褒めてくれたルナに、僕は抱擁で応えた。
「おにい?」
「ルナもかわいい。とても」
「……ありがと」
「あー! ベルもルナもズルい―!」
「おねえは、かわいい」
「リアねえはかわいくて、きれいだよ」
「ありがとう!」
背丈の違う三人でひしひしと抱き合う。
僕たち三人はとても仲良しなのである。
☆
なんやかんやとありながら、家族五人で教会まで歩いていく。
僕は浮いて行きたかったけど、今日ぐらいは歩けと言われたので僕も歩いている。
道中話すことと言えば、メインは僕とリアねえの魔法の個々の練習の成果だ。
僕が何した、リアねえが何したと。
その都度褒められながら、今後どうしていくかを両親がアレコレ考え出す。
そんな中で僕が、先日あったロザリーちゃんとカナリアちゃんのことを話すと、お母さんとリアねえがパチパチと目を瞬かせた。
お父さんだけは苦笑いしながら、カナリアちゃんのことを話し出した。
「カナリアは、自分の隊の隊員にだけは特別厳しいからな」
「前に会った時の様子だと、想像もできないわ」
「そうだろうな。基本は口下手で、それだけで愛想はいいんだ。でも、自分の部下が相手になると、ガラっと変わる。後は……戦う相手とかにもな」
そこまでお父さんが話すと、リアねえが僕に問いかけた。
「ベルはカナリアお姉ちゃん、怖いの?」
「……ちょっとにがて」
指先で“ちょっと”と示せば、お父さんはくつくつ笑いながら大丈夫だと言った。
「ベルにはそこまでならないさ。それに、いいヤツだろう?」
それは間違いないので、僕は頷く。
彼女はとてもいい女性だ。
おっぱいは巨乳筆頭の二人と比べると見劣りするけど、しっかりと“ある”のが分かるサイズだ。
それに彼女の魅力は、子供のそれに勝るとも劣らない瑞々しい白い肌だ。
格闘をやるから掌とかは少々硬かったりするけど、腕とか頬とかはそれはもうスベスベもちもちだ。
無表情は怖いけど、笑顔はとってもチャーミングだしね!
「アレで結構、魔法のことで苦労したヤツだ。ベルにとってこの上ない味方になってくれるはずさ」
頭をぽんぽんとされて、カナリアちゃんについての話は一旦終わった。
はて、一体どんな苦労をしたのか。
気になるけど、それはまた別の機会だろう。
「着いたわ」
お母さんに言われて視線を上げれば、全体を青と白で統一された、海の町にそぐわない色合いの大きな建物。
ここが、教会なのだろう。
豪奢ではないけれど、他の建物とは雰囲気が違うように感じる。
「中はもっと綺麗だぞ。さあ、入ろうか」
お父さんに手を取られながら、僕たちはその中へと足を進めていった。




