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最終話「来宮優一は世界を漂う」

 耳を切り裂くような声が聞こえた。

 その音は離れた者達にも届く。

 両手を耳に当て防ごうとしているのが見える。

 一人だけ動かす呆然としている黒ローブの男も居るが。


 ディザストロの背中から滑るように降りる。

 着地時によろめく。

 反動のせいで体が上手く動かない。


 頑張っても無駄なのは分かっている。

 そのままゴロンと転がり、横目で敵の姿を見る。


 いつの間にか傷から漏れていた黒いもやは無くなっていた。

 その代わり体全体から少しずつ光を放っている。

 天に昇っていくように見えた。


 いや、そんな綺麗なもんじゃないんだろうけど。


「あぁ……久々だ」


 動けねぇ。

 不思議と痛くはないが、究極にダルい。


「よぅ。大丈夫か?」


 声の方向に頑張って顔を向ける。

 たったこれだけの動作で十秒くらい掛かった。

 ほんと反動ってのはきっついなぁ。


「ハリードか。お互い酷い有様だな」


 軽い口調とは裏腹に全身傷だらけだった。

 強力で高そうな防具は所々破れている。

 ま、俺もだが。


 死にはしないだろうが要ヒールだな。


「本当にな。しかしようやく終わ……おいアレ!」

「ん?」


 再度頑張って顔を動かすと視界に黒い色をした欠片が目に入る。

 俺が壊したはずのそれが膨れたりウネウネと動いたりしている。


「げ……まだ何かあるのかよ」


 悪態をつくが動けない。

 どう考えてもいい物じゃない。

 壊さなければ。


 だが、魔力も先ほどのファイアブラストで使い切ってしまった。


「ここでとうじょー」

「最後の最後で美味しいとこどりー」


 緊張感のない声と共に猫耳と尻尾が目に映る。

 重力を感じさせない軽やかな動きはまるで踊っているかのようだ。


 一分程の短いダンスを終えると、もうそこには粉々になった黒い何かがあるだけだった。


「ふぃー終わった終わったー」

「いやーこんな事しか出来なくてごめんねー」


 若干申し訳無さそうな顔をしている。

 最初に誰かが気絶する可能性が高いのは伝えて全員が分かっていた事だ。

 気に病む必要はないだろう。


「いや、割とマジで助かった。帰りも頼りにしてるよ」

「ユウイチさぁぁん!」

「うぉっ」

「また無茶してっ! 見てたんですよ!」


 視界一杯にコゼットが現れた。


 たたかう。

 ぼうぎょ。

 どうぐ。

 逃げる。


 しかし ゆういち は からだが 動かない。


 あぁそうだ、バカな事を考える前にお礼を言わないとな。


「ありがとうな」

「ふぇ?」


 怒っているのに何言ってんだ?

