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六話「黒髪の覇者」

「ごちそうさまでした。美味しかったです!」

「そうか。そりゃ何よりだ」


 早めの昼飯を済ませた俺達は教会に向かっている。


 昼飯の時、コゼットにどこで食べたいか聞いたら「俺がよく行く所」とリクエストがあったのでいつも行く場所に連れて行った。


「そうだコゼット、教会に行ったら本を見せてくれないか?」

「本ですか?」

「あぁ、お気に入りの本があるんだろ? それを見せて欲しいんだ」


 前に本の話題が出た時は黒髪うんぬんの話になってしまったが、あれはフラグだったんじゃなかろうか。

 嘘を付いた上にあの日は昇格試験があったとはいえ、もっと早くに教会に行くべきだった。


 元の世界に戻る方法……とまではいかなくても何か手がかりが見つかるかもしれない。


 勿論、単なる創作でした!

 って可能性もあるだろうが……。


 結果として一番いいのは両方の世界を自由に行き来出来るようになる事だけどな。

 魔法が使える世界を手放すのは惜しまれる。


 どうなるかは分からないが、とにかく一度それを読んでみるべきだろう。


「分かりました。だったら教会へ行ったら書庫に案内しますね!」


 十分も歩くと教会へ到着した。

 アロイスさんや子供達に軽く挨拶をし終わるとコゼットに書庫へと案内される。


「ユウイチさん、ここが書庫ですよ」


 書庫と呼ばれるには少し寂しい冊数だが、それでも微かに本特有の匂いが部屋に漂っている。


「案内ありがとな。コゼットの好きな本はどこにあるんだ?」

「えっと……。あったあった、コレです」


 コゼットが棚の中から目当ての本を差し出してくれる。

 少し古ぼけてはいるが、白の表紙に黒の文字で「黒髪の覇者」と書かれている。


 厚みがない事を考えるとそう時間もかからずに読み終えるだろう。

 本を手に取り室内の椅子に座る。

 さて、読んでみるか。



 ざっと目を通してみた結果、このような事が書かれていた。


 黒髪の覇者と呼ばれた男は神藤良嗣(しんどうよしつぐ)

