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八話「旅立ち」

 Dランクになった。

 正確にはDランクになってから既に三日目。


 相変わらずゲーム時代の事はほぼ思い出せていない。

 というか最近忘れていて普通に異世界生活を楽しんでいる。


 新しい魔法も覚える事が出来た。

 アロイスさんが言っていた自然に使えるようになるってのは本当だった。

 魔物を倒したら急に魔法名が頭に浮かんでどんな魔法か理解していた。


 あれは不思議な感覚だったな。

 ゲームのキャラクター達もあんな感じだったのだろうか。


 身体能力が上がっているお陰で前回同様に昇格試験も難なくパス。

 昇格してからは護衛依頼が出るのを待つ日々を過ごした。


 朝ギルドへ足を運び依頼を確認。

 適当な依頼をこなし昼にまた確認。

 また適当な依頼をこなしおやつの時間に確認。

 暗くなる前にまた……と、一日に四回は確認する日々が三日。


 確認しすぎじゃね?

 と思ったが取りこぼしたくなかった気持ちが上回った。


 そして本日とうとう念願の依頼が貼り出された。



 =================

 ランク D

 依頼内容:護衛(目的地:中央都市パールック)

 場所:イスト発

 報酬:一人4000ペル、五名募集

 依頼主:マルコ

 一言:顔合わせの為一度『秋の白夜亭』においで下さい。

 =================



 報酬が少し安いな。

 冒険者側も移動したい人が受けるようだしこんなものなのだろうか。

 ま、こっちとしてはお金が稼げて目的地に行けるのならやるしかない。


 コゼットはいつでもいいと言ってたし、さっそく受けておくか。


 依頼書を手に取り受付へ向かう。


「この依頼をお願いします」

「はい。えっと……護衛依頼ですね。依頼書にも書いてありますが、依頼主は秋の白夜亭に宿泊しているので今日の夜に顔合わせの為一度来てくれとの事です」

「分かりました」

「頑張って下さいね」


 よし、これで中央都市に行けるな。

 コゼットに伝えて夜を待つか。



 夜になり木漏れ日亭にやってきた。

 中に入り宿の主人に伝えると、依頼主の所へ案内してくれた。


 そこには既に五人の男女が話し合いをしていた。

 一人は依頼主として、残りは俺と同じ冒険者だろう。


 五人枠全部埋まっているみたいだ。


「護衛依頼を受けてきた冒険者の優一です」

「私が依頼をしたマルコです。こちらの四名はパーティーを組んでいるそうで、私の依頼を受けてくれた人達です」


 空いた椅子に腰を下ろす。

 するとマルコさんに紹介されたパーティーの一人が話しかけてきた。


 歳は俺より若いように見える。

 やけに若い男だが、日に焼けた肌と鍛えられた筋肉がそれなりの風格を漂わせている。


「Dランク冒険者のコンラッドという者だ。パーティーのリーダーをやっている」

「優一だ。俺もDランク冒険者をやっている。よろしく頼むよ」


 冒険者同士だと初対面でも敬語を使わない事が多いんだよな。

 未だにちょっと違和感あるが、その内慣れるだろう。


 コンラッドが残りの三人も紹介してくれた。

 それぞれカーティス、シンディ、エドナという名らしく、全員Dランクとの事。


 年齢的にはコンラッドと大差ないのだろう。

 全員俺より年下に見える。


 カーティスという男はコンラッドと同じく人族だったが、シンディとエドナは獣人族の姉妹らしく同じような猫耳と尻尾が付いている。


 うーん。

 獣人族の耳と尻尾を触ってみたいなぁ。

 姉妹だけあって同じように尻尾が揺れ動いているのがまたいい。


「先程も言いましたが、報酬が安い代わりに護衛期間中は食事をこちらで用意しております。明日は朝の鐘が鳴る頃に合わせて出発しますのでよろしくお願いしますね」


 食事付きか。

 助かるな。

 それよりコゼットを乗せられるか聞こう。


「マルクさん、俺の他に一人連れが居るんですけど馬車に乗せてもらう事って出来ますか?」


 あくまで目的は移動だからな。

 渋られても最悪金を握らせて乗せて貰おう。


「ふむ。その方の報酬、食事の用意はないのでそれで良ければ問題ありません。元々乗って貰って移動する予定ですし。あぁ、途中で村に寄りますのでそこで食料の調達をお願いします。荷物は馬車に乗せて貰って構いません」


