七話「初の実戦と水魔法」
コゼットを中央都市に連れて行く約束をした次の日、俺は早速ランクを上げる為にギルドへ足を運んだ。
さて、どれを受けるか。
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ランク E
依頼内容:ゴブリン討伐
場所:イスト周辺
報酬:単価300ペル
依頼主:冒険者ギルド
一言:最近また増殖しています。
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ランク E
依頼内容:ワーム討伐
場所:イスト周辺
報酬:単価280ペル
依頼主:冒険者ギルド
一言:街道で発見されています。
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このどっちかが良さそうだな。
しかし最弱の代名詞ゴブリンよりワームの方が安いんだな。
「よぉ! 依頼受けるのか?」
後ろから声を掛けられたので反射的に振り返る。
すっかり仲良くなった先輩冒険者だった。
「カイナのおっさんか。丁度いいや。ちょっと聞きたいんだけど、ゴブリンとワームってどっちが弱い? 単価の低いワーム?」
「んん? どっちも大差ねぇ……が、ゴブリンの方が攻撃的ではあるな。ワームは強さうんぬんより見た目と斬った時の感触が気持ち悪いって評判だな」
「そうか。ありがとう」
「おぉ! いいって事よ。おっとそうだ。ワームなら二百ペルで魔晶石が売れるぞ。服の素材になるからな。まぁ防御力はほぼ無くて普段着程度だが」
「へぇ。そうなのか」
しかし俺の事情一切知らないし記憶喪失設定も使ってないのに親切である。
道具屋のメルギーヌさん同様内に秘めたNPC力の成せる技なのだろうか。
「ゴブリンの魔晶石はどうなんだ?」
「あれは燃料にしかならんから一つ百ペルだな。ほら、受付の機械動かすのに使ったり、宿屋だと部屋の明かりに使っているな。飯屋だと冷蔵庫なんかにも使ってるらしいぞ」
冷蔵庫あるのか。
まぁいいけど。
今日はワーム狙いにするか。
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という訳で初の実戦である。
討伐依頼は他の依頼と違って受注する必要が無かった。
受付の人がギルドカードの裏に倒した魔物の種類と数が表示されると言っていた。
しかしカウントの上限は二十までという制限があるようだ。
無茶な狩りを防止する為にと言っていたが、命知らずな奴はカウントが上限に達したら別の魔物を狩りに行くので結局無茶な狩りとなって死んでしまうとか。
以前武具屋で買った装備に加えて、道具屋で消費アイテムもいくつか買ってきている。
準備は完璧だ。
目の前には見つけたばかりのワームが三匹うぞうぞしている。
一メートル程度の大きな芋虫だ。
気持ち悪い……が、ダメって程ではないな。
依頼を遂行するだけなら距離を取って魔法使えばいいんだが、今回は慣れを優先させたいから剣を使おう。
勢いが大事だ。
そうだ。怖くない……怖くないぞ。
一気に終わらせて「こんなもんか」って呟くんだ。
「ふぅ……。よしっ!」
弾けるように飛び出し一匹目に近づく。
ショートソードを持っている右手を思い切り振りかぶり、全力で振り下ろす。
剣なんて握った事も無かったが自然に扱えている。……気がする。
纏わりつくようなぬめりと剣を弾くような弾力を感じたが構わず縦に切り裂く。
昇格試験の時にも感じたが、格段に身体能力が上がっているな。
この魔物が柔らかいのもあるのだろうが、斬るのに全く苦労しない。
そのまま二匹目に近づき、振り下ろされた状態の剣を斜めに切り上げ、こちらも二つに分断する。
二匹を立て続けに倒した俺は、勢いが失われない内にと三匹目に近づく。
振りあがった剣を両手で逆手に持ちワームの上からしゃがむようにして突き刺すと、少しの間ビクビクと動いたのちに停止した。
剣を引き抜き立ち上がる。
「ふっ、ふふ……ここんなもん、か」
緊張が一気に解けた。
無事に終わって良かった。
本当に良かった
お?
倒したワームが光の粒子となって消えた。
残ったのは魔晶石。
ふむふむ。
この辺りはゲームと一緒なんだな。
こうなるって分かると途端にやる気が出てくる辺り俺も結構なゲーム脳だな。
これは戦う事への意欲が沸くわ。
三つの魔晶石を拾い上げた俺は次の魔物を探す為に歩き出した。
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初めての実戦から五日目の昼。
あれから二日はワームのみを狙い続け、手に入れた魔晶石は服屋へ持って行った。
半分は旅費の為に売って、半分は服一式と交換という事で話がついている。
三日目、四日目はゴブリンに切り替えて狩り続けた。
ゴブリンは多少個体差があり、大きさは一メートルから一メートル三十センチ程度の魔物だった。
黒がかった緑の肌にしばらく何も食べてないかのような痩せた身体。
最初は抵抗があったが、割と早く慣れたのは幸いだった。
魔物は血というものが無いらしい。
代わりに斬った箇所から黒いもやのようなものが出てくる。
カイナのおっさん曰く、あの黒いもやが出なくなって少ししたら光の粒子となって消えるそうだ。
そう考えると血みたいなものなのだろう。
それはさておき、今日はコゼットと待ち合わせをしている。
一緒に旅をする仲間になったからな。
お古でちょっとよれよれになってる服から普通の服にクラスアップする予定だ。
後は水属性魔法とやらが見たい!
