三十一話「ウノースの迷宮③」
迷宮探索は順調だった。
もちろん時々危険な目にはあったし、怪我だって何度もしている。
それでも誰一人として欠けていない。
腕や足を失った、なんて事もない。
順調といえるだろう。
個々の能力も上がっているように思える。
未だに全員Cランクだが、昇格試験を受けた感じだと、コンラッドとカーティスなんかはBランクでも充分に通用するのではないかと思う。
シンディとエドナは背後から強襲したり、一瞬の隙を突く、といった感じだから一対一の昇格試験は厳しいかもしれんが。
迷宮探索二回目にはお宝というやつを初めて手に入れる事が出来た。
あれは陸の部屋だったか。
あの部屋は山道になっていて、急な斜面でも駆け上ってくる魔物やら空を飛ぶ魔物やらがいた。
一体ずつ確実に倒して扉の前まで行くと、いかにもな宝箱が置いてあったのだ。
中には短剣が入っていたが、すぐには使わない。
呪われていたら外れなくなっちゃうかもしれないからな。
持ち帰り、ドワーフに鑑定してもらった所「ニ・エブラ」という名が判明。
Bランク相当の武器らしい。
残念ながら特殊効果は無かった。
しかしシンディが今使っているものよりは良質だろうという事で、シンディの物となった。
迷宮探索三回目。
前日にお宝を見つけているせいか、皆のやる気が違った。
「大剣だ! 俺は大剣を手に入れるぞぉぉぉぉ!」
と、一名は激しく雄たけびをあげていた。
試し斬りの異名を持つコンラッドだ。
皆が獅子奮迅の働きをしたお陰か、その日は二つもお宝を持って帰る事が出来た。
しかしながら盾と槍という残念な結果に。
俺達の中でそれらを使う者は居ないので売却が決定。
盾は火の盾、槍は緋撃の槍、という物だった。
他の冒険者に習い俺達も露店を出した。
露店の並ぶ通りには、男のデカイ声が飛び交っている。
同じような事をしても売却に時間が掛かってしまうだろう。
そこで女性陣に頑張って貰うことにした。
シンディ、エドナ共にスタイルや顔は良い方だろう。
こっちの世界の基準はいまいち分かってないけど。
念の為更にコゼットを会計係として追加する。
「いらっしゃいませー。ねぇねぇ、ちょっと見ていってよー」
「あっ、そこのおにーさん! いい槍あるんだけど見てみないー?」
盾と槍を持つ冒険者を主体にシンディとエドナが客を寄せる。
さりげなく腕なんぞを絡めておけ、と言うとその通りに動いてくれた。
半分冗談だったんだが。
普段女っ気なんてないだろう冒険者達はあっさりとこっちまでやってきて装備を見る。
流石に品定め中は真剣な表情だったが。
「どうですか? 気に入ったら買ってくださいね?」
そしてトドメのコゼットスマイル。
三人の女子力のお陰で即売……とまではいかなかったが、それでも早く売りさばく事が出来た。
四回目は初日と同じくボウズ。
つまり、何も手に入らなかった。
攻略自体は三回目までの記録を大幅更新し、拾参の部屋まで到達した。
連携も上手く取れていると思えるようになった。
Bランクの敵でも数が多くなければ問題なく倒せる。
五回目。
この日は再び収穫があった。
片手剣だ。
名をシャルール、というのだが、なんと特殊効果付きだ。
斬った箇所に熱の追加ダメージを与えることが出来る。
以前見たナントカって剣と似たような効果だな。
片手剣を使うのは俺だけの為、これは俺が貰う事にした。
しかもこれはAランク相当の物らしい。
予想以上の物を手に入れる事が出来た。
これが今までの成果だ。
頑張っているとは思う。
他のパーティーと比べてはいないからよく分からんが。
そして六回目の現在。
拾伍の部屋に到達した。
円形に広がった大きな部屋。
ただそれだけだ。
今までの部屋と違い、既に次の扉が見えている。
「お、何もいねーな」
「扉の前まで行ったらうじゃーって魔物が出てくるとかー?」
「一気に駆けて行けば突破できるんじゃねーか?」
今までの流れでいくと楽に次の部屋にはいけないんだが。
楽チンなラッキーエリアなのか、そうではないのか。
考えても分からんな。
「進めばいい。魔物が出たら倒すまでだ」
「そうだねー」
冷静なカーティスとシンディ。
シンプルだけどその通りだ。
考えていても仕方がない。
現にこうして数分経っても何も変化がないからな。
