始話 愛しの女神と素敵なおっぱい
多分に私の欲望・願望が混じった物語の始まりです。
――ゆさゆさと、体が揺すられる感覚がする。
なんだろう。誰か用事かな?
「やあ、少年。お目覚めかな?」
……目を開けたら、ちょっと煽情的な格好をした、艶のある水色のショートカットをした女の子が僕を覗き込んでいた。
「おはよう少年」
「……」
「?」
僕は彼女を寝転んだままジッと見つめる。
ああ、なんて美人さんなんだろう。
今まで生きてきてこんなに綺麗で可愛らしい女の子は見たことがない。
まるで天使……いや、女神様のようだ。
ふわっとした髪の毛はサラサラしてそうで。
僕を覗く翠の瞳はキラキラとしていて。
絹のような真っ白い肌はスベスベとしてそうで。
深い谷間を作るおっぱいはフワフワとしてる。
「……ちょっと?」
「――いい。とてもいいおっぱい」
「ちょっと!」
「いてっ」
しまった。ついうっかり揉んでしまった。反省反省。やわらかかった。
「怒った?」
「怒るよ!」
だよねえ……。僕が一番親しい助手ちゃんだって怒るんだから、初対面の子なら怒って当然だよね。ちゃんと謝ろう。
「ごめんね。でも、そんないいおっぱいなのがいけないと思う」
「謝ってすぐになんてこと言うかな!?」
おっとついうっかり責任転嫁を。
これは僕の悪い癖だ。
「ごめんごめん」
「揉まない!」
「いでっ」
またうっかり揉んでしまったせいで今度はもっと強く頭を叩かれてしまう。
僕は流石にやり過ぎたと感じて、手を離して脱力した。
朱の頬を膨らませてプリプリと怒る彼女は。
「初対面の神様のおっぱい揉むなんて……なんて男の子が来たんだよ」
と、ぼやきながら仰向けに寝転がった状態の僕から距離を置いた。
ああ、待って、女神様。
「まだ抱きしめてもいないのに……」
「な、ナニするつもりだったの!?」
朱から青へと顔色を変えた女の子は、自分を抱えてもっと後ずさった。
強調される谷間が凄い、いいなって思うけど、ちょっと距離取り過ぎじゃない?
「何って、ただ抱きしめて寝るだけだよ?」
「そ、そんなのウソっ! もっとエッチなことするつもりでしょ!?」
「いやいやしないよそこまでは」
「信じられないっ!」
完全に女の子から信用を失ってしまった僕は、けれどなんとなく面白くなってきてクスクスと笑いが止まらなくなる。
ぐでんと仰向けのままの僕は、見上げる様にして彼女を眺めながらゆっくり首を振る。
「しないしない。だって、生殖行為なんてめんどうだからね」
「はっ!?」
「だから、セックスはめんど――」
「言い直さなくていいから!」
大声を張り上げて僕の言葉を遮る女の子は、荒く息を吐きながら混迷のまま言葉を溢した。
「……おかしくない? 人間の男の子って、そういうものじゃないの? ここまで露骨にセクハラしておいて、そんなこと言う子いるの?」
「ここにいるよー」
「うるさい!」
両手で自分を指差しながらニコニコと彼女の呟きに答えてあげたら、酷い言われよう。ま、どうでもいいけど。
そんなことよりも。
「ところでさ」
「な、なに?」
やや警戒気味に僕を睨む女の子に、僕は目を覚ましてから疑問に思っていたことを尋ねた。
「ここ何処?」
「い、今更……?」
口の端をひくつかせながら、女の子は可愛い顔をちょっとだけ台無しに可愛くして。
「それ、普通最初に聞くよね……?」
と、可愛く尋ねてきた。
あら全部可愛い。まあいいや事実だし。
「いやあ、君に見惚れちゃってて正直さっきまでどうでもよかった」
「もうワタシ、君のことよく分かんない……」
あはは。よく言われるよそのセリフ。
だから僕はよく言うセリフで返してあげる。
「分からないことは、分からないままに置いておこう。いつか分かるよ」
「なんで私、神様なのに人間に諭されてるの……」
「アハハハハ!」
ちょっとそれはツボだなあ。僕、神様諭しちゃった。
「まあ、気にしないでいいよ。それよりさ」
でも、流石に笑ってる暇はそろそろなさそうだから、さっさと話を進めようか。
「女神様。僕がここにいる理由、教えてくれない?」
「なんで私が神様だって分かってるの……」
それはさっきから自分で言ってたじゃん?
