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二十五話「薬」

 フォルク村に戻ると既に夜だった。

 まぁ森を出た辺りで既に日が沈みかけていたからな。


 宿を取り、アティナと少し遅めの食事を取る。

 エルフの国だけあって野菜や果物が多い。

 今晩のメニューは野菜たっぷりのポトフとパンとデザートに果物が数種だ。

 久しぶりのあったかなお食事に俺もアティナも食が進む。


「ここからアティナの故郷まではどのくらいかかるんだ?」


 そういえば聞いていなかった。

 ここで俺だけ帰ってもいいが、それはちょっと薄情な気がする。

 ここまでやったなら最後まで付き合ってやるべきだろう。


「……一日あれば着くと思う」


 おや割と近い。

 もっと掛かると思ってた。


「大樹の雫、割らないようにな」

「……分かってる」


 アティナはビンを大切そうに持っている。

 パッと見はただの透明な水だが、よく見ると少し緑がかったような色をしている。

 食物繊維がたっぷりなんだろう。

 飲んだらHP、MP、状態異常(便秘のみ)が回復します。


 くだらない事を考えていると食事中だった事を思い出した。

 メニューがカレーじゃなくてよかった。


 俺とアティナはあまり喋らない。

 というかアティナが喋らなさ過ぎる。

 まぁこれが当たり前になってるから沈黙も苦痛ではないが。


 周囲の客も少なくなってきたところで俺達もそれぞれの部屋に戻る。

 ベッドで眠るのは久しぶりだ。



 翌朝、いつもより少し早い時間に目が覚めた。

 鐘の合図があるのは四カ国の首都と中央都市だけらしいのであくまで感覚だが。


 部屋を出て、隣のドアをノックする。


「……」


 アティナからの返事はない。

 まだ寝てる、か。

 朝は弱いみたいだし。


 まだ多少の余裕はあるだろうと思い寝かせておく。

 ふむ、外でも出てみるか。


 なんとなく外に出てきた。

 商人らしき人達は既に活動時間らしい。

 店の準備をしている者。

 買い付けを行っている者。

 馬車に積む品を運ぶ者。


 そして俺は何もせずボーッとする者。

 すっかり馴染んでしまったが、ここ異世界なんだよなぁ。

 ゲームに似ているのは偶然なのかそうでないのかは分からんが。


 ふと思う。

 災厄の魔物ディザストロ。

 アレと戦った場所は確か「ディザストロの寝床」という分かりやすい名前の場所だったな。

 寝床というのは封印されているのを皮肉ってたんだろう。


 この世界にもディザストロは居るらしい。

 恐らく同じものだと思う。

 他の魔物はいざ知らず、あいつの事はしっかりと思い出した。


 太い四つの足、尻尾が生えており、全身は黄金の鱗で覆われていた。

 見方によっては確かに神々しいかもしれんな。

 