あるとすれば一定ラインまで進めば発動するトラップだろう。
全員で歩き、進む。
三分の一まで歩いた。
特に変化はない。
更に足を進める。
中央まで来た。
特に変化は――。
「上っ! 来るよっ!」
「避けてっ!」
切羽詰ったように叫ぶ獣人族の二人。
その声が俺の耳に届いた直後、頭上に影が差した。
ズンッ。
上から降ってきたものが地面へと着地した。
二本の足で立っている。
背は俺達と大差ないだろう。
顔があり、腕があり、足がある。
そして白くて細い。
「スケルトンかよ! あー面倒くせぇ!」
コンラッドが舌打ちしながらそう言った。
ターン制のゲームだと聖属性に弱い傾向にあるが、この世界にはそんな属性はない。
所々欠けた剣とボロボロの穴空き鎧も着ている。
シルエットだけなら人間と間違う奴も出てくるだろう。
「面倒くさいのか? なんで?」
「スケルトンは元人間って噂だからな」
嘘だろ?
そんな設定があるのか?
「こいつは剣を持っているだろう? 何かしらの剣術を会得していると思っておけ」
カーティスが追加で説明をしてくれる。
となると何か?
冒険者とかが死んで、それが今度は魔物となって襲ってきてるってことか?
生前の技術を使って?
「遠慮なんてないからねー。生きてる時より厄介かもー」
「誰か分からないし、どのくらいの強さかも分からないけどねー」
と、シンディとエドナも教えてくれる。
不確定な情報とはいえ元人間……か。
何かやりにくくなったが、やるしかないのだろう。
俺以外は特に何か思ったりはしていないようだし。
魔物扱いした方が良さそうだ。
「オラアァァァッ!」
いつも通り最初にコンラッドが仕掛ける。
剣同士がぶつかり合う。
「チッ」
受け止められたようで、舌打ちが聞こえる。
骨だけの癖にコンラッドの一撃を受け止めるのか。
力は俺より上かもしれないな。
「私達にー」
「まっかせてー」
背後に回ったシンディとエドナが襲い掛かる。
ガンッ、とやや不安な音が鳴った。
「げっ、刃が通らない」
「硬いー」
刃が通らない?
骨の癖に防御力が高いのか。
立て続けに再び音がなる。
今度は先ほどよりも大きい。
カーティスだ。
「俺でもダメか」
一撃の破壊力ならシンディとエドナを軽く超えるカーティスでもダメ、と。
物理が効かないのか?
なら、魔法を使ってみるか。
コンラッドがスケルトンと打ち合う。
Cランクの中でも上位に位置するだろうコンラッドが防戦気味だ。
それでも何とか持ちこたえている。
今だ!
「ファイアボール」
まずは一発だけ。
威力を最大まで引き上げた火の玉を背後から投げつける。
「ヴァァッ!」
バッ、とこちらを振り向いたかと思ったら大きく跳んだ。
目標が居なくなってもファイアボールはそのまま直進する。
「なっ!」
急いで軌道を変え、コンラッドに当たらないようにする。
ファイアボールは逸れた先の壁で小さな爆発を起こした。
「このやろぉ……!」
俺の後ろに着地したスケルトンに合わせ、ファイアブラストを放つ。
今度は避けられる事なく直撃。
押し出すように壁へと叩きつける。
が、炎の嵐を切り裂きスケルトンが突進してきた。
即座に限界突破を使い剣で対応する。
「くそったれ! なんだこいつ」
「ダメージが通らねぇよな」
援護に来てくれたコンラッドが言葉と共に大剣を振り下ろす。
しかし、ダメージが入った様子はない。
限界突破の出力を上げ、スケルトンの剣を弾く。
つられて腕が上がり、大きく開いた胴体部分に再びファイアブラストを撃ち込み吹き飛ばす。
「ふぅ」
「ユウイチやるねー」
「たおしたー?」
皆が寄ってくる。
「まだ倒せてないだろう。攻撃してもダメージを与えた感じがしない」
「ホントそれだよなー!」
「あっ、立ち上がったよー」
壁まで押し出され、体勢を崩していたスケルトンが立ち上がる。
目の部分は空洞だが、こちらを睨んでいる感じがする。
「っしゃ! 行くぞ皆!」
コンラッドの声が合図となり、両者がぶつかる。
壁役のコンラッドが受け止め、左右と背後から他の三人が攻撃を加える。
俺も側面から剣で斬りかかる。
コンラッドがキツくなってきたら今度は俺が壁役を。
とにかく相手に休む暇を与えず何度も何度も剣撃を与える。
今までに何発入れた?