まあ、それは言わないで、彼女の言葉に耳を傾けるとしよう。
「……ま、まあいいか。その方が話が早いし。えっと、君がここにいる理由はね――」
彼女曰く、どうも僕は死んでしまったらしい。何があったかは知らないが。
そして死んでしまった僕は、地球の神様たちと目の前にいる女神様とその他の異世界の神様の計らいで、この謎空間に連れられたらしい。
「本来人間は死んだら、魂はそのままその世界の輪廻の輪に加わって、転生の時を待つんだけどね……ちょっと事情があってね」
事情、ね。よく分かんないけど、なんだか彼女は申し訳なさそうだ。
「君の魂を、あっちの世界からこっちの世界に移したの。だから、そのことに関してお詫びのためにここに呼んだの」
「へえ」
そりゃあまた……どうしてだろうね。
「できるだけ強い魂を選んでいるとはいえ、異世界間の異動にはかなりその魂に負荷がかかるからね。酷いと、一生か二生は弱い体で生まれちゃうから」
「そりゃ大変だ」
僕はごろんと寝返りを打って俯せになった。
「え?」
「え?」
何かおかしいことでもあっただろうか。
僕は首を傾げながらのそのそと芋虫のように女神様の元へと近づく。
そういえば、と声に出さずに口を動かした女神さまが指先を震わせながら僕を指した。
「……なんで動けるの?」
「いやまあ、僕は一応動物だからね。そりゃ動くよ」
「じゃなくて!!」
芋虫芋虫している僕を、女神様はあり得ないものを見る目つきで見ている。
「君、今さっき世界間移動したばっかりなんだよ? 目が覚めても動けない程度には、魂が消耗しているはずなのに」
ああ、なるほど。今まで僕が寝たまんまで怒られなかったのは、そういうものだと認識されていたからか。
とりあえず芋虫式前進を止めることにして、僕は“久しぶりに”立ち上がることにする。
「よっと」
「え゛ッ!?」
なんて声を出すんだ女神様。そんなビックリ姿もチャーミングだ。
それこそ思わず小走りで近寄って抱きしめるぐらいには。
「――――はぇッ!?」
「ん~~いい。とても素晴らしい抱き心地」
抱きついた僕の頭は、身長差ゆえに女神様のおっぱいに埋もれる。
両の手は彼女が逃げないようにしっかりと背に回してホールド。
ああ、良い匂い。柔らかい。スベスベ。……一生このままでいたい。
「ちょ、ちょっと何して!? というか、なんでそこまで動けるの!」
「今が女神様に抱きつくチャンスだと思ったら、めんどうくさいのを押し退けて動けた。久々に動いたわー」
「チャンス!? めんどう!? というか……『久々に動いた』!?」
混迷を極める彼女はあまりのことに口しか回らないらしい。
ちょっとかわいそうなので“落ち着け”という念を込めておっぱいを軽く揉む。
「僕の記憶では三日ぶりに移動をしたし、一か月ぶりに立ち上がったし、一年ぶりに走った感じだよ。いやー疲れた疲れた」
「なんて怠け者……というか離してよ!」
「やーだ」
はなれようとしたので再びホールドする。
どうにか僕を離そうと四苦八苦する女神様だけど、その程度じゃ僕は離れない。
というか、実は満更でもないんじゃない?
「離れてー!」
それでも僕に離れて欲しそうにするから、僕はおっぱいに顔を埋めたまま女神様を見上げて、小さく微笑んで強請った。
「しばらく、女神様とこうしてくっついていたい。ダメかな?」
「………………ダメっ」
「ちぇ」
強く断られてしまったので(凄い熟考していたけど)僕は渋々離れることにする。
もう少しだったかな? 涙目プラスしたらいけたかな?
「ん゛んっ! ……ねえ、君はなんで動けるの? さっきも言った様に、普通なら動けないはずだよ?」
気を取り直した女神様は、顔の朱みを薄くしながら真面目な声音で尋ねてくる。
女神様。持ち直したところ早々で悪いんだけど。
「それは魂を移された側の僕に聞くことじゃなくて、移した神様側で調べることじゃないの?」
「そ、それもそうだね」
呆れたように僕が言えば、女神様は思い出したように僕を見つめ直して頭を抱えた。
……『初めて見た時から思ってたけどなんだか神様っぽくないよね』って言ったら怒るかな?