 そういうものか。

 商人なのにそんなスペースがあるのは不明だがこっちとしては助かるな。


 大丈夫。分かっているさ。

 突っ込んで聞きはしない。


「分かりました。ではそれでお願いします」

「いえ、こちらこそよろしくお願いしますね」


 その後は予定されている旅の流れを簡単に説明して貰い解散となった。



------



 そして依頼当日の朝。

 全員遅刻する事なく鐘を合図に出発する事が出来た。

 出発するとギルドカードの依頼状況に【遂行中】という文字が現れた。


 コゼットを教会に迎えに行った時は孤児院の子供達がコゼットの旅立ちを見送っているのが見えた。

 孤児院を出るのはめでたい事なのかワイワイと騒がしく皆笑顔だった。


 今は他の冒険者メンバーに挨拶を済ませたコゼットと共に見張りをしている。

 見張りと言っても見通しがいいから「外を眺めている」が正しいかもしれない。


「コゼット、暇なら中の連中と話してきてもいいんだぞ?」

「はいっ。でもでも今はここで一緒に見張りします」


 本人がそれでいいならいいか。


 そのまま二人で座って外の見張りを続ける。

 しばらくすると、ふと遠くに何かが見えた。

 シルエット的にゴブリンっぽいな。


「コゼットよ、あれは何に見える?」

「えっ? あ、何か居ますね。……もっ、もももしかして魔物ですか!?」


 すりすりとコゼットがこっちに寄ってくる。


「かもしれないな。とは言え遠いから様子見しよう」


 しばらく観察したが、予想は的中していた。

 既に相手はこっちに気付いており、ダッシュで向かって来ている。

 数は一、二、三……全部で十七匹か。


「ユ、ユウイチさん。もしかしてもしかして……あれ近づいてきてませんか?」

「もしかしなくてもこっちにきているな」


 ぴったりとくっついたコゼットが俺の左腕にしがみついた。

 随分怖がっているな。

 あー、ずっと町の中に居たのなら魔物なんて見る機会は無いか。


 少しずつ慣れてもらうとしよう。


 コゼットに離れてもらおうとしたら後ろから足音が聞こえた。


「よっ。見張りお疲れ……ってそんなくっついて何やってんだ?」


 誰かと思えばコンラッドか。

 丁度いい。


「ゴブリンだ。行って来るからコゼットを頼むよ」

「ん? あぁ本当だな。しかも結構多い。何匹居るんだ?」


 そんな事を話していると再び後ろから足音がした。


「ねーねー、リーダーどしたのー?」

「ありゃー、ゴブリン一杯いるねー」


 話し声が聞こえたのか他のメンバーもやってきた。

 顔は見れんが女の声って事は獣人族の姉妹か。


「シンディにエドナ……だったよな。俺が行くからのんびりしてていいぞ」

「数多いけど大丈夫なのー?」

「手伝うよー?」

「気持ちだけ貰っておくよ」


 怯えてるコゼットをシンディにパス。

 マルクさんに馬車を停止して貰う。


「ユ……ユウイチさん」

「大丈夫だ。すぐ戻るから待っててくれ」


 心配させて悪いが新しい魔法も含めての戦闘もやっておきたかった所なんだ。


 こちらからもゴブリンに近づく。


 体勢を少し低くし、一番前を走っているゴブリンの胴をすれ違いざまに斬る。

 そのまま固まっている所へ新魔法を全力で叩きこむ。


「フレイムピラー!」


 二メートル程の炎の柱が三匹のゴブリンを飲み込む。

 全力でこの高さか。

 訓練したら大きくならないかな。

 

