二十九話「ウノースの迷宮①」
目が覚める。
今日は迷宮へ赴く記念の日。
初迷宮である。
しかし寒い。
布団から出たくないというこの気持ち。
元の世界以来だ。
懐かしいなぁ……。
横を見るとコゼットが居なかった。
どおりで寒い訳だ。
起きて朝飯でも作ってるんだろう。
下へ降りると案の定コゼットが厨房で料理をしていた。
「おはようさん」
「おはようございます。もうすぐ出来ますからね」
厨房にはコゼット以外の宿泊客もいるので邪魔にならないよう挨拶を済ませたらとっとと退散する。
朝は野菜スープとパンか。
ここで売ってるパンはちょっと硬いんだよなぁ。
椅子に座って少しすると四人が降りてきた。
挨拶をして席に座っていく。
三人は平気そうだが、カーティスが非常に眠そうにしている。
「朝弱いのか?」
「………………あぁ」
喋るのも億劫そうだな。
反応超遅いし。
まるでアティナのようだ。
ここはそっとしておいてやろう。
「ごっはんーごっはんー」
「まっだかなーまっだかなー」
それに比べてこっちの獣人族は朝から元気だな。
茶碗と箸があったらカンカン楽器のように鳴らしてそうだ。
「お待たせしましたー」
コゼットが出来上がった料理をテーブルに並べ、食べ始める。
「素朴ながらも深いコク……おいしー」
「見事に野菜の旨みがスープに溶け込んでる……おいしー」
ガツガツと食べるシンディとエドナ。
その一言は何なんだ?
朝飯を食べ終わると冒険者装備に着替える。
「準備出来たか?」
「あぁ、そっちはどうだ?」
「こっちも全員準備は出来てるぜ!」
全員で宿を出て迷宮へと向かう。
コゼットもギリギリまでお見送りしたいという事で一緒だ。
「うぉ……。近くで見ると迫力あるなぁ」
迷宮の入り口まで来ると、思わずそんな声が漏れた。
分かってはいたがとにかくデカい扉。
その周辺には屈強な冒険者達。
これが迷宮か。
いきなり入るのも面白そうではあるが、情報収集するか。
世の中には予習してないとキックされるゲームだってあるんだ。
「そこの冒険者さん。ちょいと質問いいかい?」
「ん? なんだ?」
「ここ、どんな迷宮だった?」
「あ、部屋タイプだったぞ。いや、凄かったわ。迷宮なんて俺も話を聞いたことしかなかったが――」
若い男の冒険者も初めての迷宮だったらしい。
興奮しながら色々と教えてくれる。
よくよく考えれば迷宮って珍しいものらしいし、初めての人がほとんどだろうな。
そのまま十分程話し、内容を頭の中で整理する。
この迷宮は部屋タイプ。
これはコンラッドが誘ってきた時に説明があったな。
複数の区画から成り立っているタイプだ。
一つの区画は端から端まで走って三十分程度だと言っていたが、広いのか狭いのか判断はつかんな。
部屋の魔物を全て倒すとたまにお宝が出現する。
基本的には次のエリアに行くまでには全ての敵がこちらに来るから普通にしてれば全滅はさせられるそうだ。
話しを聞くだけならこれは運っぽい。
ただ、別の要素も含まれてる可能性もあるからな。
実は隠れてる魔物がいる、とか倒してはいけない魔物が、とか。
余裕があれば検証してみてもいいだろう。
迷宮中では他のパーティーとは会わない。
一緒に行こうと思っていたら、たとえパーティーを組んでいなくても五人までなら同じ場所に飛ぶそうな。
同じ入り口から入るのに何故? と思ったが、一つの結論に辿り着いた。
恐らくIDと同じ仕組みになっているんだろう。
どうやってダンジョン側がパーティーを判別してるのかは不明だが。
そして最後に。
これは話してくれた男も聞いただけだが、と言っていた。
最奥まで到達し、宝を取ったら迷宮は消滅する。
これは限定レア装備はたった一つって事で納得しておいた。
誰かが取るまで証明出来ないし。
「なぁなぁなぁなぁ! そろそろ入ろうぜ!」
コンラッドが入りたくてしょうがないという感じでうずうずしている。
他の冒険者からも話を聞いておきたかったが仕方ない。
入るか。
「んじゃ行ってくるわ。また後でな」
「昨日も言いましたけど、気をつけて下さいね」
コゼットに留守番を頼み、俺達は迷宮へと足を踏み入れた。
------
「……なんじゃこりゃあ」
ジリジリと地面を照らす太陽。
皮膚を刺激するその感覚が幻ではない事を証明している。
足元は黄色い砂で構成されている。
「ぜぇ……ぜぇ……もうだめぇぇぇ」
「暑いのは……苦手ぇぇ」
獣人族姉妹が既に音を上げている。
頭と腕をダランと下げ、お揃いの紫髪が揺れている。
まだ入ったばかりじゃないか。
猫って暑さに弱かったっけ?