彼女のそこがいいんだけど、怒るだろうなあ。
「ま、どうしても気になったら僕の元いた世界の神様にでも聞いてみなよ」
「……そうする」
僕の軽い助言で彼女はどうにか問題にけりをつけたようだ。先送りにしただけだけどね。
「話を戻すね。なんだっけ……あっ、そうだお詫び。これから君には私の世界に転生してもらうから、なんかこう……力とか才能とかプレゼントしてあげる」
とってもアバウトだなあ、それ。
実現できるできないは彼女が決めるんだろうから無茶なお願いは通らないだろうけど、ほとんど制限はないと考えていいのだろうか?
「君が来世で望む物。なにかある?」
そこらへんが曖昧なまま、女神様は僕に問うた。
望む物、か。
富、権力、才能――色々なものが頭を過ぎる。
けど、正直それらにあまり必要性を感じない。
そうだ。強いて言うなら。
「女神様」
「ダメ」
ですよね。えーでも、他に欲しいものはないなあ。
女神様がダメなら前の世界の女の子たちを呼んだりとか……。
……そういえば。
「ねえ女神様。転生したら、僕の記憶ってどうなるの?」
「もちろん、なくなるわ。それが転生の定めだもの」
「…………」
そっか。
うん。なら決まりだね。
「じゃあ、僕の願いは前世の記憶の保持がいいな」
「え?」
「未来永劫なんて言わないよ。一生分だけでいい。僕は、純然たる僕のまま人として過ごしたい」
僕の魂がアレだから、たぶん記憶の有無なんて関係なく怠惰に生き、女の子に抱きついて、色々なことをするんだろう。
でも、だからこそ選ぶならこれだろう。
「本当に、そんなのでいいの?」
「いいよ。これでいい。これがいい」
忘れたい記憶もままあるけど、忘れたくない記憶だってあるし。
それに。
「こんなに綺麗で可愛い女神様と会えた思い出、なくしたくないしね!」
「……はあ」
茶目っ気たっぷりにウインクすれば、女神様は呆れながら溜め息を吐いた。
「分かった。そうするよ」
「そうして」
あ、そうだ。思い残しが一つ。
「あと、できれば熱い抱擁とキスで送り出してほしいな」
「はあ!?」
「女神様らしくって、そういうのよさげじゃない? とっても印象に残るなあ」
「な、なななな!?」
僕がそう願えば赤面して狼狽える女神様。
何度も言うけどこれが可愛いんだ本当。
まあそれは置いておいて、本命に移ろう。
「冗談だよ。でもせめて、髪の毛を触らして」
「え。そ、そのくらいなら……ってちょっと待って!?」
よし言質取った。
“ムチャ振りから本命のお願い”作戦。
いいね、これ。
待ったを掛ける女神様を無視して、僕は手を伸ばして彼女の短い水色の髪を梳くように触れた。
「あっ」
短く声を漏らす女神様。
彼女の髪の毛は僕の思った通り、サラサラなのに柔らかい。
それでいて動く度に、仄かに良い香りが漂ってくる。
「……ヘンじゃないかな」
「なにが?」
「髪。短いの」
「とても似合っていて可愛らしいと思う」
「……そ、そう」
僕が真っ直ぐに伝えれば、彼女は真っ赤な顔を背けてしまう。
照れてるのかな? 愛い奴ですね女神様。
……でも。
「そろそろかな」
「えっ?」
「転生の時間」
梳いた手を途中で止める。
輝きを放つ翠玉を見つめながら、僕は僅かに湧き上がる寂寞を抑えて、努めて平然に告げる。
「なんだか引っ張られる感じがしてる」
「――じ、時間! もうすぐだ!」
僕がそう言うと彼女は“しまった”と顔で表しながら、僕から半歩距離をとった。
僕の手からすり抜けていった髪の感触が名残惜しい。
「えっと……君が望むのは記憶の継承で、いいんだよね?」
しどろもどろに僕の願いを確認する彼女。
流石にふざけている時間はなさそうだから、手短に答える。
「うん」
「……わかった」
女神様の手から放たれた淡い光がぽわんと纏わりつく。
これで、記憶は引き継げるのかな?
