三十五話「救助」
休憩を終えた俺達は、再び北へ向かっていた。
コンラッドとカーティスは見張りをして。
シンディとエドナは余った芋を食べ。
俺とコゼットは大人しく休憩をしていた。
ふと馬車の外を見ると茶色の地面が白く霞んでいるのが見えた。
顔を出し空を見上げると、雪が地面へと降りてきている。
吐く息も白い。
剣で地面を突っついてみる。
ザクッと刺さり、そのまま馬車の移動につられてザリザリと地面が削れる。
特に凍ってはなさそうだ。
これなら戦闘には影響なさそうだな。
そんな事を考えながらしばらく馬車に揺られつつ外を見ていると、前方に何かを見つけた。
だが、一体何なのかが分からない。
遠いのもあるが、形が歪なのだ。
見張りをしていた二人も気付いたらしく、注意深く観察している。
「おい! あれ……馬車じゃないか!?」
「そのようだな」
あぁ。
そう言われると馬車にも見える。
というか馬車だ。
分からなかったのは破壊されているからだった。
近づくにつれ、外れて転がっている車輪や積んでいたであろう荷物も見えた。
それと同時に人の怒声のようなものや、獣の唸り声といったものも聞こえてきた。
「襲われているようだな」
「助けに行かなきゃー」
「そうだねー。急いであげよー」
戦闘が行われている場所へと辿り着くと、冒険者側が劣勢だった。
辺りに魔晶石が散らばっている。
かなりの数の魔物を討伐しているのだろう。
それでもまだ多くの魔物が存在している。
「加勢するぞぉぉぉっ!」
誰よりも早く馬車を飛び降りていったのは案の定コンラッドだった。
だからせめて停止してから降りなよ。
「まぁ、俺も行くんだけどな」
続いて俺が飛び降りる。
冒険者のそばにいた魔物を数体切り裂いて声を掛ける。
「おい、重症の奴と一緒に俺達の馬車に行ってくれ」
「ぐっ……すまない。恩に着る」
自身が消耗しているのは他の誰でもない自分が分かっているのだろう。
悔しそうな表情をしながらもすぐに行動を開始した。
一人では動けそうにない者は俺自身が馬車まで連れていく。
馬車まで戻るとコゼットがヒールを掛けている最中だった。
「コゼット。ネックレスの魔力共有機能を使え」
「えっ……でも……」
「いいから」
俺の魔力切れを心配しているのだろう。
だが、今の所魔力回復薬はどれも使用していない。
大丈夫だろう。
多分な。
馬車を降りると早速魔力が減っていくのを感じた。
よしよし、ちゃんと使ってるな。
しかし勝手に魔力が無くなっていくのは変な感覚だ。
それより早く戻らなきゃな。
サボりはよくない。
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何事も程ほどに。
頑張るのはいいが、度を超えるのはいけない。
だからある程度リラックスしよう。
そんな事を思っていた時期が僕にもありました。
「っと、あぶねっ!」
相手の攻撃を躱し、腕だけを相手に向ける。
魔法を放ち直撃すると一体の魔物が光となって消えた。
「次から次へと……キリがないな」
警戒を緩めることなく周囲に意識を飛ばす。
リラックス?
そんなもんは知らん。
集中してなきゃ死んでしまう。
ぼやきながらも体を動かし、剣を振る。
今戦闘しているのはホワイトウルフという魔物だ。
シルバーウルフの上位にあたる魔物である。
太陽に反射して輝いて見える全身を覆う体毛は綺麗だと言える。
きっと防具にしても人気が出る事だろう。
そしてこいつ等、厳しい寒さの環境で鍛えられたのかやたらと強い。
大きさは然程シルバーウルフと変わらないように思えるが戦うと大違いだ。
それが何体もいる。
「ふぅ……」
更に一体倒した所で一息つく。
魔力が少なくなってきたのでこの隙に魔力回復薬をグビり。
「――っ!」
その瞬間、後ろでジャリ、と音がした。
反射的に振り返るといつの間にか背後に回っていたホワイトウルフが飛び掛ってくる。
噛み付きか!
爪ならまだしも牙はこちらの防御を突破してくる。
「こんにゃろっ!」
体を仰け反らせ、ギリギリで回避に成功する。
こちらが構える頃には相手も着地しこちらに向き直っていた。
時間にして数秒。
お互いがお互いの動きを窺っていたその時。
「隙ありー」
突如視界にシンディが入りこみ、一瞬のうちに首を掻っ切っていった。
そして既に次の標的に接近している。
忍者みたいな奴だ。
なにはともあれ助かった。
単体に時間を掛けたくはない。
限界突破を使わなくてもある程度は戦える。
ホワイトウルフもそこまで高ランクって訳ではないのだろう。
それでもこうも多いとな……。
「ん?」
ふと、魔力が減っていないのに気がついた。
馬車に何かあったのかとそちらに頭を向けると、コゼットが馬車から身を乗り出していた。
「――さーん! ま――い――すか――」
何言ってるのか分からない。
が、予想はつく。
先ほどからちょいちょい魔法も使ってるから魔力の消費が激しい。
それをあちらでも感じたのだろう。
あ、そういえば魔力回復薬は持ってるのか?