いや、今それはどうでもいい。
「これが迷宮か」
「すげぇぜ! 早く進もうぜ!」
カーティスはまともだがコンラッドのテンションが上がりすぎている。
このくそ暑い中を進むのか。
水をもうちょっと買ってこようかな。
一度後ろの出ぐ……。
出口がない、だと。
あぁ、専用の脱出装置を使うんだっけか。
いかん、俺も若干混乱しているな。
ゲームだったらステ欄にデバフが表示されていたことだろう。
「進むしかなさそうだな」
カーティスが後ろを振り返っていた俺にそう言った。
「そうだな」
短く返し、諦めて歩く。
早く次の部屋に辿り着かないと。
今はまだいいがこれから体力がどんどん減っていくだろう。
「囲まれた……!」
エドナはいつもの間延びした喋り方ではなく、言葉に緊張が混じっていた。
ボコッと地面が膨れた次の瞬間、複数のサソリが姿を見せた。
一メートル程度と魔物としては小さいサイズだ。
元の世界基準だと化け物だが。
「数は……十か」
「くそっ! 一度包囲を突破するぞ!」
そう言うや否やすぐに獣人二人が前方の二体を翻弄する。
危なげなく攻撃を回避しつつ、魔物の背中がこちらに向くようにした。
そしてカーティスが一撃で葬る。
空間が出来るとすぐさま走る。
あっという間に包囲網を抜けた。
流石に連携が取れている。
「次は俺が頑張るとするか。フレイムチェーン」
一番近くに居た魔物が迫ってきていたので捕まえる。
次に一気に引き寄せる。
「シッ!」
カーティス同様一撃で仕留める。
堅いかと思いきやそうでもないな。
あっさり斬れた。
「っしゃあ! 全員突撃!」
「こうなったならまず負けないねー」
「私は右から行くー」
「ユウイチ。俺と一緒にあいつらのフォローを頼む」
「あいよ」
残り七体いたが、五分と掛からずに殲滅させた。
しかし思い出すとドッと暑さが……。
この部屋は早く出た方が良さそうだ。
「ぜぇ……あれ? 魔晶石は出ないのか?」
「そうだな。迷宮だと出ないぞ」
聞いてない。
あーでもこの異常な環境の事もか。
基本的な知識すぎて誰も説明しなかったんだろう。
「あづい……早く行こうよぉぉ」
先ほどまでの動きはどこへ行ったのか、再びエドナがバテている。
何度かサソリと戦闘をした。
シンディとエドナが索敵を頑張り強襲を全て防いでくれたお陰で楽に終わった。
「あ! みてみてー」
「おぉ、扉だ」
ごくごく普通の扉が砂漠にポツンと佇んでいる。
「よし! 次の部屋行こうぜ!」
コンラッドが扉を開ける。
向こう側には木が生い茂っており、少なくともこの暑さからは逃れられそうなのが分かる。
しかし。
「待て、コンラッド!」
「うぉっ! なんだなんだ?!」
俺はコンラッドを止め、一度扉を閉める。
急に大声を出したせいかコンラッドがビクついた。
すまんな。
「一体どうしたのー?」
横から聞こえてくる声には反応せず、扉の裏へと回る。
そして裏側から扉に手をかける。
お、開いた。
「なんだ、一緒か」
「何がしたかったのー?」
何がしたかったと言われても興味本位としか答えられん。
開ける方向によって次の部屋の趣向が変化したりしないかと思ったんだ。
一緒だったけどな。
「なんでもない。行こうか」
「な、なんだったんだ?」
若干混乱してるコンラッドの背中を押してやり全員が次の部屋へと進む。
踏みなれた茶色の土に足をつけると、先ほどまでの暑さが嘘のように無くなる。
最後に入った俺が扉を閉めると、扉が消える。
その代わり扉があった場所に魔法陣が現れた。
「これが脱出用の……?」
「だろうな」
ゲームの転送装置とは形が全然違うが、これがそうなんだろう。
うっかり乗らないようにしないとな。
獣人族二人がまだバテていたので、少し休憩を取る事にした。
「はぁ、さっきの部屋は地獄のような場所だったねー」
「もう行きたくなーい」
シンディとエドナの声にコンラッドも頷いている。
入った直後はあんなに元気そうだったのにコンラッドも流石に堪えたか。
俺もあんなに暑いのは勘弁だけど。
しかし外にはあんなに冒険者が居たのに誰とも会わない。
これは話しに聞いたとおりだ。
次のエリアに行くのも階段ではなく扉だった。
これが部屋タイプってやつなんだろう。
塔タイプってのと洞窟タイプだったか、そっちの迷宮も行ってみたいもんだ。
あー、いや、次の迷宮が現れる頃には冒険者引退してそうだな。
数十年後とかになるんだっけ?
エリアの魔物を殲滅した時にドロップするお宝。
余裕があれば検証する予定だったが、環境がコロコロ変わるしちょっと難しいな。
まぁ簡単に色々実験出来たら既に誰かがやってるか。
「あっ」
猫耳をピクピクさせて寝転んでいたシンディが起き上がる。
その直後同じく猫耳を動かしながらエドナも辺りを見回す。
「いる」
「うん」
二人共真剣な顔でそう呟いた。
のんびり考える時間が欲しいがわがまま言ってもしょうがないか。
とっととやっつけてしまおう。