 とは思ってないだろうがきょとんとした顔になっている。


「魔力共有してくれたろ? あれが無かったら死んでたよ」

「褒めてもいいんですよ?」

「よしよし、と言っても今は腕動かないけどな」

「じゃあじゃあ、帰ったら一杯褒めて下さいねっ!」


 分かった分かった、と返事をしておく。

 そんなやり取りをしていると遠くから他のメンバーも歩いて来ていた。


 怪我をしている者も多いが全員がいい顔をしている。


 ようやく終わった。

 そう感じた。



------



 それからは元の日常が戻って来た。


 ウノースの町に戻り、まずは中途半端になっていた迷宮に潜り直した。


 自分達の記録を塗り替えたり。

 新しい装備を手に入れたり。

 大剣を手に入れてコンラッドがオロローンと泣いて喜んだり。

 いや、泣いてはなかったか。


 それとギルドでディザストロ討伐時にいたメンバーは特別報酬を貰った。

 肝心の内容が中々決まらなかったらしく数日待たされたが。


 まず俺とコンラッドパーティー。

 全員Cランクだったんだが無条件でBランクへと昇格した。

 生き残るくらいなのだから戦闘能力は問題無しと判断されたらしい。

 現在俺のギルドカードには赤色でBという文字が記されている。


 そして負傷して戦闘には参加しなかった冒険者達。

 名前は聞いたんだが忘れてしまった。

 ちなみにランクは全員Cとお揃いだった。

 とは言ってもCになりたてとの事。


 このパーティーはあまり上等な物を見につけておらず、全員の装備にガタが来ていた。

 なのでBランクの装備が貰えたらしい。

 大層喜んでいた。


 最後にハリードパーティー。

 だがこの四人はランクも高く、装備も上質な物を自分達手に入れられる。

 困ったギルドの人達は無難に現金にしたらしい。

 ま、いくらあっても困るものではないしな。


 倒した敵を考えればしょぼい報酬だろう。

 でも不思議と不満はなかった。

 誰も死ぬ事なく生きて帰れた事で満足しているのかもしれない。


 それに町に居る冒険者や住人がよく話しかけてくれるようになった。

 直接お礼を言われたり褒められたり。

 嬉しかったが、同時に少し照れくさかった。



 キルレアだが。

 奴は魂が抜かれたかのようになっている。

 ディザストロが倒された事実が余程堪えたのだろう。


 最終決戦の場にあった黒い布。

 あれは信者だったという事が供述により判明した。


 尋問には素直に答えているらしい。

 意外だと思ったが、あの変わり様を見れば納得出来た。


 「信者の体はどこにいった?」

 という問いに対し。

 「供物として捧げた」

 と言ったらしい。


 死体というのも変かもしれないがそれすらもない。

 ディザストロを復活させるのに肉体が消滅したようだ。

 布の数から人数は割り出せた。

 だが、結局誰が信者だったのかは分からないままだ。


 まだどこかに邪教徒はいるかもしれない。

 それでも既に主要な人物は残っていないと供述により分かっている。

 居たとしてもその内廃れていくだろうと予想された。



 ウノースには一月弱滞在し、中央都市へと帰還した。

 迷宮は踏破していないが深さも不明だし家の事もあるしな。

 コンラッド達はもう少し町に居るとの事でこっちには戻ってきていない。


「あー埃がぁ……」

「しばらく空けてたからな」


 久方ぶりの我が家は汚れていた。

 俺は仕方ないか、くらいで済むが隣にいる人物はそうではないらしい。

 毎日家事をやってたから気になるのだろう。


「今日は大掃除ですっ!」


 両手で握りこぶしを作り気合を入れている。

 これはマズイパターンだ。


「なぁコゼット。帰ってきたばかりだろ? 掃除は明日でもいいんじゃないか?」

「ダメですっ! お掃除はちゃんとやらないと。ユウイチさんも手伝って下さいね」


 明日から本気出す。

 これは我が家では通用しないらしい。



------



 数日後。


 布団に入ってさぁ寝よう、という時にふと思い出した。

 白い本の事を。


 ディザストロは倒した。

 ひとまずはハッピーエンドでいいのだろう。

 ただ、新たな物語がどうなるのかが気になる。


 以前の予想が当たってるのかも分からんしな。


 一つ言えるのは「更に強い敵が登場!」とかはぶっちゃけやめて欲しい。

 今回もギリギリだったし怖い。


 それに、分からない事と言えばもう一つ。

 ウノースからの帰り道に寄った北の国の首都ノスでの出来事だ。


 俺はそこの冒険者ギルドで一つ質問をした。

 「邪教徒が儀式をしている」と報告したのは誰か。


 不思議な事に誰も覚えておらず結局分からなかった。

 報告をしたという事は悪い奴ではないんだろうが。


 本当誰なんだろうか……。

 気にはなるが、確かめる術がない。


 あちこち行けばどこかで情報が手に入るだろうか。

 本人を見つけられたり、その知り合いに出会ったり。


 そういえば行ってない所もたくさんあるよなぁ。

 平和になったし、俺も大分強くなった。

 しばらくしたらコゼット連れて旅行にでも行こうかな。


「どうかしたんですか?」


 考え事をしていたら声を掛けられた。

 一緒に布団に入っているコゼットだ。


 思考が流れていってたな。

 えーと、なんだっけ?

 あぁ、そうそう。


「しばらくしたら旅行に行こうかなと思ってただけさ」

「旅行!? あのあの、私も付いて行っていいですか?」

「当たり前だ。二人であちこち行ってみようぜ」

「はいっ! えへへ」


 抱きつく力が強くなった。

 背中をぽんぽんと叩き、頭を撫でる。


 えーと、なんだっけ?


 どんな場所でもコゼットが居れば俺は――。


 あれ、違う?

 ダメだ。

 眠い。


 考えるのは明日から本気――。


 ………………。

 …………。

 ……。



------



「――さん! ――イチさんっ! 起きて下さい!」

「ん……」


 なんだよ。

 と言おうとしたがそんな言葉は出てこなかった。


「え?」


 目を開けたら空が見えたからだ。


 俺は家でベッドに横になっていたはず。

 それがいつの間にか柔らかい芝生になっていた。

 ふかふかである。

 お値段はプライスレス。


 俺が家で目を覚ませば見慣れた天井が見えたはず。

 それがいつの間にか目の覚めるような綺麗な青空になっていた。

 文字通り目が覚めた。

 お値段は――いや、もういい。


 バッと跳ねるように起き上がる。


 なんだこれ?

 なんだこれ?


 いやいやまず落ち着け。

 そうだ落ち着け。


 この訳の分からない感覚を俺は知っている。

 以前にも経験したじゃないか。


 そう、これは……。


 別の世界に来た時の感覚だ。

 しかし――。


 ふと、手を握られたのが分かり横を向く。

 コゼットがうろたえていた。


 当然だろう。

 俺だって超ビックリしている。

 またこんな現象が起こるなんて思ってなかった。


「コゼット」

「は、はい」

「腹減った。あっち行って何か食べようぜ」

「えぇ……。なんでそんな落ち着いてるんですか……」


 気を抜かれたかのようにがっくりと頭を落とすコゼット。

 少しだけいつものコゼットに戻ったな。


 俺が既に落ち着いてる理由は簡単だ。

 初体験じゃないからな。


 幸い今回も町が近い。

 まずはあそこに行けよと言わんばかりだ。


「なに、心配するな」


 頭をぐしぐしと撫でる。


「きっと大丈夫だ」

「ほ、本当ですか……?」


 まだ不安がなくならないのか腕に抱きついてくる。


 落ち着くまで好きにさせておき、周囲を確認。


 今の所は何も見当たらない。


 近くには町がある。


 考えてみると、いつかの俺も最初はちょっとだけ不安だった気がする。


 しかし町で暮らし。

 この子に出会い。

 共に戦うくらい信頼し合える人間とも知り合えた。


 気付いたらこう思っていた。


 「異世界生活も悪くない」と。



 コゼットが居るのなら、この世界でも、きっと――。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。

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