「はい、できた。後は転生するだけ」
「ありがとう女神様」
「どういたしまして。……ってそういえば普通、もっと敬うよね?」
「今更だねえ」
そこに今更、本当に今更気付いてしまった女神様が不機嫌そうに膨れっ面になってしまった。
可愛いとか思いまくってるのは別として、恐らく僕は他の神様でもこの調子を基本として崩さない。
それは胸を張って断言できるよ。
でも、この女神様は普通に“良い”と思うから、このままだとちょっと悪い気がしてきた。
……そうだなあ。こうしようか。
「可愛い女神様。お名前は?」
「……ミルイニ。母なる海を司る女神だよ」
「そっか、ミルイニちゃんか」
「ちょっと!」
『私より小さい君に“ちゃん”づけされたくない!』なんて怒鳴る彼女を見て、笑い声をあげそうになる。でも、それは我慢だ。
「ミルイニちゃん。僕は生涯で神を信仰したことはない」
僕は僕なりの誠意を籠めて、彼女に告げる。
「けど、これからの人生では、君を信仰しようと思う」
「……!!!」
可愛いからね、というのは止めておく。
折角嬉しそうなのに、水を差したくない。
「君、名前は?」
…………上機嫌な女神様に、ちょっと聞かれたくないことを聞かれてしまった。
「どうせ次の生で名前が変わる身だよ。気にしないでよ」
「いいから」
…………む~ん。どうしよ。
「んん……じゃあ、ベルって呼んで。それが僕にとって、一番親しみがあるから」
妥協して、それだけ教えた。
これも変わってしまったら、今教える意味がなくなるんだけどなあ。
なんて思っていたら。
「そっか、分かった。じゃあ、ベル」
――――女神が僕に、口づけを施した。
……額に、だけど。
「特別サービス。私からの加護」
青白い光が、僕に入ってくる。
とても心地のいい感覚。
「女神らしいこと、してみたよ。どう?」
「惚れそう!」
「バカ!」
いやいやははは。これが冗談じゃないんだな。
それを口にはしないけど。
「ま、いいや。気をつけてね」
「うん。頑張るよ」
そして僕は静かに目を閉じる。
微睡とともに、意識が底に沈んでいく。
「ベル。君の来世に、幸多からんことを」
彼女の祝福を耳にしながら、僕の意識は一旦、そこで途切れた。
☆
「…………ふう」
海の神――ミルイニは小さく息を吐く。
ようやく、少年が転生した。
そのことに安堵したのだ。
「変な子だったなあ」
少年を思い浮かべながら、彼女は独りごちる。
本当に変な少年であった。
出会って直ぐにセクハラしたと思えば、よく分からないぐらいめんどうくさがり。それでいてマイペース。
自分は神様であるはずなのに、人間であるはずの彼に終始会話の主導権を握られていたような気がしてならなかった。
というか現に、彼女が先んじて話せていたことなどほとんどなかっただろう。
しかし物分かりはよかったので、大事なことは労せずに済ませられたのは彼女にとって幸いだったか。
……そんなことよりも。
「可愛いとか」
あまり言われ慣れていないからか、思い出して彼女は顔を赤くした。
そして同時に、優しく自分の髪の毛を梳いてくれたあの感触を思い出し、更に赤くした。
くるくると、絡まない自分の短い髪を弄りながら、彼女はぶつぶつと文句を垂れる。
実は彼女、元々は腰元までの長さを誇る綺麗なストレートの美髪の持ち主であった。
それこそ、他の女神も羨むほどに艶やかで美麗な髪であり、それは彼女の自慢でもあった。
しかしそれは、やむを得ない事情で切ることとなってしまった。
それで現在、ショートカットになって少し、いやかなり落ち込んでいたのだが。
「髪の毛、このまんまにしよっかな」
小さく笑いながら、そんな言葉を溢すミルイニ。
そんな心境に至った理由は果たしてどんなワケか――それの正確なところは彼女自身にも分からない。
ただ、女神の一柱であるにも関わらず心中をあの少年で一杯にしている、ということだけは見て分かる。
「そうだ。先輩に彼のこと聞いてみよう」
先輩にはいつ会えるだろうか、と少年の元いた世界を管轄する神様の一柱のことを想い起す。
けれどやがて思考が行き着くのは(というより元から)あの少年のことで。
「どんな風に生きてきた子だったんだろう? 怠け者でエッチなのは間違いないけど……」
ミルイニは少年を懸想する。
しばらくして、他の神様に呼び戻されるまでそのまんまであった。
かつてここまで女神にセクハラした主人公はいただろうか。多分、少ない。
後、これ以降の文字数は遥かに少ないと予告しておきます。
私もおっぱいに埋もれたいです。