四話 〃 ―③
元旦も通常営業。
元旦なので特別ゲストです!
その後、魔法のいくつかをお披露目しながら、それ以外は普段と変わらぬ一日となった。
そして、その日の夜。
僕が眠りについたら、三年ぶりに、大好きな声が聞こえてきた。
「や、やあ。元気だった?」
「…………」
み、み、み。
「ミルイニちゃんだぁ!」
「ひゃあ! ちょっと!」
ふわっと綺麗な水色のショートカット。
煽情的な服で隠されたおっぱい。
曝された真っ白な玉の肌。
エメラルドも霞む翡翠の瞳。
神様だとはなんとなく分かるのに、どこか神様らしくない。
正真正銘どこからどう見ても、僕の大好きなミルイニちゃんだった。
迷わず正面から抱きつきましたよ!
「……ってなんで君、前と同じ姿なの? あと、離れて」
「僕だからじゃないかな」
僕は再び、ミルイニちゃんのおっぱいに埋もれている。
五歳児ベルフェルミナの姿ではなく、僕自身の姿のままだからこそできる。
……いや、待って!?
「子供の姿だったら、抱きかかえてくれてた!?」
「え、う~ん……どうかなあ。じゃなくって! 離れてって!」
「分かったよ」
パッと僕は離れる。
抱きつくチャンスはいくらでもあるしね。
今は言うことを素直に聞いておこう。
「……あっさり離すんだ」
「離せって言われたもん」
「そうだけど……」
それにこうやってちょっと残念そうにするのも可愛い。
やっぱり満更でもないんだなって思う。
「まあそれよりもさ、突然どうしたの? ミルイニちゃん」
そしてそれをあえて無視して、僕は至極マジメに尋ねる。
何故かため息を吐かれたけど、それも無視しよっと。
「ちょっと気になることがあったから呼んだの」
「人一人をわざわざ呼び込むような大事?」
「そうでもないかなあ」
「じゃあ僕に会いたかっただけ?」
「そう……じゃないっ」
わあ、嬉しいなあ。
思わず笑顔になっちゃう。
「も、もう。話すよ?」
「あ、うん。いいよ?」
「……なんで隠してたの?」
……………………。
「何を?」
「分かってて聞いてるでしょ。魔法のことだよ。一応、生まれて間もない子供なんだから、子供らしく自慢すればそれで良かったのに」
あ、ああそっちか。ビックリした。
でも、どっちにしろ答えづらいかな。
「おかしいと思ったからだよ。いくら超常系統とは言え、三歳児があそこまで重力を操るのは、ちょっと不自然でしょ?」
「確かに、そうだけど……でも、それだけじゃないよね?」
……んー。
「聞き方を変えるね。なんで、そんなに怖がってたの?」
「黙秘したいなあ」
「……」
ちょっと。
なんでそんなに悲しそうな目をするんだ。
僕、その目にはめっぽう弱いのに。
……ああ、もう。
「じゃあ、話す代わりにさ、お願い聞いてよ」
「な、なにっ!」
ぱあっと目尻に涙を溜めたまま、明るい表情になるミルイニちゃん。
しょうがないなあ。
「座ってミルイニちゃん。楽な姿勢で」
「え? こう?」
ペタンと正座で座り込むミルイニちゃん。
僕は、その上にひょいと座った。
「え?」
「このまま話させて?」
「……まあ、これくらいならいいよ」
「やった!」
後頭部をミルイニちゃんの豊満な胸に預けながら、素晴らしい感触を味わう。
正面から抱きつくのとは趣が違って、これはこれでありだー。
「……で、話してくれる?」
「あ、うん」
一瞬、忘れてたのは内緒だ。
上から覗き込んでくるミルイニちゃんを、下から見上げる。
僕は薄らと笑いながら、はっきりと女神様に告げる。
「認められないのが、怖かったんだ」
「そんな理由?」
「そんな理由さ」
“でも”と付け加えてから。
「僕にとっては、大きな理由だ」
と、再び頭と背を彼女に預ける。
「生みの親から認められない。それが怖かったんだ。……魔法は、どうしようもないぐらい利己的だけど、僕なりに、それなりに頑張ったんだ。その魔法が、その魔法で、僕自身と僕のなけなしの努力を否定されちゃったら、泣きたくなるし遣る瀬無いじゃない?」
僕にしては珍しく、長ったらしい喋りになってしまった。
「……前世では、認められなかったの?」
「ま、そういうことになるんじゃない?」
ミルイニちゃんにそう聞かれてふと、僕は一番気がかりだったことを持ち出す。
「そういえば、ミルイニちゃんはまだ僕のことを聞いてないんだね」
「う、うん。今、軽い謹慎処分みたいな、外出禁止令を受けてて、聞きに行けないんだ」
神様にも謹慎なんてあるの?
初耳だなあ。
「僕に会うのは問題ないの?」
「お仕事自体は謹慎中でもしてるの。だからこれは、神様のお仕事ってことにしてるから大丈夫。敬虔な、そう、敬虔な信徒の悩みを聞くお仕事ですっ」
あれ、ちょっと拗ねた。
のは、多分僕のせいだから今は置いておくとして。
つまりミルイニちゃんは、神様らしいことをしたかったから、僕の悩みを聞こうとした、のかな?
それとも、単純に僕を気にかけてなのかな?
聞き出し方が強引過ぎる気もするけど、いいのかなそれは?
僕は「ふーん」と鼻を鳴らす。
僕の細やかな疑問は解けたので、黙り込む。
しばらく静かになるかと思ったけど、そうはいかなかった。
「怖かったなら、なんであのまま隠しておかなかったの? あの執事さんが、どうにかしてくれそうだったのに」
どんどん突っ込んでくるねミルイニちゃん。
もしかして、前世のこともついでに聞こうとしてるのかな?
まあ、いい。
聞かれたことにだけ答えるだけだ。
「僕は嘘が嫌いだから、ってだけ」
「嫌い?」
「うん。軽い冗談とかなら別にいいんだけど、嘘で真実を隠したり捻じ曲げるのだけはやりたくないんだ。そうするぐらいなら、潔く話すか絶対に喋らない」
くつくつと笑いを噛み殺す。
「僕自身の気分でその匙加減が変わるような、たったそれだけの安っぽい矜持だよ」
「……そうなんだ」
ヘンなの、と。
ミルイニちゃんはそう言いながら、僕の髪に触れた。
「それこそ、ヘンだよ」
「そうかもね」
「面倒じゃないの?」
「嘘を重ねていく方が、絶対めんどうじゃないか」
「それもそっか」
二番目くらいの理由だけどね、それ。
多く語る必要もないから、黙ってるけど。
それからしばらく、ミルイニちゃんは無言のままとなった。
女 神 降 臨 !