 出生は不明。


 この時点でこの神藤という男は日本人なんじゃないかと思った。

 名前がモロ日本人名だし。


 コゼットがちょいちょい変な箇所で反応していたのも理解出来た。


 神藤とやらが名乗った時の台詞にこんな物があった。

 『私は神藤良嗣という。名が良嗣だ。そう呼べ』

 と。


 コゼットに初めて言葉を交わした時にお互いフルネームで名乗っていたはずだ。

 恐らくこの名乗り方に反応したのだろう。


 他にも、

 火属性の魔法を操っていた事。

 片手剣を使用していた事。


 と、俺と類似している箇所があった。

 片手剣に関しては大した理由もなく決めたから微妙な所だが。


 それと残念な事ながら元の世界に繋がるような事は書いていなかった。

 この本の最後のページは神藤は旅に出たという文で締めくくられ、その後の足取りは書かれていない。


 ちょっとした落胆を感じていると静かにドアを開ける音が聞こえた。

 目を向けるとこの教会の神父であるアロイスさんの姿が見えた。


「失礼しますね」


 そう言いながらゆっくりとドアを閉めるアロイスさん。

 お茶を持って来てくれたらしく、「どうぞ」と机の上に置いてくれる。


「その本、読み終わったんですか?」

「丁度読み終わった所です」


 アロイスさんの問いに答えながら本を閉じる。


「ユウイチさんはその本を読むのは初めてでしたか?」

「あぁ、そうですね。初めてです」

「普段から本は読まれるので?」

「ん? んー……いや、昔から文字ばかりの本は読みませんね」


 こんな文字だけなのは基本読まない。

 漫画は読むがな。


 こほん、と一つ咳払いをしてアロイスさんは口を開く。


「単刀直入に聞きますが、ユウイチさんの記憶喪失というのは嘘……ですね?」


 ……あ、そういえば記憶喪失設定だった。

 装備を買って舞い上がっていたのもあるが、すっかり忘れていたな。


 仕方ない。

 ここは素直に謝っておこう。


「確かに、嘘をついていました。すみません」


 しっかりと頭を下げる。

 悪気はないとはいえ嘘はよくないからな。


「その嘘をついた理由をお聞きしても?」


 いつも通りの穏やかな声で聞いてくる。

 嘘をついていた事を攻めているような雰囲気は感じ取れない。


 コゼットは自身が読んでいた本を閉じてこちらに向き直っている。

 ただその顔に「何の話? 訳が分からないよ」と書いてあるように見えるのは間違いではないだろう。


 あの顔はきっと何も知らない。

 しかし空気を読んで静かにしている辺り偉い。

 心の中で頭を撫でておく。


 俺は、多分信じられないだろうけど、と前置きしてから二人に話す事にした。



------



「じゃあじゃあユウイチさんは別の世界の人って事ですか?」


 コゼットが驚きを隠せない感じで声を出す。


「にわかには信じられませんが今の話振りが嘘だとは思えませんし、全て真実なのでしょうね」


 アロイスさんの目がいつもより少しだけ開いている。


 きっと驚いているのだろう。

 分かりづらいが。


 話したのは、

 ある日いつも通り家で眠ったはずなのに、起きたら草原に居た事。

 信じて貰えないだろうから町に入る時に記憶喪失という設定を決めた事。

 この世界が元の世界のゲームに似ているという事。

 黒の覇者の主人公の名前が元居た場所と同じ名乗り方という事。


 俺がこちらへ来てからの全てを話しておいた。


「コゼットの言う通り別の世界の人間で間違いないと思う。俺の世界では魔物は居なかったからな」

「そんな事ってあるんですね……」

「しかしこれでユウイチさんが魔力適性検査の事を知らなかったり、活性化がされて無かった事に納得がいきました」


 こっちの世界の人は本当にいい人ばかりだと思う。

 完全に、という訳ではないだろうが、それでもこちらの言う事を二人共信じようとしてくれている。


 お茶を飲み、一息吐く。

 全部話して気分スッキリだ。

 いつもよりお茶も美味く感じる。


「今日ここに来たのはコゼットとの約束の他にもう一つ。元の世界に帰る方法、又は元の世界とこっちの世界を繋げる方法を探してるんです」

「ふむ、何か分かった事はありましたか?」

「残念ながら黒の覇者には何も無かったですね。もう少しこの書庫に居ても?」

「構いませんよ。好きなだけ見ていって下さい。そろそろ私は教会の方へ戻っておきますので何かあれば声を掛けて下さい」

「ありがとうございます」


 アロイスさんが書庫から出ていく。


「俺はもう少しここに居るけどコゼットはどうする?」

「わたしも手かがりを探すお手伝いします!」


 いい子や。

 遊ぶ約束ほぼ果たせてないのに。


「そうか。ありがとう。コゼット」

「いえいえ、お役に立てて嬉しいです」


 そういえばこの子は俺を英雄的な目線で見てるんだったか。

 ちょっと共通点があっただけで俺はなーんにもしてないからそう考えると微妙な心境になるな。


 が、ありがたい申し出なので素直に受けておく。


 本を取りパラパラと捲っては棚へと戻す。

 都合よく見つかったりはしないか。


 お、この本はやたら新しいな。

 ほぼ新品のようだ。

 タイトルは無い真っ白の表紙か。

 どれどれ。

 有用なページがあったらドッグイヤーしておいてやろう。


 ん?

