四話 〃 ―②
「……サーヴァ。知っていたか?」
お父さんは先ず、サヴァさんに確認をとった。
家のことを取り仕切る彼が、知らないはずがないと思ってのことだろう。
ちらりと僕を見た彼に頷いてあげる。
そしてサヴァさんは、僕に代わって包み隠さず話した。
「……知っておりました」
「そうか。……いつからだ?」
「私が偶然発見したのは、ルナ様のお誕生の前日でございます。その時には既に魔法を扱えておりました。……それ以前のことは、私にも分かりかねますが、ある程度は扱えたのではないでしょうか」
「ということは、教えたわけでもないのか」
「魔力制御以外に、私が教えたものはございません。それ以外のすべては、恐らく独学でしょう」
それを聞いて、お父さんは口を閉じた。
再び目を閉じて、考え込んでいるようだ。
お母さんはじーっと、リアねえはキョトンと僕を見つめていた。
……静かなのが辛い。
そう思い始めた頃に、お父さんが大きく息を吐いた。
「ルミ、分かるか?」
「ギリッギリ。極限まで魔力の無駄が省かれてる。理想的な魔法の行使ね。悔しいけど、普段じゃ絶対に気付けないわ」
「そうかあ」
お父さんもお母さんも苦笑した。
「騎士団総部隊長も、元医療班班長も感じ取れないほどの魔法か」
そして、屈託なく破顔した。
「ベルは凄いなあ」
「ね。とても凄いわ」
…………。
そんな言葉が、どうしてそうすんなりと出せるのさ。
「ねえベル! それ、私にもできるの!?」
僕が疑問を深くする前に、リアねえが嬉々として身を乗り出して迫ってきた。
「え。う、うん」
「やってやって!」
首肯した後の、リアねえの食いつきっぷりがすごい。
若干身を引きながら、僕はリアねえにも≪レビテイト≫を掛ける。
「すごーい! 浮いてる!」
なんとまあ楽しそうにしているものだ。
僕はただ、歩きたくないがためにこれを生み出したのに。
「なんでかくしてたの?」
ふよふよと浮いたリアねえが、心底不思議そうに、けれど軽い調子で僕に尋ねた。
「え?」
「こんなに面白いのに~」
へにょへにょと力なく言うリアねえに、僕は返す言葉に迷う。
……サプライズ。と、答えるのはあまり納得させられないだろう。
将来、驚かせてみようとは確かに思ってたけど。
「ヘンじゃない?」
悩んだ挙句、僕は答える代わりにそう問い返した。
「なにが?」
問い返し返しをされた。
ずっこけかけたけど、耐える。
「ぼく。ヘンじゃない?」
僕は僕なりに、これが普通ではないことぐらい何となく分かる。
それに、扱っているのは超常系統の魔法だ。
お父さんともお母さんとも違う。
「ベル? ベルはすごいよ?」
なのにどうしてこう、彼らは僕を褒めるのか。
「ね! お母さんもお父さんも、すごいって思ったよね!」
「ええ、羨ましいぐらいよ。だって超常系統って、滅多に出ないもの」
……そうなん?
というか、どういうこと?
「……ベル坊ちゃま。超常系統は他の系統と違い、とても稀少な系統でございます。遺伝に依る所の大きい自然系統や生命系統と違い、超常系統は突然どこかで発現する未知の系統でございます。もちろん、遺伝によって発現する確率は高いですが、なんの変哲も無いどこの誰から発現したとしても不思議ではないのです」
キョトンとしていると、サヴァさんが僕を助けてくれた。
そうか……超常系統って、元からそんな感じなのか。
……あ゛っ。
だからサヴァさん色々と落ち着いてたのか!?
教えてくれれば良かったのに!
「渡した指南書にも書かれていた、常識的なものなのですが」
サヴァさんごめんなさい!
サボっててごめんなさい!
もっとよく調べておけばよかった!
「だからベル~」
僕が頭を抱えていると、お母さんがスススッと擦り寄ってきた。
「お母さんにもその魔法掛けて欲しいなあ……」
…………あの。
今ではこう、僕の間抜けが浮き彫りだかどさ。
僕、さっきまで結構真剣に悩んでたんだけど?
そして今もまだ、少し悩んでるんだけど?
なんかこう、グングン力が抜けていく。
もう僕、なんでビビッてたの。
「べ、ベル! お父さんにもだな……」
ああ分かった。
おかしいの僕だけじゃないんだろ。
これが答えなんでしょ。
アレコレ考えてたのが無意味になって、僕は杞憂ってやつを身に染みて実感した。
「……≪レビテイト≫」
とりあえず、お願いは聞いてあげた。
「ついついはしゃぎ過ぎてしまったな……」
「楽しかったわねー」
「ねー!」
十分ぐらい、みんなは僕の魔法で遊んでた。
どうやらみんなは≪レビテイト≫より≪グラビティ・ゼロ≫の方がいいらしい。
家中を無重力で跳ね回ってた。
勢い付け過ぎて調度品が一つ壊れかけたって言うね。
やり過ぎ。
「さて、ベル。話を戻して言わせてもらうが」
ドキリ。
やっぱり何か言われるのかな?
「別に隠す必要はない。無暗矢鱈に使うのはいけないが、ベルがやりたいようにやるのが一番だ」
『なんなら練習に訓練場を使ってもいいし、他の魔法を教えられる人を紹介する』とも。
「ベル、生命系統も使えたわよね! お母さんが教えてあげるわ!」
「え、ずるい! 私も教わる―!」
「勿論、リアちゃんも教えてあげるわよ」
ポンと手を合わせたお母さんと、いつの間にか僕の後ろから抱きついてきているリアねえが僕を無視して会話する。
取り繕った様子はない。
本心で、彼らは僕を受け止めている。
僕のことを認めてくれている。
これがこの世界では普通の事なのか、それとも彼らが特別なのか。
それは僕には分からない。
けど。
少なくとも、前世よりは恵まれていることだけは、確かなんだろう。
「『義理と義務を全うし、後は自分の好きに生きる』。それがアーケディア家の家訓だ。だからベル、好きにしろ」
お父さんが最後にそう締めて、僕の魔法発覚事件は収束を迎える。
「……ありがとう」
それと同時に僕の重荷が一つ、呆気なく落ちていった。
私だって無重力で飛び回りたいです。
20141231_サヴァさんの呼び方で一部訂正。