非常に見たい!
「――チ――ん! ユ――――チさ――!」
声が聞こえる。
見ると割と遠くから大きく手を振りながらこっちに向かっているコゼットの姿が見えた。
明らかにアレ俺の名前呼んでるよな。
ちょっと恥ずかしいんですけど……。
あ、ほらおばさんが生暖かい目で見てきてる。
「はぁっ……お待たせ……はぁっ……しました」
「大して待ってないよ。次からのんびりおいで」
走って乱れた髪の毛を直してやり、ついでに撫でておく。
うむ、相変わらずいい撫で心地だ。
「えっと、今日はどこに行くんですか?」
「旅の準備だ。まぁ付いて来ればいいさ」
そう言い五分程二人で歩き店に到着する。
「ここ服屋さんですよね? ユウイチさん何か買うんですか?」
「あぁ、買うには買うが本命はコゼットだな。俺からのプレゼントだ。好きな服選らんでいいぞ」
「えぇっ!? いいんですか?」
「どの道必要になるだろ。長い付き合いになるかもしれんし遠慮するな。どれがいいんだ?」
「えっと、ありがとうございます!」
嬉しそうに服を選ぶコゼット。
俺は俺で替えの服を選んでおく。
コゼットはたっぷり一時間程店内の服を見定めた後決まったと言いにきた。
「ユウイチさん、コレどうですか?」
満面の笑みだな。
褒めるしか選択肢が用意されていないかのようだ。
いや、貶す選択肢あっても選ばないよ?
ほんとほんと。
ふむ、白いシャツにベージュのスカートか。
旅に出るのにスカートが膝上ってのはちょっと露出が多い気もする。
あとこの世界のファッションは全く分からん。
元の世界でも分からんけど。
すまんなコゼット。
「あぁ、よく似合ってるぞ。ただ旅に出るから向こうにある全身を覆えるケープも買っておこう」
「はいっ」
実際に似合っているとは思っているので嘘はついていない。
うん。
「ユウイチさんありがとうございました。」
「いや、気にするな」
お互いに替えの服も買い店を後にする。
そして俺にとっては本命、水属性魔法の時間である。
今のニコニコゼットならきっと断らないだろう。
「さてコゼット、見せて欲しいものがある!」
「ん? なんですか?」
「魔法だ魔法。水属性の! 見せてくれないか?」
「魔法ですか? いいですけど……期待しないで下さいね?」
「うんうん大丈夫だ。よし、それじゃ町の外に出ようか」
善は急げという事でコゼットを急かし手頃な場所まで行く。
選んだのは以前昇格試験を行った所である。
ここなら問題ないだろう。
誰も居ないし。
「さぁ思う存分やってみてくれ」
「わ、分かりました!」
コゼットは一歩前に出る。
腕を上げ、意を決したように唱える。
「ウォーターボール!」
スーパーボール程の大きさだろうか。
緩やかな回転をしながら水の玉がコゼットの掌から放たれる。
山なりの軌跡を描き飛んでいく水の玉。
そして十メートル程度進んだ先で……落ちた。
ぱしゃりと音が鳴り、静まる。
…………。
お、思った以上に弱そう……。
というか絶対弱い。
魔物はおろか教会の練習用人形すらぴくりとも動かないだろう。
どう声を掛けようか悩んでいると、ふと思いつく。
「コゼット、その水って飲めるのか?」
「ほぇ? えぇ、はい飲めますよ」
おぉ凄いじゃん。
水筒要らずのコゼットだな。
「攻撃力はともかくとして、飲料水が生み出せるって凄い便利だな。いやー、コゼットが付いて来てくれるのは嬉しいよ。いや、ほんと」
優しく頭を撫でながら褒めておく。
こうする事で……。
「えへへ。そ、そうですか?」
ほーら!
笑顔を確保した。
しっかし今まで見た感じでも身体能力も子供のそれだし、戦闘には参加させられないな。
元々参加させようとも思ってなかったが。
せいぜい戦闘が終わってからヒール要員として頑張って貰えばいい。
その後はコゼットと話したり町をぶらぶらしたり晩飯を一緒に食べたりして過ごした。
さて、明日からはまた依頼ガンガン受けて頑張りますかね。