 戦う時に気をつけていた事もたくさんあった。

 まず咆哮。

 初っ端それを仕掛けてくる。

 あるメインクエストさえクリアすれば戦えるんだが、レベルが低いとそれで気絶する。

 そして何も出来ず追撃で死ぬ。


 咆哮を耐えれても前足を振り上げて降ろす、単純だが強烈な一撃もある。

 尻尾はそこまで長さはないものの、近接職が後ろを取ったらまとめて薙ぎ払われる。

 体から切り離された鱗がディザストロの真上に一度集まり、一瞬の間を置いてあちこちに突き刺さる攻撃もあったな。


 あ、そもそも戦うには――。


「おぉっと、ごめんよ! 大丈夫かい?」


 荷物をたくさん持ったおっさんに追突された。

 ぶつかられたといっても軽くだ。

 何も問題ない。


「大丈夫だ。気にしないでくれ」


 人の多い所で考え事をしていた俺も悪いな。


 どのくらい時間経ったんだろう。

 一応そろそろアティナを起こしておくか。


 部屋の前に戻り先ほどより強くノックする。


「そろそろ起きろよー」

「……」


 応答なし。


「おいっ! 起きろ!」


 ドンッ! と強くノック……いや、叩く。


「……」


 あっ、ドア開いてんじゃん。

 もう入ってしまえ。


 バタンッ! と音を鳴らして入る。

 ……ふむ。

 居ない。


 外には出ていないはずだ。

 宿屋のおっさんにそう聞いている。

 荷物もある。


 突っ立っているとガタッと音がした。

 ベッドの方だ。

 周囲を見てみると、壁とベッドの隙間に落ちていた。

 そこは普通起きるだろ……。


 引っ張り上げて頬をペチペチ叩く。


「アティナ、アティナ」

「…………んぅ、ユウイチ?」

「やっと起きたか。おはよう」


 眠そうに目をこするアティナ。

 二、三分待ったが中々動かないので無理やり支度させた。


 朝飯を食べてたら流石に目も覚めたらしく、いつもの調子に戻った。

 お互い分かってはいるが、確認の為今日の予定を話しつつ宿を出る。


 ここからアティナの村にも馬車は出るらしく、乗り込む。

 今回は護衛は必要ないとの事だったので、金を払った。



------



 乗せてくれた行商人に礼を言って、村へと入る。

 アティナの故郷、ルヘル村だ。

 フォルク村もそこそこ田舎だと思っていたが、こっちはもっと田舎だった。

 建物と建物の間に距離がある。

 周りは森かよ、と言いたくなるくらいの自然溢れる土地。

 人口も五百人をきるらしい。


 まぁ、旅行にはいいかもしれんな。

 のどかだし傷心旅行にはピッタリだ。


 フォルク村は行商人の出入りが多かったせいかそれほど感じなかったが、ここはエルフだらけだ。

 エルフの国なのだから当然なんだけど。


「……」


 隣では故郷に帰ってきたというのに平常運転のアティナがいる。

 どのくらい離れてたか知らんがもうちょいハシャイでもいいと思う。


「アティナちゃんじゃないのか?」


 横から声が聞こえた。


「……久しぶり」

「懐かしいな。あぁ、サリーさんの為に帰ってきたんだろう?」

「……うん」


 口調からご近所さんってところか。

 サリーってのはアティナの母親っぽいな。

 二言三言話してアティナがこっちへ戻ってくる。


「……いこ」


 そう言って再び歩き出す。


 立ち止まったのはそれから十分後。

 小さな村とは言っても面積はあるから一軒一軒は中々の大きさだ。


「……ついた」

「そうかい」


 一緒に来たはいいが、俺は別行動した方がいいのか?

 家族水入らずってのは大事だし。

 あと友達の家族って話すのちょっと緊張するよな。

 俺だけだろうか。


「そんじゃ俺は適当にブラついてるわ」

「……?」


 首を傾げられた。

 訳としては「なんで? 入らないの?」って感じだろう。

 いや、知らんけど。


「……入る」


 ドアを開けて先に入っていった。

 これはお前も入れよ遠慮すんなって事なんだろう。

 いや、知らんけど。


「おじゃまします」

「おぉ、アティナじゃないか。と、お仲間の方ですかな?」


 出迎えてくれたのは濃いブロンドの髪をしたエルフの男だった。

 顔には皺もなく若い事が見て分かる。

 とはいえ持つ雰囲気は自分より年上と思える。

 アティナの父親か兄のどっちかだろう。

 優しそうな顔つきをしている。


「……お父さん、これ」


 アティナはローブの中からビンを取り出し差し出す。


「これは……これは大樹の雫か。あぁ、ありがとう」


 大切な物を扱うように慎重に受け取る。

 後は薬を作ってもらえば万事解決だな。



 その後は自己紹介を済ませ、道具屋で行き大樹の雫を渡した。

 調合は一日もかからず出来るそうだ。

 また明日来てくれという事で再びアティナの家に戻る。


 少し話をして、出迎えてくれたのはアティナの父親だったと知る。

 道具屋に行く前に聞いたが、名前はアドルフというらしい。

 兄かもと思った事を告げると、アティナに兄妹はおらず一人っ子との事。


 なるほど、それでコミュ障なんだね!

 もちろん、心の声だけで口には出さない。


 大樹の雫から作られる薬は神秘の実と呼ばれるらしい。

 ほとんどの病気に効果があるんだとか。


 アティナの母親が罹ったという病は「土の呪い」だと聞いた。

 症状としては力が出ない、すぐ疲れる、すぐ眠くなり中々起きれない。

 日常生活にも支障をきたすようで大変だそうだ。

 ステ低下系のデバフっぽいな。

 ドカポ○でダウ○食らったようなものなのだろうか。


「あら、お客様?」


 三人で雑談をしていると、奥の部屋から一人の女性が出てきた。


「起きて大丈夫なのか?」

「えぇ、ところでこちらの……あら、アティナ?」

「…………久しぶり、お母さん」


 お母さんと呼ばれた女性は不思議そうな顔をしている。

 娘が薬の素材を取りに行ってるの知らなかったのか。

 アティナよりは少し濃い青の髪をしている。

 瞳の色は違うが、目元は似ている気がする。

 アドルフさんも穏やかな感じだったが、こっちの人もおっとりしてるな。

 癒し系夫婦だ。


「どうしてアティナがここに?」

「……薬」

「サリー、座ってくれ。説明するよ」


 アドルフさんが女性を座らせる。


 手紙をアティナに送った事。

 アティナが俺と一緒に大森林に行った事。

 大樹の雫を手に入れた事。

 先ほど無事道具屋に渡した事。


 それらを説明していた。

 というか手紙の段階から言ってなかったのか。


「アティナ……ありがとうね。ユウイチさんもありがとうございました」

「……気にしないで」

「そうですよ。俺はアティナに付き合っただけですし」


 途中危ない目にはあったが、二人共無事だしな。


「あぁそうだ。二人共今日は泊まっていきなさい。サリーも喜ぶ」


 特別急ぐ用事はないし、甘えておくか。

 コゼットに土産も買っておきたいし。


「ならお言葉に甘えます」

「アティナ、ユウイチさん、いっぱいお話ししましょうねぇ」


 にこにこと嬉しそうに話すサリーさん。

 しかしこの癒し系に育てられてなぜ無口系少女が出来上がったんだろう。

 不思議だ。


「いてっ。なんだよ?」

「……視線が失礼」


 足をはたかれた。

 知らず知らずの内に悟られたか。

 目は口ほどに物を言うってやつだな。


 今後は気をつけよう。



------



「またいつでも来るといい」


 一晩が経ち、家を出る。

 サリーさんは昨日会話の途中で体力が尽きたようで途中退場している。

 今日もまだ起きていない。

 本当に体力がない状態なんだと実感した。

 あれだけで活動限界とは恐ろしい病気だ。


「……お母さんの事よろしく」

「あぁ、任せておくれ」


 今日の夕方には薬も出来るだろう。

 心配ないはずだ。


 中央都市行きの馬車へと向かって歩く。

 隣に居るアティナも心なしか満足そうだ。

 きっと自分の力で助けられた事が嬉しいのだろう。



 俺自身も久々に人の為に働いた気がする。

 たまにはこういうのも悪くないな。

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