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四話「昇格試験」

 昇格試験。

 条件を満たした者が次の段階へと進むためのテストだ。


 ここは町から出て十分程歩いた広めの場所。


 下には草も生えていない茶色一色の地面。

 範囲は半径百メートル程だろうか。


 草が生えてないのはきっとここが良く使われる場所、という事だろう。


 実際に俺達と戦うのは戦闘役と呼ばれていた。

 今回はCランクが二人。

 人族の男と獣人族の男だ。


 合否の判断をするのは審査員。

 Bランクが三人だ。

 ちょっと遠くてよく見えないが恐らく全員人族だろう。

 こちらは男が二人に女が一人だ。


 この試験思ったよりしっかりしたものとなっている。


 最低ランクの試験だしそういう所ルーズになってたりしてそうだけど、「本人達にとっては大切な試験。審査側も真剣にやるのは当然」と受付の人が教えてくれた。


 今回昇格試験を受けるのは俺を含めて八人。

 この八人全員に木剣と革の鎧が貸し出されている。


 他の武器でもいいそうだが、全員手に木剣を持っている。


 ジャージの上に革の鎧を着ているが、これのダサいことダサいこと。

 どうしようもなので我慢だ。


 一人目、二人目と終わり今は三人目の少年が頑張っている。


 割と粘っているようだがCランクともなればこちらとは格が違うのだろう。

 少年の相手をしている戦闘役の青年は少年の攻撃を軽く受け流している。


 長引かせているというよりは相手の力量を見ているって所か。

 一撃で沈めたら試験にならないしな。


 しばらくすると十分と判断したのか青年が少年の木剣を弾き飛ばした所で審査員が「そこまで」と声を掛けて終了した。

 お疲れお疲れ。


 少年が木剣を拾い、肩で息をしながら後ろへ下がる。

 そして四人目は十代中頃の少女。


 耳が尖がってないからあれは人族だ。多分。


 ちなみに最低ランクだけあって年齢層は低い。

 間違いなく俺が一番年上だ。


 他の受験者はきっとコゼットと同じくらいの年齢なのだろう。

 見た目的に。


 少女は前に出て青年と交代した獣人族と互いに礼をして構えを取る。


 垂れた犬耳とふさふさの尻尾が印象的だ。

 ……ちょっと触ってみたい。


 そんな事を考えていると試験が始まったようだ。


 開始の合図と同時に少女は青年へと駆けた。

 青年は落ち着いたものでその場から動かず構えているだけだ。

 いや、尻尾がふわりと揺れ動いた。


 駆けた少女は青年のそばまで近づくと木剣を両手で握り締める。

 上段に構えるのかと思いきや、素早く左へと構えを変化させる。 

 そして力強く木剣を右へと薙いだ。

 が、同じ木剣を使い青年はそれをなんなく受け止める。


 青年の右耳がぴくりと動く。

 と、同時に少女から何かを察知出来た。


 なんだ? この感覚は?

 その瞬間。


 少女は右手を木剣から離し相手に向け、口を動かす。

 小声のようでこちらには何も聞こえない。

 すると少女の右手からこぶし大の火の玉が青年の頭部に向かって発射された。


 ファイアボール!?

 他人が魔法を使うのは初めて見たが、察知出来るのかよ……。

 あの青年も耳がぴくぴくしてたし出来るのだろう。


 青年は頭を素早く振りファイアボールを回避し、左手を動かす。

 少女は右手をもう一度青年に合わせようとするが青年の左手が少女の右手を掴む。


 残った左手を動かそうとする少女だが、青年が木剣を素早く逆手に持ち替え少女の首に当てる。


 少女は数秒止まっていたが、ふと思い出したかのように小さく息を吐く。

 先程と同じく審査員が「そこまで」と声を掛けて少女の試験は終わった。


 五人目の受験者は俺だ。

 今更ながらちょっとどきどきしてきた。



------



 右手に木剣を持った俺は獣人族の青年と入れ替わって出てきた人族の青年と向き合う。

 心臓の鼓動は未だ若干早い。


 落ち着く為に時間を稼ごうと装備の点検をしているフリをしていたら「もういいか?」と審査員の人に言われたので「あぁ、いつでも」と返し諦めた。


 悪あがきとして他の受験者達より離れた場所に立つと「そこでいいのか?」と審査員の人に言われたので「あぁ、ここで構わない」と返した。


「準備はいいようだな。それでは……始めっ!」


 審査員の開始の合図と共に俺は左手を青年に向け、限界まで威力、速度を上げようと意識しながら唱える。


「ファイアボール!」


 つい大きな声で言ってしまったが、どうせ魔法を使う事自体はバレてるんだろうし構わない。


 教会で放った大きさの倍はあろうかという火の玉が射出された。

 速度も一段階上……のような気がする。


 びびって距離を取っていた為か青年は余裕を持った横っ飛びで回避。


 ふむ。

 どうしたものか。


 ランク、経験共に相手が上だし勝てる気は当然しない……が。


 もう一度全力のファイアボールを出現させ、放つ。


 その直後更に二つのファイアボールを作りだす。

 その二つを相手の右側と左側へ同時に放つ。


 青年は少し慌てて左へ横っ飛びをする。

 回避した先に左に放ったファイアボールが迫るがこちらもギリギリながら避けられてしまう。


 都合よく当たってくれたりはしないか。


 仕方ない。

 こうなったら先程の少女の真似になるけど接近して魔法ぶっ放すか。


 小さく息を吐いた俺は腰を落とし足に力を入れる。


 溜め込んだ力で大地を蹴り、駆ける。


 んっ!?