 甲高い叫び声が辺りに響き、他のゴブリンが驚いて動きを止める。


 悲しいかな。

 知能が低いせいで全員が動きを止めてる。


 その隙にファイアボールと唱える。

 現段階で一度に出せる最大数である三つの火の玉が放たれる。


 向かっていった三つの火の玉は一撃でゴブリンの頭を吹き飛ばす。


 残り十匹か。

 後は接近戦でやるとしよう。


 ようやく我にかえったゴブリンが怒りの声をあげてやってくる。

 首を刎ね、上下に分断し、蹴り飛ばして吹き飛ばした後他のゴブリンもろとも串刺しにする。

 その後もなんら問題なく全て倒す事が出来た。


 魔晶石を拾ってから馬車へと戻るとコゼットがこっちをじっと見ていた。

 ふむ、圧倒的な戦いを見せたがそれでも心配だったもしくは引いたってところか。

 血は出ないとはいえ首やら腕やら飛ばしたのはやりすぎたかもしれん。


「ユウイチさん」


 とてとてと歩いてくるコゼット。


「怖かったか? もう大丈夫だぞ」

「すっっっっっごいですね! あんなに強かったんですか!?」


 あ、大丈夫だわコレ。

 何の心配もいらんな。


「思ってたよりずっと強くてびっくりしたよー! 接近戦してる時なんて獣人族みたいな動きしてたよー」


 と、コゼットを預けていたシンディ。


「そうか? まぁ割と頑張ったからな」


 運動神経がいいと言われるのは嬉しいものだな。

 元の世界だと一度も言われた事はない。

 頑張った甲斐があるというものだ。



 その後は魔物との遭遇も無かった。

 何をしたかと言えば、機嫌のいいコゼットと話しただけだ。



------



 旅は順調に進んでいる。

 目的地のパールックまで後二日という所か。


 今は見張りをコンラッドとカーティスに任せ、残りのメンバーは馬車の中でごろごろしている最中だ。


「おぉぉぉぉい! 大変だ!」


 穏やかな空気を満喫しているとコンラッドが慌てた様子で入ってきた。


 びくってなったわ。

 あー心臓に悪い。


「ブラッドオークだ! 既に気付かれてる!」


 初めて聞く名前だな。

 ゲームで登場してたとしても完全に記憶から消されている。


 余裕のない顔を見るに強敵なんだろう。


 ……何とか逃げれないのかな?


「えー……な、なんでそんな奴がここにいるのよ……」

「俺が聞きたいくらいだ。逃げられそうにないし、相手は一体だけだから戦うぞ」

「げっ……本気?」


 シンディとエドナが明らかに引いてる。

 しかし逃げられないという以上戦うしかなさそうだな。


「コゼット、ここに居ろよ。いいな? 絶対出てくるなよ。」


 剣を準備しながら念の為にコゼットに釘を刺しておく。

 前フリじゃないぞ。

 ほんとだぞ。


「は、はい。あの、オークって強いって聞いた事があります。気をつけて下さいね」

「気をつけるさ。あ、もし誰か馬車に戻ってきたらヒールしてやってくれ」

「はい! わかりました!」


 他のメンバーの慌てようを見て心配になったのか声に緊張が混じっている。

 なるべく早く倒せるよう頑張るか。


 準備が終わったので馬車の外へと出る。

 話題沸騰中の相手が見えた。


 二メートルは超えているであろう長身。

 赤黒い肌。

 そしてその筋肉を示すかのように盛りあがっている。


 あぁ、こいつ絶対強いわ……。

 腕も体もゴブリンと全然違うし。


 見張りを続けていたカーティスに聞く。


「なぁ。こいつってランクは?」

「ん? あぁブラッドオークならCランクで討伐依頼が受けられるな。だが、Cランクでも上位に位置している。更に腕力だけならBランクにも劣らないと言われる魔物だ」


 こっちは全員Dランクなんだよなぁ。

 不安だ。激しく不安だ。


「勝てそう?」

「……無傷では無理だろうな」


 最悪の事態も有り得るって事か?

 でも五対一だ。

 大丈夫。きっと大丈夫だ。


「四方から全員で攻撃する! ユウイチもそれでいいか?」

「あぁ。分かった」

「よし……突撃っっっ!」


 コンラッドの号令で全員がブラッドオークに向かって走る。


 短剣使いの獣人族二人は後ろに回りこむようだ。

 コンラッドは両手剣を構えてブラッドオークの前に立ち、防御重視の構え。

 カーティスはコンラッド同様両手剣を持っているが、側面に移動している。

 俺はカーティスの反対側の側面から剣を振るう。


 全員の攻撃が一斉に降り注ぐ。

 が、怯むどころかその丸太のような腕を振るいコンラッドを殴る。


「ぐふっ……」


 防御に使った大剣ごと遠くへ吹き飛ばされていく。

 起き上がらない。


 冗談じゃない……。

 なんだあの攻撃は。


 コンラッドが居なくなった事により他のメンバーが狙われる。


 獣人族の二人は持ち前の素早さを生かして回避していたが、次第に追い詰められて最後には一撃を食らって近くの木に激突した後気絶した。

 呼吸は……している。

 良かった、生きてる。


 残りは俺とカーティス。


 ダメージは与えている。

 今までの攻撃により既に数え切れない程の切り傷が出来ている。


 二人で攻めるか……?

