三十二話「三冊目」
「お、おい、それ」
思わず声が出た。
この国の首都で二冊しかないと聞いていた。
続いているとは思ったけど、なぜここに?
「なんだなんだ? ユウイチはこれが何か知ってんのか?」
「え? お前等が神書って呼んでいる本だよ」
「神書? なんだそりゃ」
あ、コンラッドは知らないのか。
そういえばアティナも知らなさそうだったな。
知ってるのは教会関係者だけなのか?
いや、それは今どうでもいいか。
「んー、説明するのが難しいな。いいからちょっと開いてみてくれ」
「なんだこりゃ。読めねーじゃねーか」
「どれどれー。あ、ホントだ読めないやー」
「なんて書いてあるのー?」
「確かに読めんな」
他の面々も神書を覗くがやはり誰も読めていない。
俺には読みなれた日本語にしか見えなのだが。
「良かったらさ、それ、貰ってもいいか?」
「何に使うんだこんなもん?」
「いや、教会に置いてあるんだよそれ。神書って呼ばれてるくらいだからさ、その、寄付しようと思って」
「はぁん。ま、いいけどよ」
誰も興味がないのかあっさりと俺の手に渡る。
とっさに寄付なんて言ってしまったが、中身さえ書き写せばいいから問題はないだろう。
嘘はついていない、うん。
「ねー。そろそろ帰ろうよー」
「そうだな」
シンディとカーティスの声に全員が同意する。
今日は最高記録を更新したしな。
本は戻ってからゆっくり読むとしよう。
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宿へと帰ってきた。
部屋に入ったら、皆で装備の手入れや消耗品の確認をするのがいつもの流れだ。
「ふぅ。疲れた」
「ほんとにねー」
「今日は特別に疲れたねー」
中ボスっぽい奴だったが、やたら強かった。
肉体的には勿論、全員精神的に疲労したようだ。
「なら明日は休みにするか?」
「そうだな! 休む事も戦士には必要だ!」
カーティスの声にコンラッドが賛同する。
この男はパーティーの体調管理にも気をつけているんだろうか。
出来る男だ。
なにはともあれ俺としても嬉しい。
休みは提案するつもりだったし。
明日丸一日休めば反動も治るだろう。
皆で食事をしてそれぞれの部屋へと戻る。
「さて、早速読むか」
「ユウイチさん。お風呂はどうしますか?」
「あー、そうだな。俺は後でいい」
まずは本だ。
さっきから気になってしょうがない。
パラパラと読み進めていく。
どの神書も薄っぺらい本で、読めば大事な所が分かる。
理由は分からんが。
「えーっと……」
ごそごそと荷物を漁る。
中央都市で見つけた神書の内容のメモも持ってきている。
照らし合わせないとな。
ない。
あれ?
どこだっけか。
「はい。これですか?」
「お? あぁそれそれ」
コゼットがメモを渡してくれる。
よく分かったな。
流石コゼットさんや。
お礼に撫でつつ、受け取ったメモに目を落とす。
『神に造られた存在は数を増やしすぎた』
『時に争い、時に自然の力で、それは数を調整した』
『それでも数は増えていった』
『そして次第に溢れていった』
『溢れた者は落ちていった』
『時に自ら消滅し、時に自らが造り出した世界へと』
『続く』
中央都市で本の内容を纏めたのがこの文章だ。
その前のイストで見た本は確か、
世界を創った。
神が大地に自分の力を持つ存在を作った。
その存在は少しずつ増えた。
その力が世界を創った。
とかだったはずだ。
聖書みたいだなーと思ったから割と覚えてる。
アウストラロピテクスという単語がいつまでも記憶に残ってるようなもんだろう。
そして本命。
宝箱から出てきた白い本を再び見る。
なになに……。
『世界へ落ちた神の欠片は力の存在に気付く』
『力は少しずつ身体に馴染んでいく』
『そしてそれは世界を導く』
『役目を終えれば物語はそこで幕を降ろす』
『望めば新たな道が開くだろう』
『そして再び物語が始まる』
『終わり』
この辺りか。
今まで見たのと大きく違う点としては、終わりって書いてある所だろう。
ふと視線を感じて顔を上げると、コゼットが俺を見ていた。
「ん? どうかしたか?」
「いえ、真剣な顔してるのを見てただけですよ」
気にしないで下さい、とニコニコしながら言った。
普通の顔だったと思うが。
まぁ、いつもはダラけた所を見せている事も多いからな。
カッコイイと思ってくれるのならそれを見せるのもいいだろう。
「ふっ、俺の事なら好きなだけ見てていいんだぞ?」
「何かその台詞はナルシストっぽいですね」
「……」
酷い。
どうすればいいんだろうか。
この子の扱い方が分からない。
気を取り直して本の内容を整理する。
一番最初の本と、二冊目。
二冊目と今回手に入れた三冊目はそれぞれ繋がっているのではないか。
そう思うのが自然だろう。
だって続くとか終わりとか書いてるんだもの。
文章の流れとしてもしっくりくる。
神藤良嗣が残したこの本の内容が事実、という言葉を信じればどうだ?
