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三十九話「死闘」

 戦える状態なのは俺とハリード。

 お互い体力回復薬が後一つ使えるだけとなっている。

 魔力が回復出来ないというのは初めてな気がする。


 剣の刃こぼれも一層酷くなっている。

 未だに刃が通る事が不思議なくらいだ。

 手に入れたばっかりなのにもう買い替え時だとは。


 ハリードが二人を下がらせている間はたった一人。

 全ての攻撃がこちらに降り注ぐが回避、回避、回避。


 やはり全体的に動きが早くなっている。

 それに加えて巧みな動きをするようにもなった。


 だが能力アップはこちらも同じ事。

 いや、それ以上に俺が上がっている。

 今の所は当たる気がしない。


 しかし急に攻撃が早くなったり動きに緩急が付き始めたり。

 もしかしなくてもディザストロ自体が戦闘に慣れていっている?

 そうだしたらやはりここで倒しておくべきだろう。

 今更逃げられるとも思えないしな。


 相手の腕が迫ってくる。

 ただの叩きつけ。

 範囲を見極めバックステップが必要分だけ下がる。

 目と鼻の先を爪が通りすぎた。


 奴が腕を引く瞬間にこちらも踏み込む。

 同時に剣を振り上げ、降ろす。 


 右上から左下に向かって一閃。

 体を回転させ、右下から左上に向かって切り上げ。


 コンラッドとカーティスがやっていた連携を一人で行う。

 更に、両手持ちにして交差された点を断つように左から右への水平斬り。


 一瞬で三連撃を繰り出したところで反撃が飛んでくる。


 それを回避。

 そして再び攻撃。


 限界突破を使ってからは一方的だといえる戦いだろう。

 相手の攻撃は当たらずこちらだけが当てている。

 しかし後どのくらいこれを続けられるのかは分からない。


 更に少しずつ体力も奪われ続けている。

 普段よりも早く限界が来るはずだ。


「うぉぉぉぉぉおおお!」


 後方から鋭い突きがディザストロに吸い込まれるように向かっていった。

 待ってると長く感じたが、ようやく戻ってきたか。


「待たせたな」

「なに、余裕だよ」


 お互い前を向き、顔を合わせず言葉を交わす。


 長いリーチを生かし攻撃を受ける事なく戦うハリード。

 俺は限界突破を使い続け懐に入って戦う。


「おい、瞳の色がまた変わったぞ!」

「赤目だ……」


 残り三パーセントの合図だ。

 ここまでくればゲームではほぼ勝ちと言っても良かったが――。


「うぉっとっと! これじゃ近寄れねぇぞ!」

「くっ……反撃が……」


 ディザストロが更に攻撃速度を上げてきた。

 見えはするが体が反応しきれない。

 俺も回避に専念しなければ避けきれない程だ。


 くそ!

 ディザストロめ。

 まだ隠し球を持ってたか。


 残り少ないが魔法を使うしかない。

 倒すには足りないだろうが、隙が出来れば。


「これで……ファイアボール!」


 一発だけ。

 隙が作れればそれでいい。


 ボンッ、と爆発音を出して肩に命中するが反応はない。

 ダメージがあったとしても取るに足らないのだ。


「ダメだ! 効いてねぇぞ! 中級のは使えないのか!?」

「もう魔力がないんだ!」


 使えても後一度ファイアボールを使えば魔力がカラになる。

 ダメ元でやるか?

 いや、意味が無いだろう。

 他の方法は何かないか……?


 考えろ。

 考えろ!

 考えろ!!


『ねぇ。知ってる?』


 ふいにゲーム時代の記憶が蘇った。

 いつぞやの湖のアレか?


『勝った後のムービーで弱点が発見されてたよ』


 いや、違う。

 これは……。


『赤目になったら背中側の首の付け根に出てくるんだって』


 そうだ。

 これは初めてディザストロに勝った時の記憶だ。

 正確には勝った後に町に戻り、祝杯を上げた時。


『ゲームでもそこ狙えたらいいのにね。あ、でも赤目ならそのまま攻撃した方が早いか』


 この後皆で笑ったんだった。

 弱点あるのかよって。

 でも残り三パーセントなら意味ないじゃんって。



------



「ハリードォ!」

「なんだぁ!?」

「一瞬でいい! 注意を引いてくれ!」

「それはいいが、何か考えでもあるのか?」

「ある! 俺が仕留めてやる!」

「……ったくCランクの癖にいっちょまえに。いいぜ、やってみろ!」


 そう言うや否や飛び込むようにディザストロに接近するハリード。

 地面の砕ける音や何かを斬る音が耳に入る。


 剣の鞘を割れた地面に差し込み固定させる。

 そして足を掛けて一気に背中へ乗り移る。


「あれか!」


 首の付け根。

 禍々しい黒い色をした水晶のような物がある。

 アレさえ破壊すれば。


 背中を蹴るように走り、剣を両手で逆手に持ち替える。

 勢いをつけ、全体重を乗せて。

 突き刺すように全力の一撃を叩き込む。


 バギンッ!


