二十七話「お誘い」
いつもの生活が戻ってきた。
最近はアジト制圧から始まり、特訓や大森林にお出掛け等のイベントが目白押しだったからな。
こうした何気ない日常が大切だと実感出来る。
この前は久しぶりにシルバーウルフに会いに行ったら、大層喜んでくれた。
喜びすぎて涎をダラダラ垂らしながら真っ白な牙を剥き出しにして笑顔で飛び込んできた。
しばらく追いかけっこをしたりじゃれあいをして遊んだが、力尽きたようなので丁寧に火葬しておいた。
アティナも以前と同じように遊びに来る。
対等になったらしいので食事は取られないという変化はあったが。
コゼットが自分も付いて行きたかったというと、流石のアティナも困っていた。
俺も散々困らされた道だ。
こっちにまで飛び火してはたまらんので俺は逃げたが、帰り際にアティナに腕をつねられてしまった。
そんなこんなで平和な日々を謳歌していると、ガタイのいい男がやってきた。
コンラッドだ。
「なぁ! 秘宝探しに行こうぜ!」
いきなりなんなんだ?
「……まぁ、何にせよ落ち着いて最初から話してくれ」
「おっとわりぃわりぃ。つい舞い上がっちまってな」
コンラッドが言うには、北の国で迷宮が出現したとの事。
はて。
ゲームで急に現れるダンジョンなんぞあったか?
俺が忘れてるだけだろうか。
「なぁ、迷宮ってなんなんだ? 急に見つかるものか?」
「あ? そらそうだろ」
知らんがな。
でもこの口ぶりだと当たり前の知識っぽいな。
「迷宮が出たのは四十年振りらしいぜ。それに――」
尚も熱く語るコンラッド。
俺は迷宮が分からんので途中で口を挟む。
そうすると面白いようにあれこれと話してくれる。
話しを整理する。
最初に聞いた通り、迷宮は突如その姿を現すそうだ。
迷宮にはパターンがある。
上へ登る塔タイプ。
地下へ降りる洞窟タイプ。
上も下もないが、複数の区画から成り立つ部屋タイプ。
迷宮には脱出手段が用意されている。
塔タイプなら階段を登ったそばに。
洞窟タイプなら階段を下りたそばに。
部屋タイプなら部屋を通り抜けたそばに。
そして迷宮は進めば進む程その道のりは困難となる。
ひとまず分かったのはここまでだ。
しっかし、そんなのはゲームに無かったはずだ。
まるっきり覚えが無い。
この世界のオリジナル要素ってところか?
それに脱出手段も装置を起動させれば外に排出されるとか言っていた。
もろ転送装置じゃないのか?
秘宝はともかくそっちが気になるな。
いや、待て。
そもそもそういえばこいつパーティーはどうした。
「他のメンバーには話してるのか?」
「賛成は貰ってきてるぞ。魔法が使えるユウイチが居れば安定するからな。俺が代表で誘いにきたんだ」
なるほど。
コンラッドパーティーは物理物理もひとつ物理の脳筋タイプだったな。
魔法使いも欲しかろう。
しかし北の国かぁ。
「ユウイチさん。あの――」
「ダメだ」
「あぅ……まだ何も言ってないのにぃ……」
「どうせ、行くならわたしも付いて行きたい、って言うんだろ?」
迷宮とか余計ダメだ。
魔物も出るそうだし。
「いいんじゃねぇか? どうせ町の中に迷宮あんだし」
「え? 町の中?」
「今回はウノースの町の端っこに扉が現れたらしいぞ」
「危なくないのかそれ?」
「魔物は迷宮から出てはこねぇし大丈夫だろ」
そういうもんなのね。
町に迷宮が出現してたとしても世紀末みたいにはならんらしい。
それならまぁ……いいのか?
町に迷宮がある。
でも魔物は出てこない。
コゼットが付いて来ても安心。
うん、問題なさそうだな。
「なぁコンラッド、その町に教会はあるか?」
「んん? いや、無かったと思うぞ。途中で首都に寄るからそこにはあるが」
ふむふむ。
ついでに白い本も探せるか。
「よし、俺も行くよ」
「そうかそうか! 助かるぜ!」
「あのあの! わたしは――」
「安全そうだしさっきのは撤回するよ。コゼットもいいぞ」
「ほんとですかっ!? やったぁ!」
手をバンザイの形にして喜ぶ二人。
息が合ってるなこいつら。
コンラッドが出発はいつでもいいと言ったので少し待ってくれるよう頼んだ。
今回も馬車での移動になるだろう。
というより馬車以外だと徒歩しか移動手段を知らない。
なので念の為コゼットの防具を買っておく事にした。
道中で魔物に襲われるだろうしな。
勿論戦わせはしないが。
保険ってのは大事だ。
どうせ動かないんだしいっその事全身鎧で固めてしまうのもアリだな。
……。
いや、なしだな。
防御力は上がるだろうが絶対嫌がるわ。
動き易いものがいいだろうからローブ系か?
