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九話「中央都市パールック」

 目が覚めるとガタゴトと揺れる馬車の中だった。


 あれ?

 何か変だな。

 さっきまで何してたっけ?


「うぐっ……いてぇ」


 体を動かそうとしたけど痛くて無理だった。

 思わず声が出たけど声を出す事すら痛い。


「ユウイチさん!? 起きたんですか?」


 少し離れた所からコゼットの声が聞こえた。

 慎重に首を動かす。

 よし、ゆっくりなら何とか動かせる。


「コゼ……って近いよ」

「大丈夫ですか!? どこか痛い所はありますか!?」

「どこがというか全身が痛いな。あー、どのくらい寝てた?」


 いつの間にか目と鼻の先まで来たコゼットが慌てたように聞いてくる。


「えとえと、一日は経ってないと思います。体の内部の怪我がヒールかけても治らなくて……目を覚ましてくれて良かったです」


 内部? ヒールで治らない?

 というかなんで怪我……あ。

 そうか、ブラッドオークとやらと戦ったんだったな。


 内部の怪我ってのは筋肉とかそういったのだろう。

 よく分からんが。

 オッケー。だいたい理解した。


「ヒールで治らないのは気にするな。多分そういうもんだ」

「……? 休んでいれば治るんですか?」

「あぁ、治るはずだ。一、二日くらいはあんまり動けんかもしれんが」


 恐らく例の新しい魔法か何かの副作用だろう。

 あれは体に悪そうな成分が一杯入っている感じがしたからな。


「おっ、目を覚ましたのか!」

「ほんとだー。起きてるー」

「大丈夫ー?」

「おい、あんまり騒いでやるな」


 どたどたと足音が聞こえたかと思うとコンラッドパーティーがやってきた。

 ふむ……。


「そっちも全員生きてるな。無事でなによりだ」

「なんとかな。しかし聞けば後半はユウイチ一人で戦ったそうじゃないか。よく倒せたな」

「自分でもよく倒せたと思うよ。途中死を覚悟したしな」

「ここまで来ればパールックも後少しだ。ゆっくり休んでるといい」

「見張りは私達に任せてー」

「そうそうー。任せてー」


 軽く話した後コンラッド達はそれぞれの持ち場へと戻って行った。

 と、思ったら獣人族姉妹の片割れエドナが戻ってきた。


「外に出て思い出したけど私休憩中だったー」

「そうか。まぁのんびりしてればいいんじゃないか?」

「そだねー。それにしても本当凄いねー。ブラッドオークを単独で討伐なんてCランクの人達でも難しいよー」


 そうなのか。

 だけど単独じゃないしな。

 しこたまダメージ与えてからのソロだったし。


「エドナ達が大分削ってくれてたからな。そのお陰だよ」

「またまた謙遜しちゃってー。私は強い人好きだよー。あ、ねぇねぇ! 私と結婚しない?」

「ぶっ」


 吹き出したのはコゼットだ。


「だだだだめですよ! 何言ってるんですか!?」

「あれー? ユウイチは独身だったよね? あ、コゼットちゃんのものだったー?」

「そっ……そうです! だからダメです!」


 そうです! じゃねーよ。

 事案になるからやめてくれないかな?


 エドナもニヤニヤしてるじゃん。

 最初からおちょくる気だったなあれは。


「エドナ、からかうのもそのくらいにしておいてくれ」


 このままだと俺までからかわれてしまいそうだ。


「えっ……?」

「いやーコゼットちゃん可愛いねー。さて、私そろそろ見張りだからじゃねー」


 最近エドナの性格が露出してきたな。

 旅の最初の頃はまだ大人しかった気がする。


 隣を見るとコゼットがみるみる赤くなっていく。

 可哀想だから助けてやるか。


「ぁ……あの……その……」

「コゼット、喉が渇いたから水を出してくれ」

「えっ? あ……わ、分かりました!」


 さらっと流してやる。

 これが大人の対応だろう。多分。


「何か食べる物も頼めるか?」

「はい、すぐ準備しますね」


 さて、コゼットはこれでいいだろう。



 新しく覚えた限界突破(リミットブレイク)


 あの瞬間理解出来たのは身体能力の上昇。

 実際使用して更に判明したのは思考がやたら攻撃的になる事、それと反動か。


 使った瞬間に負けるなんて考えが無くなった。

 ブラッドオークを倒し……いや、殺したいと思った。


 敵味方の区別はつくようだが危険だなアレは。

 勝てない敵にも喜んで突っ込んでいきそうだ。

 あとやっぱり反動が酷い。

 接近戦限定だと今ならゴブリンに殺される自信がある。



 ……しかし危なかったな。 

 低ランクの魔物をあっさり倒せた事で危機感が薄れていたのか?

