四話 〃 ―④
ミルイニちゃん続くよ
僕は気づかれない程度にミルイニちゃんの肌やおっぱいを堪能しながら、彼女の次の言葉を待つ。
彼女が何を考えているのかは、なんとなく分かる。
立場が違ったら、多分だけど僕もそう考えると思う。
それに、その人から直接、って方が手っ取り早いしね。
でも、だ。
待つのも飽きたので、僕から言わせてもらおう。
「僕には聞かないでほしい」
「え?」
「僕の前世は、僕自身の口で喋りたくない」
ミルイニちゃんの顔は見ない。
僕は顔を伏せながら、はっきりとそう言った。
「もしかして、怖い?」
ミルイニちゃんが、僕の心中を言い当てた。
「うん。怖い」
僕は臆せず肯定した。
そう。とっても、怖い。
「なのに、聞くのは良いんだ」
「嫌だけど、それを止める術なんてないしね。あと、知ったら女神様がどんな反応をするのかが気になる……なんて。ジレンマってやつ?」
「ほんっとーにヘン!」
僕たちは笑いあう。
この雰囲気のまま話せたら一番いいんだろうけど。
僕は怖がりだから、やっぱりできそうもない。
「君の前世は、そんなに酷いのかー」
「それなりに驚くのは間違いないよ」
「そっか。――でもね」
ふわり。
彼女の細い腕が、優しく僕を包んだ。
「私、大概のことは受け止めるから。安心してて?」
「……そう?」
「うん。忘れてるかもしれないけど、私、神様なんだからね?」
ああ、そうか。
そういえば、そうだった。
「そうだね。……期待はしないでおく」
「ちょっとぉ」
拗ねるミルイニちゃんに、「ごめん」と僕は苦く笑う。
「信仰」
「?」
「してくれるんじゃ、なかったの?」
「してるよ。神様信仰は、今も昔もミルイニちゃんだけだよ」
「じゃあベル。信じて待っててよ」
ふと、僕は顔を上げた。
翡翠色の瞳と、視線が交わる。
その目の中には、母なる海神の慈愛だけ。
「……分かったよ」
「よし」
僕が頷いたと同時に、僕の体が浮いた。
ミルイニちゃんに脇を抱えられ、立たされたみたいだ。
意外と力持ちなのかな?
「あ、そうだ忘れてた。顕珠でも見たかもしれないけど、君、自然系統も【水】なら使えるからね」
「えっ、そうなの?」
顕珠で見た――とは、あの蒼色のことかな?
多分、そうなんだろう。
じゃああの輝きは、もしかしたら生命系統なのかな。
「私は海の女神だもの。司るのは水と命。君は私の加護を受けているから、自然系統【水】と生命系統全般、それに色々と水中での補正が効くよ」
ミルイニちゃんがえへんと豊満な胸を張った。眼福眼福。
「う~ん。なんか、ゲームのステータスみたいだね」
あまりやったことはないけど、そんなものがあったなあと思いだした。
パラメーターだとかスキルだとか、そんなものがあった気がする。
「実際、洗礼を受けたら大雑把な能力値は見れるよ? そんなに頻繁に見れるものじゃないけど」
え? なにそれ?
初耳なんだけど。
「そりゃそうだよねー。君、リアちゃんの洗礼でグースカ寝てたもんねー」
「あ、ははは……」
うん。五か月の頃だよね。
そこら辺で一度外に出たのは覚えてるけど、確かにずっと寝てたなあ。
おめかししたリアねえの姿だけはしっかり覚えてるんだけどなあ。
「あそこの教会の主祭神は私なんだけどなー。見向きもしないで寝てたよねー。私ちょっと悲しかったんだけど」
「それは、ごめんなさい」
信仰すると言ってこのざまだ。
流石の僕も、不甲斐無いや。
「こ、今度行くから! えっと」
「五歳になったらとか言ったら怒るよ」
「ご、五歳になったら――いたいいたいゴメン許して!」
こめかみをグリグリするのはいけないと思います!
って、ちょ、待って。本当にやばいって!
「今日は君のこと、色々と知れたしな~そうだな~――私のこと、ミルイニちゃんって呼ばないなら許してくれる」
「そ、それは無理だよミルイニちゃ、ちょ、ごめんって!」
ダメだこの子怪力だよ!
流石は海の神様、僕じゃ叶いっこない!
「ど、どう呼べばいいの!?」
「え」
ピタッと、万力の手が止まる。
ミルイニちゃんはう~んと悩むと、一つ頷いて。
「呼び捨てでいいよ」
と仰った。
「それ、一番不敬じゃない?」
「私が良いと思ったらいいの!」
「女神様、ちょっと強引過ぎるよ」
「いいの~!」
あ~あ。
今回のペースは、完全に持ってかれちゃったなあ。
これはこれで面白いから全然いいけどさ。
「み、ミルイニ?」
「…………」
試しに呼んでみたら、彼女は顔を真っ赤にした。
僕はと言えば、なんかこう、むず痒い気持ちになった。
「……や、やっぱちゃん付けで」
「ありがとう。僕も呼んでて違和感しかなかった」
ミルイニちゃんは、ミルイニちゃんだね!
よかったよかった。
ほっと胸を一撫でする。
「……あ、そろそろ時間」
ミルイニちゃんは赤い顔のまま、そう教えてくれる。
そっか。なら、僕も一つだけ聞いておこう。
「ねえ、ミルイニちゃん」
「なに?」
「どうして、僕に構おうと思ったの?」
きょとんと、呆けた後。
「え゛っ……とぉ……」
と、真っ赤っ赤な顔で言葉を濁した。
「その、君のこと、気になるから。魂の強さとか、君自身の性格とか、色々と……」
「こんなに可愛い女神様の気に留めてもらえるなんて、僕ってばなんて幸せ者なんだろうなあ」
「かっ、かわいいとか――! そういう冗談、よくないっ」
顔を伏せて、スカートの裾を強く摘まんで、僕の言葉を否定する。
「ミルイニちゃん、忘れたの?」
でも、僕の背は小さいから、容易に彼女の赤面は覗いて見える。
「僕、嘘は吐かない。お世辞の類は絶対に言わない」
だから、どうか受け止めてほしい。
僕のことを知らない今のうちに、僕の心を受け止めてほしい。
「僕、ミルイニちゃんが好きだよ。綺麗で、可愛くて、おっぱいが大きくて……そして、こんな僕のことも気にかけてくれたミルイニちゃんが――大好きだ」
「あ、うあ……」
「えっへへ。かわいいなあ」
最後にギュッと抱きしめておく。
放心状態のミルイニちゃんは、されるがままだった。
――意識が、遠退いて行く。
「じゃあねミルイニちゃん」
直前、僕はそう言葉を残して目を閉じる。
意識が落ちいく最中、ミルイニちゃんが何かを言ったような気がしたのを聞き取れなかったのだけが、今日の僕の唯一の心残りとなった。
私もミルイニちゃん信仰したいです。