でもある程度の物理防御も欲しいな。
武具屋に入りあちこち見て回る。
付いて来たコゼットも一緒に物色する。
お互い鑑定スキルはないので素直に店員さんに声を掛ける。
戦わないが丈夫な防具を、と言ったら軽装の装備が置いてあるエリアに案内された。
「こちらなんていかがでしょうか?」
差し出されたのは薄いピンクのポンチョのような防具だった。
弓矢とか似合いそうだな。
「わぁっ、可愛いですねコレ」
「普段着っぽいな」
こっちの世界だと普通に着れるだろう。
あくまで女性なら、だけど。
「こちらはロサードグリプスの素材で出来ております。質は非常にいいのですが……」
言いよどむ店員さん。
話を聞くと、薄いとはいえピンクという事で人気がないらしい。
その割にコゼットは気に入ってる。
ロザードグリプスはBランクの魔物らしい。
中々のランクだ。
話しを聞いたがピンク色のグリフォンしかイメージ出来なかった。
「可愛らしい防具はあまり人気が出ないのです」
ワンポイントくらいならいいんですけどね。と、ちょっと苦笑いで説明してくれた。
戦う乙女達は可愛いのはダメらしい。
よく分からん、と思ったが俺もラメ入りパープルの防具とかゴッツイ防具とかは嫌だな。
「これ気に入ったのなら買うか?」
「いいんですか? ちょっと高い気が……」
「なぁに、金はまた稼げばいいさ」
金は失ってもまた手に入れられるが、命を失うともう手に入らないからな。
防具とついでに丈夫なブーツを買って店を出る。
コゼットは買った物をニコニコしながら大事に抱えている。
「ユウイチさん。ありがとうございますっ!」
「あぁ、コゼットの為だ。大した事ないさ」
「え? んふふー」
にまにまとした顔に変化した。
ちょっとだらしない笑顔だが、嬉しそうだしいいか。
「ほら、荷物持ってやるよ」
「そうですか? ならお願いします」
荷物を受け取ると、俺の塞がってない方の腕にぴょんと抱きついてきた。
「一緒にお買い物するのも久々ですね」
「そうか? あー、まぁこういった買い物は久々だな」
「はい。楽しいですねっ!」
「そうだな。んじゃ次の店行くか」
それから道具屋に回復薬を買いに行ったり適当な雑貨屋を覗いたりした。
久しぶりに家族サービスをしたって気分になった。
最後にコンラッドが利用している宿に行く。
「準備は出来たぞ」
「おっ、そうか! なら明日の朝一で出発するって事でいいか?」
「オッケー。それじゃまた明日」
「おう! シンディとエドナがコゼットちゃんの料理を楽しみにしてるってよ」
「はい。頑張りますね」
「お前もだろ。コンラッド」
「はっはっは! まぁそうなんだがな」
他のメンバーは居なかったが、コンラッドとそんな会話をしてから家に戻る。
今日はさっさと寝ないとな。
夜更かし禁止だ。
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「じゃじゃーんっ! どうですか!?」
家に帰り、食事と風呂を済ませた後。
コゼットの装備お披露目会が始まった。
買ったばかりの装備を一式着ている。
「あぁ、よく似合ってるぞ」
どうせ明日着るんだが、とつい笑ってしまう。
そういえば俺も初めての防具はやたら嬉しかったしな。
きっと皆が通る道なのだろう。
「えへへー。明日から一緒に冒険ですね!」
「そうだな」
だからそろそろ寝ようぜ。
明日早いんだし。
そんな俺の心境はお構いなしにコゼットは楽しそうにクルクル回っている。
体につられて薄い金の髪の毛が踊るように舞っている。
そして髪型がどんどん崩れていっている。
広くはない家の中をウロチョロしてるのを見てると、ドラ○エのベストドレッサ○コンテストを思い出した。
ポンチョとブーツの組み合わせで追加ボーナス十点だ。
「わっ」
ガシッとコゼットを掴む。
「一番可愛いのはコゼットさんに決まりました。優勝です!」
「えぇっ! 優勝ですか!? ありがとうございます」
出場者一名だからな。
ちなみに景品はない。
褒められて嬉しかったのか、コゼットは寝る直前までニヤニヤしっぱなしだった。




