二十二話「手紙」
毎日毎日特訓をする。
俺としては自分の安全確保の為だし問題ないと思っていた。
だがコゼットはどうだろう。
稼ぎ手が稼がないなんて今の現状に不満は持っていないのだろうか。
いや、顔には出していない。
ちょっと怪我するとやたら心配するくらいだし。
しかしいい加減マズイのではないか? という考えがよぎる。
もう半月は稼いでない気がする。
午前中だけ稼ぎに行く事だって出来るのに。
出来る事はやっておこう。
無理はしない範囲という条件を付け加え。
という訳で。
家の大黒柱として危機を覚えたので働きに出る事にした。
ただ、力の調整は続けていきたい。
「そこでこの方の登場です」
「……なに?」
我が家の半住人のアティナである。
稼ぎながら特訓となると人手が欲しい。
ソロで行動して、魔物の出る場所で動けなくなる。
考えるだけで怖い。
コゼットは戦えないからな。
アティナにお願いしようと思っている。
「いや、そろそろ稼ぎに行こうと思ってな」
「……うん」
「でも特訓も続けたくてな」
「……うん」
「しばらくパーティー組んでくれないか? とは言ってもランク上実際に組む訳じゃないけどな」
「……」
あ。ちょっと悩んでる。
分かってたけど誰かと一緒に依頼やってる所を見た事ないもんな。
一人が気楽とか思ってるんだろう。
普段なら引き下がる所だが。
我が家の平和の為だ。
もう一押し。
「頼むよ。コゼットの為なんだ」
ピク……と、眉が動いた。
まぁほぼ俺の為なんだが。
でも俺に関係する事はコゼットにも影響が出てくる。
嘘はついていないはずだ。多分。
「……まぁ、そういう事なら」
しぶしぶ、といった感じだが何とかOKを貰えた。
コゼットの名前を出したらイエスウーマンになるな。
なんというチョロさ。
それから一緒に魔物討伐に赴いた。
場所はアティナと出会った雑木林である。
俺も戦い慣れた犬コロである程度リラックスしておきたかったし。
戦うのは基本俺だ。
基礎が出来てきているからか、実戦でも割と上手くいった。
たまに失敗もする。
そういう時は叫ぶ。
情けない程に叫ぶ。
ただ注意して叫ばなければならない。
実戦訓練を始めて最初の失敗の時、ほとんど動けなくなって、
「ヘルプヘルプ!」
と言ったら、
「……?」
何? みたいな感じで首を傾げられた。
その間に犬コロが噛み付いてこようとしたので必死で腕を動かした。
「助けろって事だよ! 見てわかんだろ! てめぇの頭はハッピ○セットかよ!」
と、腕を噛まれながら講義してようやく動いてくれた。
「……助けた」
「お、おぉ。そやな。ありがとさん」
なんて事があった。
どうも時々言葉が通じない。
テーブルとか通じるのもたくさんあるのに。
違いが分からん。
しかし能力が上がっているお陰か防具のお陰か、噛まれてもあんま痛くない。
いや、痛いのは痛い。
でも思った程じゃないというか、割と平気だった。
そんなこんなで頑張っていると、実戦でも失敗しなくなった。
調整が上手くなったというより身体が慣れたという感じだが。
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そろそろ一人でやっていけるかな、と思っていたある日。
アティナが珍しく昼過ぎにやってきた。
「……手伝い出来なくなった」
そして唐突にそう切り出した。
一瞬考えたが、手伝いってのは恐らく俺の特訓の事だろう。
それは構わない。
期間とか決めてなかったし、金のやり取りもしていないからな。
「何かあったんですか?」
「……手紙が来た」
「手紙?」
コゼットがあれこれと聞き出した結果、こういうことらしい。
朝起きると、寝泊りしている「森の恵みと癒し亭」にアティナ宛の手紙が届いた。
送り主は父親。
アティナは父親から頼みごとをされたから手伝いが出来なくなった。
「なぁ、その届いた手紙ってのを見せて貰っていいか?」
こっちも手伝って貰ったからな。
手伝い返しだ!