 ランクが高くなったらザコでもくそ強いじゃないか。

 危うく死に掛けた。

 

 今はこっちが現実なんだ。

 気を引き締めないとな。


「ユウイチさん、お水とご飯です」

「おっ、早かったな。ありが……ぐっ」


 起き上がろうとするが、痛みで思わず顔をしかめる。


「だ、大丈夫ですかっ!?」

「大丈夫だ。でも一人ではちょっとキツイから起こしてくれるか?」


 コゼットに手助けしてもらい起き上がる。


「ふぅ。身体を起こすだけで手助けが必要とか老人になった気分だ」

「何言ってるんですか。怪我してるんですからしょうがないですよ。あっ、そんな体じゃ一人で食べれないですよね? 食べさせてあげますよ!」


 確かに腕も痛いが頑張れば食べれるだろう。


「いや、多分大丈夫だ。渡して貰えれば頑張って食べるぞ」

「いえ! 落としてもいけませんし。ほら、口開けて下さい」


 やる気に満ち溢れてる顔してるな……。

 仕方ない、ここは折れておこう。


「あの、カーティスさんから聞きました」

「ん? 何を?」

「戦ってた時に、わ、わたしだけでも逃がそうと頑張ってたって……そ、その……ありがとうございます」


 ……そうだったか?

 そう言われると逃げろって言ったような気もするが。

 戦闘の終盤はハッキリ覚えてるんだが途中の記憶が曖昧になっているな。


「そう、だったな。うん。無事で良かったよ」


 せっかく感謝してくれてるようだし礼は受け取っておこう。

 無事で良かったと思うのは本心だ。



 その日は夜眠るまで終始コゼットの世話焼きが発動し続けた。



------



 翌日、何とか動けるくらいには回復した。


「本当ですか? 本当に大丈夫なんですか?」

「何度も言ってるけど大丈夫だって」

「昨日ちょっと動くだけで痛そうにしてたじゃないですか」


 しかし先程からコゼットがうるさい。

 まるで過保護なかーちゃんのようだ。


「寝たら大分良くなったんだよ。ほら、動けてるだろ?」


 そう言って軽く体を動かす。


「そうですけど……でも……」


 まだ納得してないのか。

 コゼットってたまに頑固なんだよな。


「まぁ心配するのもしょうがないだろう。なんせブラッドオークと戦い終わった直後のユウイチは血だらけだったしな」


 コゼットと言い合ってると、そこへコンラッドがやってきた。


「あぁそういえばコンラッドに聞きたい事があったんだ」

「お? なんだ?」

「Cランクのブラッドオークであの強さって事は、Bランク以上の敵だと一発でも当たれば俺達死ぬんじゃないか?」


 コンラッドとかいきなり吹っ飛ばされて気絶してたし。

 本人の前では言わないけど。


「いや、俺達は防具がDランクの魔物素材じゃねーか。Cランクとは言え一撃の破壊力はBランク相当と言われるブラッドオークには大して意味ねぇだろうよ」

「ふむ……なら相応の素材で作った防具を俺達が装備すればブラッドオークにもあっさり勝てたのか?」

「戦闘の経験が俺達はまだ浅いからな。あっさりとは言えんだろうが少なくとも一撃で気絶なんて事にはならなかっただろうよ。仮にCランクの魔物素材で作った防具だとダメージは受けるだろうがそのまま戦えると思うぞ。その防具で攻撃を受けたのに耐えたユウイチが凄いんだ」