 身体が軽い。

 こっちの世界に来て初めて走ったが間違いなく走るのが速くなっている。


 元々そこまで離れてなかったが、それでも想定していたよりずっと早く青年との距離が縮まる。


 木剣を持つ右手に力が入る。

 まずはこのまま振りかぶってからの一撃を。


 「そこまでっ!」


 突然大きな声が聞こえた。


 思わずビクッとなって走るのを止めてしまった。

 そこまでってなん……あぁ、試験終了か。

 夢中になってて一瞬理解出来なかった。


 振り上げようと中途半端に上げた腕を下ろし見学スペースへ引っ込む。


 不完全燃焼ではあるが、試験とはいえ生まれて初めての戦いが終わりホッとする。

 

 あー疲れ……てはないな。

 動かず魔法撃って最後にちょろっと走っただけだし。


 評価は気になるが気にしてもしょうがない。

 後はのんびり終わるのを待ちますか。



------



 八人の昇格試験が終了し、審査員含む全員がギルドへと戻る。


 受験者の少年少女は持てる力を出し切ったのか満足げな表情を浮かべている。


 そういえばゲームだったらこの最初の昇格試験は失敗する方が難しいんだったよなぁ。

 そう考えるといくらか気持ちも楽になる。


 五分程待っただろうか。

 

 受付の人が試験結果専用の掲示板に近づいているのが見えた。

 合格者はあの掲示板に名前が書かれた紙が貼り出されるとのことらしいからアレがっとそうなんだろう。


 全て貼られ、受付の人が遠ざかって行く。


 遠くからでも分かる。

 紙が八枚貼られているのが。


 これ絶対全員合格だろ。


 掲示板に近づくと案の定受験者全員が明るい顔をしている。

 俺の名前もちゃんとある。


 皆が自分の名前を掲示板から剥がし受付へと足を進める。


 なるほど。

 ランクも上がったしギルドカードの更新をするんだろう。

 今のままだとFの文字が刻まれたままになるからな。


 俺も同じようにして自分の名前が書かれた紙を持って受付へ。


 カードを渡すと受付の人は後ろの機械にギルドカードを差し込む。


 戻って来たギルドカードを見ると青色のFと書かれていた部分が黄緑色のEに変わっていた。


 これで俺もEランクだ。

 小さな一歩とはいえやっぱ嬉しい。


 これからは最も危険度が低いとはいえ討伐依頼が受けられる。

 今までは雑用依頼しかなく低賃金だったがこれからはバッタバッタと敵を倒して一気に金を稼いでやるぜ!



------



 ランクの上がった俺は座ったままぼーっとしている。


 そう。六人掛けの机にぽつんと座っているのだ。


 寂しくはない。

 周りは複数人でいるのに一人で座っているが、寂しくないぞ。


 さて、これからどうするか。

 依頼受けるか?

 いや、もう日も傾いてたしなぁ。


 ちょっと早いが晩飯にするか?

 合格祝いって事で多少豪華な物でもいいな。


 頬杖をつきながらそんな事を考えてるとふいに目の前が暗くなる。


「よう、ちょっといいか?」


 顔を上げると体がゴツくスキンヘッドの厳つい顔が俺の顔を覗きこんでいた。

 歳は三十後半ってところか。


「えーっと。……確か今日の試験の審査員やってた人ですね」


 近くで顔は見てないが間違いないはずだ。

 別に頭で判別してるわけじゃないぞ。

 違うぞ。


「そうだ。あぁワシに敬語はいらんぞ。ちょっと聞きたいんだがお前さん何でFランクだったんだ?」


 気さくなスキンヘッドだな。

 本人がそう言うなら普通に喋らせてもらおう。


「なんでと言われても……」


 ちょっと異世界から来まして。

 とか言えねぇ。


「気になったのはお前さんの魔法、それとあの瞬発力だ。商人や農民とは思えん。随分と能力が高そうだがどっか兵士でもやってたのか?」


 兵士か。

 そういった嘘も使えそうだ……が、無理だな。

 初級のファイアボールしか使えず近接戦闘はした事が無い。


 うむむ。


 腕を組み悩んでいるとハ……いや、スキンヘッドが空気を読んでくれたのか続けて喋る。


「いやすまんな。無理に聞き出したい訳じゃない。さっきも言ったがFランクにしちゃ能力が高いしちょっと気になっただけだ。その黒髪も珍しいしな」


 黒髪が珍しい……?

 見た事がないではなく珍しいか。


 もしやこいつ俺以外にも見た事が……。


「なぁ、俺以外に黒髪の人を見た事があるのか?」

「ん? ないぞ」


 このハゲ!

 ちょっと期待したじゃねーか。


 まぁいい。

 話し込んで面倒な話題が出ても嫌だしここらで切り上げて晩飯食いに行くか。


「そうか。んじゃ俺はそろそろ行くよ。」


 そう言い席を立つ。


「おう! じゃあな……っとそういえば名を名乗って無かったな。ワシはカイナ・ラヤトレオと言う」

「俺は来宮優一だ。冒険者同士またここで会うだろうからよろしく頼むよ」

「そうだな。今度会った時はヤゲヌク・ヤハラオという今日の審査員やってたもう一人の男も紹介してやるよ。」

「分かった。ゲヌクさんとやらにもよろしく伝えておいてくれ。それじゃ」



------



 晩飯を済ませ宿に帰った俺はベッドに横になっている。

 思い出すのは日が傾く頃の出来事。


 気づかなければよかった。


 知らないままでいたかった。


 だが現実は容赦なく俺に不安を与える。


 ダメだ。


 この不安に押し潰されてはいけない。


 この不安が現実のものとなってしまう。


 俺は誓う。


 もし……もしも危険が迫ろうと俺は守る。


 必ず守る……と。


 強い想いを胸に俺は眠りについた。

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