 堅い物が砕けるような。

 そんな音がした。


「おいおい……嘘だろ……」


 ウノースの迷宮で手に入れたシャルールが根元から折れていた。

 弱点じゃないのか!?


「ぐわぁぁあああ――!」


 前方から声。

 ハリードがやられた?

 ここからだと見えないが、恐らくそうだろう。


「ここまで来て……いや、これは……!」


 こちらの武器は完全に折れていたが、黒水晶も無傷ではなかった。

 あちこちにヒビが入っている。


「おおおおおおぉぉぉ!」


 となればやる事は一つ。

 強化された身体能力で殴る!


 自分自身でも腕がブレて見えた。

 間違いなく強力な一撃だと言えるだろう。


 ピシッ。


 少しヒビが伸びた?

 いや、見間違いか?


「おおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」


 続けて二発目、三発目を追加。


 ビキッ。ビキキッ。


 いける。

 後少しだ!


 トンッ。


「――えっ?」


 四発目。

 全くと言っていい程力が入っていなかった。


 気付けば限界突破が切れていた。

 反動が来る。

 マズイ。

 もう一度。


「リミットブレイク!」


 感じない。

 力が溢れるような感覚が。

 戦闘意欲が刺激されるような感覚が。


「くっ! これならっ! どうだぁぁぁぁあああ!」


 叫ぶようにファイアボールを唱える。

 目の前で見た爆発は迫力があるように見えた。

 普通の水晶なら木っ端微塵になっているだろう。


「はぁっ……はぁっ……」


 黒い水晶は。


 健在した。


 まるで俺を嘲笑うかのように。


 ……ダメだ。

 もう力が入らない。

 おまけに魔力もない。


 打つ手が……ない。


 ふと。

 後ろで何かが動いた気がした。

 恐る恐る振り向く。


「……あ」


 背中には鋭利なトゲ……鱗と呼んでいた物がある。

 簡単に人を殺せる程に切れ味がいい。

 身をもって体験済みだ。


 それが一つ、二つと上に浮かんでいく所だった。

 もしこれが全てが浮かび上がるとゆっくりと旋回する。

 そして一斉に降り注ぐ。


 恐らく狙いは俺とハリードだろう。

 逃げる力は残っていない。

 怪我をしているであろうハリードも避けられるとは思わない。


 死ぬ。

 この攻撃には耐え切れない。

 防御も出来ない。

 二人とも死ぬ。


 そして次に離れた仲間達も死ぬ。


 そう確信した時。


 遠くに居る人物と目が合った。


 その人物はいつも俺と一緒に居た、いつも俺を心配してくれていた。


 薄い金の髪に綺麗な翠の瞳を持つ女の子。


 その子は首にネックレスを掛けている。

 そのネックレスに手を伸ばし――。


 唐突に俺の中に魔力が流れてきた。

 それを感じた瞬間に、更に魔力が追加された。


 これなら使える。

 今の俺が撃てる最大の魔法が。


「これで……終わりだぁぁあああああああ!」


 手をかざし叫ぶ。


「ファイアァァブラストォォォォォオオ!」


 猛烈な勢いで水晶に襲い掛かる炎の嵐。

 それが零距離で放たれている。


「グギャアアアァァァアアア」


 ディザストロが絶叫する。

 効いている。


 魔力を流し続ける。

 以前鱗は空中へと舞い上がっている。


 パキッ。


 最後の鱗が背中から離れる。

 全てが空中へと浮かんでいる。


 パキパキッ。


 その全ての鱗が旋回を始める。

 ディザストロの、俺の上をぐるぐると回る。


 あれが落ちてくればこちらの負け。

 それまでに黒水晶を砕ければこちらの勝ち。


 パキパキパキッ。


 視界の隅で一枚。

 微かに他の鱗と違う動きをする物が見えた。

 予備動作が終わった。


 パキキキキキッ!


 そして――。


 パリンッ!



 黒の欠片が辺りに散らばった。

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