倍返……しはしないけど。
「……これ」
ピンク色の花柄模様をした封筒を手渡された。
こいつの父親可愛い趣味してんな……。
いや、そこはどうでもいい。
中身だ中身。
『アティナへ
久しぶりだな。元気でやっているか?
冒険者になるという事は聞いたよ。
お前は魔法が得意だったからきっと活躍しているんだろう。
今回、お前に手紙を送ったのには理由がある。
実はな、母さんが病気にかかったんだ。
とはいえそこまで重い病気じゃないから安心してくれ。
ご飯はちゃんと食べている。
ただ、完全に治すには薬が必要なんだ。
当然その薬を手に入れようとしたんだが、材料が足りないと言われてな。
お前も知っての通り父さんは戦闘に関しての才能がない。
母さんを看ないといけないし、どのみち自分では採りに行けない。
そこでアティナ、お前が薬の材料を取って来てくれないか?
足りない材料は大樹の雫と呼ばれる物だ。
知っているかもしれないが、大樹の雫は大森林の中間の層で採ることが出来る。
大森林は奥に行けば行く程強力な魔物が出てくるからあまり進まないように気をつけてほしい。
恐らく仲間の人達と一緒に行くだろう。
大樹の雫を手に入れたらその人達をうちまで連れてきて欲しい。
僅かばかりではあるが、お礼を用意しておく。
頼りきって済まないがよろしく頼む。
父より』
なるほど。
これはアレだ。
サブイベントか。
あ、いや待てよ。
向こうに無くてもこっちにあれば解決するじゃないか。
「アティナ、中央都市にはその薬売ってないのか?」
「……無かった」
もう調べてたか。
なら採りに行くしかなさそうだな。
「アティナちゃん。まさか一人で行こうとしたの?」
「……」
コゼットの言葉は図星なんだろう。
ちょっと苦々しい顔をしている。
「冒険者に依頼したらどうだ? 熟練者が行ってくれるかもしれんぞ?」
「……お金、あんまりないから」
おう。
そういう事か。
確かに資金に余裕があれば親父さんもギルドで頼んでるわな。
「ユウイチさん!」
「お、なんだ?」
「アティナちゃんを助けてあげましょう!」
「お……おぉ」
やけに張り切ってるな。
まぁ俺も助ける事に関しては賛成だ。
何気にコゼットと仲良くしてくれたり、特訓に付き合ってもらったりしているしな。
「……いいの?」
「ん? あぁ、いいぞ。アティナには世話になってるからな」
「そうですよ。お友達じゃないですか!」
俺もコゼットも異論はない。
「で、ユウイチさん。わたしも付いて行っていいですか?」
「ダメ」
当たり前だ。
危険だと分かってる上に大森林とやらには行った事もない。
そんな場所に戦えないコゼットを連れていくと全滅しちゃうじゃないか。
ぶーぶー言ってるコゼットを説得する。
ダメなものはダメ。
不服そうだがひとまず落ち着いたのでアティナに向き直る。
「アティナ。出発はいつにするんだ? 早いほうがいいんだろ?」
「……えっ。あ、明日出発する予定」
「明日だな。なら準備しておくから明日の朝にまた来てくれ」
分かった。と小さく言ってアティナは帰っていった。
さて、準備をしないとな。
回復薬と食料と……。
あ! ギルドで魔物について調べておくか。
事前情報は大事だからな。
というか大森林ってどこにあるんだろうか?
まずそこからだな。
アティナに聞いておけばよかった。
道具屋やらギルドやら教会の書庫やらと回り、一通りの準備を済ませた。
ちょっと拗ねてたが、買出しにはコゼットも付いてきた。
今までのパターンからいくともっとゴネるかと思ったが、分かってくれたらしい。
大森林の場所もバッチリ調べた。
どうもエルフの国にあるらしい。
中央都市から西に進んだ先にある国だな。
エルフの国の名前はウェスト、首都はノルウェという名前だったか。
大森林へは、中央都市から首都ノルウェに向かう途中で少し逸れる。
道中は馬車を使う予定だが、片道四、五日といった所だろう。
コゼットには我慢して貰っているし、なるべく早く帰ってきてやらんとな。