 よく勝てたもんだ、と呟くコンラッド。


 ふむふむ。

 やっぱ装備って大事なんだな。


 ジャージから今の装備だからな。

 数値化されない以上性能の差ってのがイマイチ分からん。


「ま、頑張っていい装備手に入れろって事か」

「そうなるな。俺もそろそろCランクに上がるだろうから装備買い替えたいぜ」


 しばらくコンラッドと雑談をしていると獣人族姉妹がやってきた。


「長い旅も終わりだよー」

「着いたよー」

「おぉ! 着いたか!」


 外に出ていく三人。


「コゼット、俺達も出ようか」

「はい」


 外に出ると目の前には大きな建物が並ぶ都市の入り口まで来ていた。

 ここが中央都市パールックか。


 ここは世界にある四つの国と繋がっているらしい。

 北に向かうとノスというドワーフが治める国。

 西に向かうとウェストというエルフの治める国。

 南に向かうとシュドという獣人族の治める国。

 東に向かうとイストという人族の治める国。


 中立地帯で交易が盛んなのが特徴……と、教えて貰った。


 依頼主のマルクさんは商品の点検を終わらせるとこちらへ歩いてくる。


「皆さんお疲れ様でした。アクシデントもありましたが無事ここまでこれて何よりです。それではここまでで構いませんので皆さんはギルドで報酬を受け取って下さい」


 マルクさんがそう言うとギルドカードの【遂行中】と書かれてあった文字が変化し

【達成】と現れた。


 コンラッドパーティーと一緒にギルドに行き、報酬を受け取る。

 お互いに二言三言ねぎらいの言葉を掛け合うとそこで解散となった。


「さて、コゼット」

「なんですか?」

「宿を取った後ちょっと観光したいんだけど、疲れてなかったら一緒にどうだ?」

「行きます行きますっ!」


 近くにある安めの宿で部屋を取る。

 報酬だけでなく護衛の途中で狩った魔物の魔晶石も売った為そこそこの手持ちはある。

 が、無理に高い宿を取らなくてもいいかとコゼットと二人で決めた。


 ぶらぶらと二人で歩く。


 建物の形はイストとあまり変わらないように思える。

 しかし宿や露天の数はこちらの方が圧倒的に多い。


 石畳な所は変わらないが、灰色一直線だったイストとは違いこちらは茶色系統のものが敷き詰められている。


 しばらく歩いているとふとある記憶が蘇る。

 この町……トリックスターオンラインで拠点に使ってた町と同じか?


 記憶が正しければ武具屋は北エリアにあったはずだ。

 道具屋は……確か、西。


「ちょっと気になる事あるから向こうに行ってみてもいいか?」

「なんですか? 気になる事って」


 コゼットにゲームの記憶がひっかかっていると伝える。


「そういう事ですか。いいですよ。行ってみましょう」


 十分程歩くと町並みに変化が見られた。


 先程までは大きな通りであちこちに露天があったが、今はそんなものは一切なく鉄を打つ音がどこからか聞こえてくる。

 次第にそれらしき店が見えてくる。


「お、アレは店か?」

「みたいですね。でも本当にありましたね」


 驚いた様にコゼットが話す。

 店の看板を確認してみるが、イストの武具屋と同じマークだった。

 記憶は正しかったと思っていいだろう。


「拠点はどうなってんだろう?」

「拠点?」

「あぁ、俺達が宿を取った近くにゲーム時代使っていた施設があるんだ」


 正確には拠点に飛ぶ為の転移装置がある場所……だけどな。


 コゼットを連れて元の道へと引き返す。


 記憶の場所を訪れると赤い屋根の木造住宅が建っていた。

 割と小さい家だ。

 申し訳程度だが庭もついている。

 分かってはいたが転移装置なんぞは無かった。


「あっ、ユウイチさん。ここ貸家ですよ」

「へぇ。今は誰も住んでないのか」


 手入れはされているようだが、管理店の名前が書かれてある立て札があり空き家となっている。

 ご丁寧に値段まで書いてあるが、残念ながら今の所持金では足りない。


 足りない、が。

 この家いいな。

 気に入った。


「コゼット、お金貯めてここに住まないか?」

「ここにですか?」

「ずっと宿暮らしってのはなぁ……コゼットは家持つの反対か?」


 宿暮らしも悪くはないが、やっぱり自分の家も欲しいと思ってしまう。


「い、いえ反対じゃないです! 賛成ですっ!」


 コゼットの許可も貰えた所でどのくらいで借りれるようになるかを考える。

 が、この都市の周辺に居る魔物等の情報を持って居なかった。



 明日辺りさっそくギルドを覗いてみるか。

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