 向こうの世界のとはちょっと違うがこれ聖書っぽい。

 ここ教会だしな。

 聖書の一冊や二冊あっても不思議ではない。


 大して興味もないが、一応読んでおく。


『神は空と海、そして陸を創られた』

『神は自身の力を僅かに有する存在を陸に造りだした』

『それは自我を持っていた』

『それは数を増やし、集団となった』

『神の力は少しずつ集まった』

『とうとうそれは世界を創りだした』

『その世界は神の力を持っていなかった』

『続く』


 続くのかよ……。


 これそれっぽいだけで聖書じゃないんだな。

 流石に続くとかは書かないだろう。

 聖書もどきと名づけておこう。


 しかし何も分からなかったな。

 残りの本は明らかにタイトルからして違うし。


 そろそろ終わるか。


「コゼット何か見つかった?」

「いえ、こっちはそれらしい物は見つかってませんね」

「そうか、これ以上は探しても無さそうだし終わりにしようか」

「分かりました」


 コゼットと共に書庫を出て教会へ出る。


 こちらを察知したのかアロイスさんが近づいてくる。


「調べ物はどうでしたか?」

「コゼットにも手伝って貰いましたが、残念ながら収穫無しですね」

「そうですか。ユウイチさんはこれからどうされるのです?」


 これからか。

 生きる事だけしか考えてなかったが。

 別の場所も行ってみるべきなんだろうな。


「特に考えて無いです……が、他に情報が集まりそうな所にでも行ってみようかなとは思ってます」

「ふむ、それでしたら中央に行かれてはいかがでしょう?」

「中央?」

「えぇ、中央都市パールックと呼ばれる場所です。あそこなら教会の本部もありますし、書庫もここよりは大きいでしょう」


 そういえばこの町の事以外は全く知らんな。

 その日暮らしを優先させすぎた。


 今更言っても仕方ない事ではあるが。


「なるほど。あ、そういえば城なんかは? 重要な書物とか見せてもらえませんかね」

「城には確かに重要な書物はありますが、どちらかと言えば軍や政治に関わる資料といった所でしょうか。歴史書や伝承の類は教会に移してあるはずです」


 それなら中央都市パールックとやらに行ってみるか。

 距離にもよるが旅費も貯めないといけないな。


「それじゃ中央都市とやらに行ってみます。ちなみにそこは遠いのですか?」

「少し距離はありますね。馬車で二週間といった所でしょうか」


 遠い……。

 行く気無くしそうなレベルで。


 いや、行くよ?

 行くけどさ、遠いよ。


「その距離だと徒歩じゃ無理そうですね」

「冒険者の方だと護衛依頼を受けて商人に付いて行ったりしていますよ」


 なるほど。

 その手があったか。


 いや、待て。

 護衛依頼は確かDランクからと表記されてたはずだ。


 となるともう一段階ランクを上げないといけないな。


「護衛依頼を受けるにはランクが足りないのでもうしばらくはこの町に居る事になりそうですが、方針は決まりました。助かります」

「いえいえ、お役に立てたようならなによりです」

「それじゃ今日は帰るとします。コゼットも手伝いありがとう。またな」

「あっ、あのっ!」


 帰ろうとした所でコゼットに引き止められる。


「ん?」

「わたし、付いて行きたいです。ユウイチさんに……」


 急にどうしたんだろうか?

 俺に付いて行きたいなんて……あぁ、成る程あの主人公と俺を重ねてるのか。


「コゼット、俺はあの物語の主人公と似ている所があるとは言った。でもな、あれは別人で俺とは何の関係もない。それに中央都市から更に旅をする可能性も高いぞ」

「それでも……付いて行きたいです……」


 うむむ、困った。

 これはこの世界に来て一番の困った事態だ。

 教会の主に助けて貰おう。


「アロイスさん――」


 と、名前を呼んだ所で。


「いいですね。ユウイチさん、コゼットを連れて行ってあげてくれませんか?」


 何言ってんのこの人。止めろよ。


「ここは危ないしダメって止める所かと思ってました」

「コゼットも十四歳ですからね。そろそろ独り立ちするのもいいでしょう。ずっとここに居る訳にもいきませんしね」

「まぁ、そういう事情もあるでしょうが、わざわざ危険な事しなくてもいいと思うんですよね」

「しかし農民は人手が足りていると聞きますし、商人になったらあちこち行く場合も出てくるでしょう。ここの孤児院を出て冒険者になる子も多いですし、コゼットは水属性魔法が使えますからまるきり役に立たない事はないかと」

「なに? コゼットは魔法が使えるのか?」


 初耳だ。

 まさか魔法使いだったとは。


「あのあの、わたし初級のウォーターボールとヒールしか使えませんけど頑張りますから! それにユウイチさんよりはこの世界の事詳しいですし、連れて行ってくれませんか?」


 なに……。

 ヒールだと。


 ゲームでもヒーラーの重要性は重々承知している。

 必須と言ってもいいだろう。


 危険に関しては魔法使いなら問題はないか?

 年齢が年齢だから多少は気を使ってはやるべきだろうが。

 それに俺の事情を知ってるから分からない事も聞きやすい。


「仕方ない。このままだと永遠に帰れそうにないしひとまず了承しておくよ。」


 と、多少強引に自分を納得させておく。

 ヒールに釣られた訳ではない。

 断じてない。


「やったぁ! もうダメって言うのは無しですよ? もう決まりましたからね?」

「分かってるよ」



 こうして俺に旅の仲間が出来た。

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