まず、『神が空と海と陸を創った』という部分。
これを地球と仮定する。
あっちの聖書にも似たような記述があった……ような気がする。
そして次に『神の力を宿した存在』の記述。
これを、そうだな、人間と仮定しよう。
『自我を持つ』という部分もあるし。
『数を増やして世界を創りだした』は人口の増加と、なんだ?
新たな世界という事だよな……あ、この世界を創った?
人口が増加し文明が発達した。
様々な物が生み出され、その中の一つにトリックスターオンラインが作成された。
それに限りなく近い世界が生まれた?
ちょっと都合よく解釈しすぎか?
……しかしそれ以外に思いつけないな。
ひとまずそうだとしておこう。
次は『数を増やしすぎた』か。これは単純に人口増加でいいだろう。
『時に争い、時に自然の力で、数を調整』あぁ、戦争と、自然災害……かな。
『それでも増える』、『溢れて落ちる』。
これはどういう事だ?
地球の容量をオーバーした?
落ちるというのはどういう事だ?
あぁ、次とセットで考えればいいのか。
『時に自ら消滅』これはあれか。
自殺。
次は『自らが造り出した世界へと』か。
これに落ちるを適用させる。
戦争や自然災害でもまだ超過していた容量分は自殺とこっちの世界への転移で更に数を調整していたって事だ。
神藤とやらも俺と同じで神様の、というか世界の調整に巻き込まれた。
そう考えていいだろう。
しかし神藤がどこに居るのか不明だな。
本に走り書きを残したくらいだ。
既に死んでいる可能性もあると考えておこう。
さて、ここからは三冊目の内容だ。
『神の欠片は力の存在に気付く』。
ふむ、神の欠片を持つ存在は最初に生まれた世界の存在。
ここまで考えた理論で言えば、俺の事だな。
『力は少しずつ身体に馴染む』これ、限界突破の事か?
使えば使う程反動が無くなった。
身体がこの力に馴染んだと言ってもいいだろう。
次は『世界を導く』か。
これは心当たりがないな。
王様になって国の運営なんぞもしてないし、する予定もない。
となると別の事か?
……思いつかないな。
神藤は何をした?
あ。
黒髪の覇者という本が出ている。
内容は……。
えっと、あれ、なんだっけ?
「コゼット。黒髪の覇者は何をしたっけ?」
真横にいるコゼットに聞く。
この子なら覚えているだろう。
出会うきっかけとなった本だし。
「覚えてないんですか? たくさんのドラゴンをやっつけたんですよ」
そうだった思い出した。
竜退治をしたんだ。
あの頃は内容をかなり読み飛ばして黒髪とか火属性の魔法ばかりに目がいっていた。
こうして聞けばいいんだが、どうせなら俺もよく読んでおけばよかった。
となると世界の危機を神藤が救ったって事か?
それなら『世界を導く』と言ってもいい。
俺はまだ何もしていない、となると、これから?
あ!
俺はディザストロか!?
となると復活が確定している?
いや、待て。
導く方向性は書かれていない。
ゲームとは違うんだ。
一つ、復活を阻止して世界を平和に導く。
二つ、復活を阻止できず、しかし討伐して世界を平和に導く。
三つ、復活を阻止できず、盛大に失敗して世界を破滅へ導く。
軽く考えただけでも三パターン出てきた。
最後の怖さは異常。
何か起こっても慎重に行動しよう。
よし、ひとまず本に戻ろう。
『役目を終えれば物語はそこで幕を降ろす』か。
世界を導くという部分で何かのイベントが起こるのは間違いなさそうだな。
失敗して死ねばそこで終わりなのは分かるが、生存した場合は?
……あ、物語にはならないが平和な日々が続くって事か。
次は『望めば新たな道が開くだろう』だな。
これは、新イベント追加って事か?
俺が望めば山あり谷ありの人生を送れる。
望まなければ平穏な日々の人生を送れる。
生存した場合どちらにせよ人生が続くから最後の、再び物語が始まる、に繋がる。
うーん、何か違和感があるな。
どこかで解釈を間違ってる気がする。
あ、ダメだ。
疲れた。
もう考えたくない。
「ふわぁ……。そろそろ寝ませんか?」
おっとコゼットがおねむか。
違和感はあるが、疲れてきたし今日はここまでにしておくか。
ぶっちゃけ面倒だし、俺も眠いし。
「そうだな。寝るか」
広げていた本やメモを片付け、布団に入る。
「うぉ、布団冷てぇ。コゼット、もっとこっちに来い」
「はーい」
ギュッとコゼットを抱きしめる。
ふぅ、これで少しはマシになった。
「さっきしてた事、何か分かったんですか?」
「ん? あぁいや、あんまりだったな」
とりあえず言葉を濁しておく。
上手く説明できそうにもないしな。
それから布団が温まるまで適当な話しをしてから眠りについた。




