三十三話「二つの覚悟」
白い本を手に入れてから二日。
相変わらず迷宮探索を続けていた俺達は面白い物を見つけた。
氷花庇護のネックレスという物だ。
これは性能を鑑定してもらった後、遊びでエドナがコゼットの首にかけた所、光を発した。
なんだ? と思ったが、ピンときた。
ゲームでもあった「帰属」というやつだろう。
装備者以外は使用不可になるのだ。
ちなみに鑑定ではそこまで説明されなかった。
ネックレスはコゼットのみが使用出来る装備へと変化した。
その後は誰が首にぶらさげてもうんともすんともいわなかった。
当然、鑑定によって教えて貰った機能も使えない。
このネックレスの能力は、装備者を護る事。
物理、魔法どちらにも反応し、氷の花びらをした盾が展開される。
基本的には自動だが、自分の意志でも展開は可能だ。
試しに頭にチョップをしたら、盾なんて展開されずコゼットの頭を叩けた。
敵意の有無も判定されているっぽい。
涙目になったコゼットへは、寝る時にコゼットが寝るまで頭を撫でる、という事で許しを得た。
更に魔力共有の機能もあるらしく、誰か一人を登録できる。
コゼットはヒールが使えるから一応俺を登録しておいた。
少し使ってみたが、こちらは発動させている間は二人分の魔力が合わさった状態となるようだ。
単純に最大MPが増えていると思っていいだろう。
他にもいくつか武器や防具を手に入れたが、装備時帰属の特性を持った物は手に入らなかった。
レアだったのかもしれないが、もう売れないだろうから気にしない。
しかし迷宮というのは楽しい。
ゲームには無かった要素だが、それもまた楽しめる要素となっている。
勿論、危険がある以上楽しいだけではないのだが、この冒険心がくすぐられる感覚はいいものだ。
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異常があったのは更に一日経過してからだった。
このウノースの町にもギルドはある。
いつものメンバーで前を通りがかった所、朝っぱらから何やら騒がしいので野次馬根性で覗いてみた。
「だからっ! 邪教徒の奴等が集まってるんだって!」
そう叫んだ男は首都ノレストから来たらしい。
その顔からは必死さが滲み出ている。
昨日の真夜中に着いたらしいが、皆が寝静まっていたので自身も一晩休み、朝からこうして皆に伝えているとの事。
ギルドの掲示板には既に緊急依頼が張り出されている。
だが、詳細が「ノレストから真っ直ぐ北へ進んだ場所で邪教徒が儀式を行っている」としか書かれていない。
何の儀式なのかは勿論、相手の人数も不明だ。
前回も相手の人数は不明だった。
となると違う点としては準備期間がないって事か。
……結構厳しいな。
ギルドとしても、アジト制圧の件で邪教徒をより危険視したのか、依頼内容に「儀式の阻止(最優先)」と書いている。
もしかしたら既に出発している人達も居るのかもしれない。
「こりゃ迷宮攻略は中止した方がよさそうだな」
真剣な顔でコンラッドが喋る。
「そうだな。恐らく周りも準備を整え次第出発する様子だ。俺達も支度をして出発した方がいいだろう」
「そうだねー」
「さんせーい」
残りのメンバーも賛成のようだ。
勿論俺も賛成する。
しかし、コゼットはどうする?
連れてけー連れてけーとねだられるのは目に見えてるが、迷宮と同じく危険だ。
いや、場合によってはそれ以上に。
とはいえここに残して行くのも気が引ける。
「前回と同じく拠点は作るはずだ。連れて行っても問題なかろう」
悩んでいるとそんな事を言われた。
何も言ってないのに、カーティスは読心術でも使えるのだろうか。
しかしそうか。
幸い今ならネックレスもあるしな。
「コンラッド、悪いけど一度宿に戻っていいか?」
「おぉいいぞ! コゼットちゃんに伝えてこい!」
「いってらっしゃーい」
コンラッド達は消耗品を買いに行くというので、俺とコゼットの分も一緒に頼んでから宿へと向かった。
また邪教徒との戦いか。
白い本の事も気になるし、覚悟を決めてかからなければ。
部屋の前まで到着し、ドアノブを回す。
食材の買い物へは昼頃に行くと言っていたから多分居るだろう。
「コゼット、居るか?」
ガチャッとドアを開けて部屋へと入る。
「えっ――――」
どちらがその声を発したのか、またはどちらともが発したのか。
コゼットはそこにいた。
上は防具でも何でもないただのシャツ。
下は、着替えていたのだろう。
パンツしか履いていない。
薄い青色で真ん中には小さなリボンがワンポイントとしてついている。
最近の流行下着はシンプルなデザインなのだろうか?
履こうとしていたのか、スカートを手にしたまま固まっている。
「あっ……あぁっ……」
「よし、落ち着け、落ち着くんだコゼット」
金魚のように口をパクパクさせるコゼット。
その顔は既に真っ赤になっている。
「きゃ――」
まずい!