 それで勝てるか……?


 いや、負けると全員死ぬ。

 ひとまず生きてる者は下がらせるか。

 念の為コゼットには逃げて欲しいところだ。


「カーティス! 獣人族二人を馬車へ。コゼットがヒールで治してくれるはずだ」

「一人で大丈夫か?」

「やるしかないだろう……しばらくは距離とって魔法で時間を稼ぐさ。後、出来ればコゼットは逃がす方向で一つ頼む」

「……分かった。馬車も移動させるように伝えてこよう」


 カーティスに二人を任せバックステップで距離を取る。

 ブラッドオークが近づいてくる前に叫ぶ!


「ファイアァァボォォォル!」


 三つの火の玉がブラッドオークに直撃する。

 当たった箇所が弾け飛ぶなんて事にはならなかったが、動きを止める事には成功したので良しとしよう。


 フレイムピラーよりファイアボールの方が射程が長い。

 のでひたすら唱える。



 何発撃っただろうか……。


 今までは無かったが魔力切れというやつだろう。

 体を動かした場合とは違う疲れが出ている。

 魔力回復薬も既に使った。


 ブラッドオークは一時的に膝を付いた、まだ死んでいない。

 その内こっちに向かって来るだろう。


 くそ……。

 身体が重い……。

 それに誰も戻ってこない。


 馬車の方を見ると移動して遠くに行った馬車が見えた。

 そしてゴブリンの群れと戦っているカーティスが居た。

 あっちにもこっちにも魔物か。

 運が悪いこって。


 ゆっくりと立ち上がるブラッドオーク。

 魔法を警戒しているのか慎重に歩いてくる。


 これ以上は魔法での時間稼ぎは出来そうにないな。


 俺は逃げるのを諦め剣を構える。

 じりじりと近づき……一気に詰める!


 ブラッドオークの殴打をかいくぐり二発程斬りつけるが、上手く足が動かずに体勢が崩れてしまう。


 まずい。


 そう思った時には既に吹き飛んでいた。


「ごほっ……あ……れ?」


 なにが起こった?

 あちこち痛い。


 皮膚が裂けてあちこちから血が流れる。

 頭からも出血してるのか目に流れ込んだ血の刺激で意識が少しハッキリとする。


 あぁ殴られたのか。

 俺も気絶するかと思ったぞ馬鹿力め。


 いや、意識があるだけマシか。

 剣を杖のようにして何とか立ち上がる。


 足が前に動かない。

 剣を振るう力も残ってない。

 魔法も使えない。


 ぼやけた視界に映るブラッドオークが近づいてくる。


 死ぬ。


 そう思った。

 そうなると確信した。


 ――――ト――――ク――


 何かが見えた気がした。


 魔法を覚えた時のように頭にキーワードが浮かぶ。

 どんなものかも理解出来た。


 限界突破(リミットブレイク)


 微かに出た声でそう呟く。


 すると力が溢れてきた。

 身体が動く。

 やれる。今なら何でも倒せそうな気がする。


 足を踏み出す。

 歩く度に足が軋む音を立てる。


 それでも動かす。

 走る。


 相手に近づき一閃。

 ブラッドオークの左腕が音を立てて地面に落ちる。

 

 残った右腕で掴みかかってこようとするがギリギリまで体勢を低くし右足首を狙い思い切り剣を振るう。

 右足も落とした。


 先程までこちらを見下ろしていた相手をこちらが見下ろす形となる。

 ブラッドオークの真正面に立ち、告げる。


「死ね」


 首に狙いを定めて剣を振り下ろす。


 そこで俺の意識は急激に薄れていった。

 立っているのかどうかも分からない。



 微かに覚えているのはコゼットが走ってこっちに向かってくる姿だった。

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