馬車の中にもあると思うが、念の為一つ渡しておくか。
「ユウイチさん! 魔力は大丈夫ですか?」
「あぁ。気にせずガンガンヒール使え!」
それとコレを飲め、と伝えて魔力回復薬を手渡し再び魔物目掛けて駆け出す。
適当な奴に接近し雪が混じった土を蹴り上げる。
目くらましが効いている間に致命傷を負わせ、消滅を確認してから腕を上げた。
魔物が数体直線上に並んでいたのでファイアブラストでまとめて処理。
コンラッド達は囲まれないように、そして馬車にも気をつけながら戦っている。
俺は連携に混じらずに自分の判断で動いている。
お互いが最も力を発揮できるやり方だ。
とはいえ、さっきみたいにフォローされる事もあるんだが。
時間としてはせいぜい十数分だろうか。
実際に戦っているともっと長く感じた。
あれだけいた魔物が今や数える程度になっている。
ようやく一息つけそうだ。
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「はぁ……疲れた」
何とか全てを倒しきり馬車へと戻る。
周りを索敵してきたが何もいなかった。
さて、休憩休憩。
しばらくは獣人姉妹が見張り役だ。
コンラッドは壊れた馬車の中から使えそうな物を探している。
先ほど助けた冒険者達は御者を含めて全員で六名。
全員軽傷で済んだようだ。
ヒールと回復薬を使ったから、今日一日休めば問題なかろう。
馬車を破壊される程の襲撃があった割には人的被害が少ない。
不幸中の幸いだな。
俺達もいいタイミングで合流したようだし。
「ユウイチさん。魔力は大丈夫ですか?」
馬車の壁にもたれて休んでいるとコゼットがやってきた。
そういや今も魔力があんまりないんだよな。
という事はコゼットもない訳で。
「あぁ、俺は平気だ。そっちこそ大丈夫か?」
「少なくはなってますけど、わたしは大丈夫です」
「そうか、俺も少ないけど問題はないよ」
既に魔力共有の機能は使っていない。
が、停止する直前に残っている魔力は分かる。
停止すれば残り魔力が半分こされる仕組みだ。
ネックレスのメイン機能は防御なのにそっちは役に立ってないな。
まぁそれでいいんだけど。
「人間が居ないな」
カーティスが難しい顔をしながらそう言った。
人間? あぁ、確かにそうだな。
そういえば邪教徒のアジトでも見たのは二人。
ジェスターが逃がした奴がいたとしてもそう多くはないだろう。
人手不足なのか?
それとも人手はいらないのか?
「よっと、そういや先に進んでいる奴等もあれから見かけねーな」
「あ、そういやそうだな」
両手にたくさんの荷物を持ってコンラッドも戻ってきた。
意外と量があるな。
手伝えばよかったか。
俺達より先に出た馬車はまだあったはずだ。
往復して冒険者をどんどん増やしていく。
そういう計画だった。
一台は既に破壊されている。
これは仕方ないだろう。
だが、他の馬車とすれ違わない。
全ての馬車がまだ移動してるのか?
いや、戻りたくても戻れないのか。
御者だけで戻ろうとしてまた魔物が襲ってきたらそれで終わりだ。
最初に出た冒険者は後から合流してくる冒険者が必要だ。
そこで初めて後方の状況を確認する事が出来るのだから。
前に合流を待っている人がいるかもしれない。
そう結論付けた俺達は先へと進む。
しかし人数が多いせいだろうか。
馬車のスピードが遅い。
魔物に襲われないし、いいか。
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何度か見張りを交代した時。
先の地面が変化している事に気付いた。
人工物っぽい。
しかしボロボロだ。
所々ヒビが入っていたり、崩れているのが分かる。
壁は見当たらない。
崩れて全てが地面に落ちてしまっているのだろうか。
「変わった模様だねー」
丁度地面が変化した部分へ差し掛かると、エドナがそんな事を言った。
確かに模様が書かれてある。
割れていたりして見づらくはあるが、どこかで見たような気もする。
どこだったか。
この感覚はこの世界に来た時に経験した事がある。
えっと、あぁそうだ。
石の祭壇を見た時によく似ているんだ。
――あ。
ここ、ディザストロの寝床だわ。