本当に弱点がないのか?
いや、そんな事はないはずだ。
「はぁ……はぁ」
少し離れて呼吸を整える。
しばらく見ていると、攻撃を防ぐ時と防がない時がある事に気付いた。
単純に威力の低い攻撃は防がないのかと思ったが、違う。
同じような攻撃でも慌てたように防ぐ時がある。
あいつが確実に防ぐ場所があると思っていいだろう。
攻撃の線を見る。
上段から真下への振り下ろし、防がない。
下段からの切り上げ、防がない。
上段から斜めに袈裟斬り、防いだ。
喉への突き、防がない。
胴体への突き、防いだ。
下段から斜めに切り上げ、防いだ。
線が交わり重なる部分が出来る。
防いだ突きもその箇所に近い。
あそこか?
「限界突破」
解除していた限界突破を再び使用する。
検証というには短すぎる時間だったが、試してみるしかない。
エドナと入れ替わるように前へと出る。
狙いは胴体部分だ。
腕を引き、思い切り突き出す。
「!」
気付かれた!?
超反応で防御され、互いの剣が弾かれる。
「胴体を狙え!」
叫ぶ。
視界の隅で誰かが反応した。
大きな剣が骨を貫く為に突き刺さろうとする。
ギンッ!
金属がぶつかり合う音が響く。
防がれた!
いや、まだだ。
限界突破の出力を上げる。
上げる。
上げる。
目がチカチカする。
出力をあげすぎたか?
いや、そんな事はどうでもいい。
俺は前に居る敵を殺せばいいだけだ。
相手の剣を力一杯に切り上げる。
「フレイムチェーン!」
そしてそのまま束縛する。
「うおおぉぉぉぉ!!!」
狙った位置に剣を向け、突く。
最速の突き。
そう言っていいだろう。
今までの中で最も早い攻撃だと確信出来た。
その一撃は途中で止まる事なく骨を貫き、砕く。
「ヴヴアァアァァァアアァアァ!」
スケルトンが長い断末魔を上げる。
数十秒? 一分? それ以上?
気付けば目の前に光の粒子が見えた。
「はぁっ、はぁっ!」
体が限界か。
あちこち痛い。
ギリギリ歩けるくらい、だな。
「おい! やったな!」
「すごいすごーい」
「さすがー」
皆がこちらに駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
カーティスだけは俺の異変を感じとったのかそんな声を掛けてくれる。
頼れる上に気配りも出来る。
いい奴だ。
「あー、体を酷使した反動だ。問題は無いが、今日はもう戦えないな」
全身が若干軋む。
仕方が無かったとはいえ、本当にこれは嫌だな。
「おぉっ、見てみてー!」
エドナのはしゃぐ声に釣られ目を向けると、次の部屋に向かう扉の前に宝箱が見えた。
この部屋はアレ一体だけだったのか。
あー、でも納得の強さだな。
「次は大剣だろ! なぁっ!?」
期待を込めるコンラッドが宝箱へと走って行く。
俺はその後をゆっくりと歩く。
「あ……?」
宝箱を開けたコンラッドの間抜けな声が聞こえた。
なんだったんだ?
反応的に大剣じゃない事は分かったが。
「なんだこりゃ……」
ようやく辿り着き上から覗き込む。
あれは……!
そこにはイストと中央都市で見た白い本があった。