「限界突破!」
即座に身体能力を上げてコゼットへと迫る。
一切無駄のない動きで到着し、コゼットの口を手で塞ぐ。
ついでに暴れられないように腕を固定し足を絡めて体の動きも封じ込めておく。
これにより事案の発生を阻止。
任務完了である。
限界突破、解除。
「落ち着けコゼット。話せば分かる。まだ慌てる時間じゃない」
「むぐ……んむむぅ……」
そう。
俺のように落ち着くのだコゼットよ。
冷静になれ。
話せばきっと俺達は分かり合える。
今まで苦楽を共にしてきた仲間なのだから。
「……」
気付けばコゼットが大人しくなっていた。
いや、ふとももをもじもじと動かしている。
俺の足が間に入っているのでその感触がハッキリと分かる。
……あぁ!
気付かなかった。
そうだな。
下はパンツオンリーだ、そら寒いだろう。
コゼットを引きずってベッドへと連れていく。
「むむぅ!」
何か思う所があったのか、コゼットの目が驚いたように開かれる。
「んぐぐ……ぷはっ! ななな、何するんですかっ!?」
手をズラされてしまった。
強化を維持すべきだったか。
「コゼット、大丈夫だ、落ち着け」
「大丈夫!? な、何が大丈夫なんですか!?」
「なに、すぐ暖かくしてやるさ」
「えぇぇぇ、どうやって!? まだキキ、キスもしてないのにそそ、そういうのはま、まだ心の準備が……」
「――え? キス? 心の準備? なにそれ」
「え?」
言われている意味が分からず、素で聞き返してしまった。
コゼットもそんな俺の様子を見てきょとんとしている。
二人共完全に真顔だ。
なんだコレ?
落ち着け。
そして考えろ。
整理するんだ。
今の状況を。
下着姿の女の子の動きを封じ、ベッドへと連れていく二十歳の男。
なるほど。
事案を封じたはずなのに既に事案が発生していたという謎が発生。
どういうことだってばよ。
がちゃ。
「ユウイチやーい。頼まれた物買って――え?」
「うわっと。エドナー。扉の前で止まらな――え?」
手早く済ませてきたのだろう。
回復薬をたくさん手に持ったシンディとエドナが部屋の入り口に立っている。
四人が真顔となった。
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「ごめんなさい」
説明した、それはもう必死に。
叫ばれそうだったのでついテンパって口を塞いでしまった事。
寒そうだったのでベッドに連れて行こうとした事。
それらを話し、ひたすら謝り続け何とか誤解を解く事が出来た。
だが……。
「……」
コゼットはそっぽを向いている。
先ほどから謝っているが、許してくれる気配がない。
激おコゼットである。
シンディとエドナは「アホらし」と一言だけ残し既に自分達の部屋に戻っている。
くそぉ。
邪神教と戦うより辛い。
「はぁ」
どうしたものかと考えていると、コゼットがため息をついた。
「ユウイチさん」
「はい、なんでしょうか?」
「ギュッってして下さい」
「はぁ? あ、いえ、すぐに」
「次は頭を撫でて下さい」
「はい」
とりあえず言われた通りに抱きしめつつも頭を撫でる。
いつも通りの小さな体、ふわふわの髪質を感じながら次を待つ。
「仕方がないので、着替えを覗いた事はこれで許してあげます」
ゆ、許された。
チョロ……いや、感謝しなければ。
「おぉ、ありがとうコゼット!」
「んむぅっ!」
おっと、ちょっと強く抱きしめすぎたか。
「すまんすまん」
「もうっ! あ、それとですね……」
「お?」
「えっと、その、キ、キスとかその、えっと」
あぁ、アレね。
流したほうがいいかと思ってつつかなかったけど、自分で掘り返してきたか。
好かれているのは分かっていた。
が、まだ早いだろう。
こっちの世界ではどうか知らんが、俺の感覚ではまだまだ青二才よ。
「そういうのはもうちょっと――」
「ユ、ユウイチさんはっ! し、したいと、おも、思わないんですか?」
なんかグイグイくるな。
こういった事は今までゼロではない。
その度に軽く流してきたが、今日程突っかかってくる事は無かった。
ふとコゼットを見ると、真っ赤にしつつも真剣な顔をしていた。
まだあどけなさが残っているが、もう数年すればぐっと女らしさも増すだろう。
数年後の俺はこの少女にどんな気持ちを持つだろうか。
最初は御伽噺に憧れたごくごく普通の女の子だと思っていた。
一緒に暮らしていつの間にか信頼していた。
あれこれと世話を焼いてくれたり、甘えてくれたりすると嬉しいと思う自分がいた。
そんな自分の気持ちに気付いていながら今まで見ない振りをしていた。
気付かない振りをしていた。
俺自身もコゼットに少なからず好意を持っている。
それを認めよう。
そして、覚悟を決めよう。
先ほどから大きな目を逸らす事なくじっとこちらを見ている。
手を肩の位置にずらす。
「コゼット」
名前を呼び、ぐっと顔を近づける。
「ユウイチさん……」
俺の服を強く掴み、目を閉じるコゼット、
元々近かった顔の距離を更に近づけていく。
そして、そのまま額に軽く口をつけた。
「ふぇ?」
「今はここまでだ。この先はもう数年後な」
これ以上はいけない。
線引きっていうのは大事なもんだ。
「じゃ、じゃあ今はこれで我慢してあげます」
不満そうな台詞だが、顔は緩み、先ほどよりも強く抱きついてきている。
俺も腕を背中に回し、少し強めに抱きしめ返す。
ふぅ、これで大丈夫だろう。
なんか少しスッキリした気分だ。
こういう気持ちも悪くない。




