二十話「戦いを終えて」
自宅のベッドでゴロゴロと過ごす。
窓の外ではザーザーと音がしているのが聞こえる。
それほど激しい雨ではないが、外に出るのが億劫になるくらいには降っている。
まぁ、どうせ出られないんだけどね。
邪教徒のアジトでジェスターとかいう男と戦い終えた後。
なんとなく分かっていたが俺は反動で動けなくなった。
前と違う点があるとすれば、意識はあったという事か。
体中痛いが意識はある。
触手で殴られた所は特に痛かった。
でも味方の魔力が切れていて回復魔法は掛けてもらえなかった。
体力回復薬も一番効果の低い無名しか残ってなく、効果はお察し。
拷問かと思える時間だった。
戦闘後、俺を除くメンバーで部屋を隈なく調べ、抜け道見つけた。
恐らくジェスターは時間稼ぎであそこにいたのだろう。
そしてその隙に誰かが逃げた。
そんな感じだろう。
奴の態度的に切り捨てられた、とは全然思ってなさそうだったが。
来た道を引き返し、外に出ると他の隊もいくつかは戻ってきていた。
どの隊も分かれ道を進んだ先は外だったらしい。
更に外には大量の魔物が待ち構えていたようだ。
これはいかんと思った各隊は引き返した。
そして追加で入った六番隊から十番隊と合流し、力を合わせて討伐したらしい。
ただ、中には酷い怪我を負って冒険者を引退しなければならない者も出ていた。
そういえば手かがりらしき物は何一つ見つからなかったようだ。
どこかの隊が何かを大量に燃やした跡を発見したようだが、それも重要なものなのかそうでないのか分かっていない。
振り出しに戻ったような感覚がある。
が、ストーリーは進んでいるはずだ。
そうだ。メインクエストを一つ終わらせたと考えよう。
奴等もあのアジトは今後使わないだろうが、またどこかで活動を行うはずだ。
災厄の魔物の復活という目的があるのだから。
それに中央都市の人達の被害も無かった。
自分も生きている。
それでよしとしよう。
「にしても、暇だな……」
思わずそんな事を呟く。
本当にやる事がない。
「暇でも動いちゃダメですからね!」
部屋の外からそんな返事が返ってきた。
ドアを開けてるから声が聞こえたのだろう。
動きませんとも。
現在俺はコゼットから外出禁止令が出ている。
家の中でもウロウロしすぎると怒られる。
仲間に背負って貰ってアジトから出てきた俺にコゼットは心配そうに駆け寄ってきた。
そこまでは良かった。
俺だって知り合いがそんな状態だったら心配するだろうしな。
打撃のダメージはお高い回復薬で何とか消せた。
だが反動の方はそうはいかない。
以前ヒールやらなんやらと試してダメなのは分かっている。
自然回復しかしないのだ。
コゼットもそれは知っている。
だからなのか、ずっと馬車の中で寝かされた。
最初はまぁ動けなかったから良かった。
片付けも何もしなくていい、ラッキーとも思った。
ガラガラと音を立てながら馬車が進み一日が経過する。
一日経てば何とか動けるようにはなる。
戦うのはちょっと厳しいが。
何もしないのも退屈だったし食事時に何か手伝おうと思い外に出た。
だが、許されなかったのだ。
すぐにコゼットの手によって馬車の中に連れ戻された。
同じ馬車内のヒゲ面をした冒険者にも言われた。
「あの子もあぁ言ってるしのんびりしておけや」
と。
周りを見るとうんうんと頷いている奴もいた。
どうもコゼットは怪我をして引き返した者を治療したり、
中央都市に帰る為の片付けを頑張ったり、
道中での食事の準備を頑張ったりして割と注目されていたらしい。
注目されているのは年齢が低い事も関係しているだろうが。
そんな頑張りを認められたコゼットが大人しくしろと言う。
だからなのか他の者からは文句の一つも言われなかった。
むしろトイレに立つ時すら「勝手に動いていいのか?」なんて言われるくらいだった。
トイレくらい好きに行かせてもらいたい。
更に一日、合計二日をかけて中央都市に帰還。
結局本当に何もせずに二日を過ごした。
いや、何もさせて貰えずに、だな。
食事すら自分で食べられなかった。
中央都市に着いた頃は既に夜になっていた。
ささっとギルドで報酬を受け取って家に戻った。
「念の為明日一日は外出禁止ですからね」
と言われこうして静かに過ごしている。
「……」
そして現在、水色ショートカットのエルフが俺の部屋にいる。
アティナだ。
こいつは何も言わない。
急に部屋に入ってきて「よう」に対し「……うん」と言っただけだ。
まぁ、何しに来たかはだいたい予想がついている。
「なぁアティナ」
「……なに?」
「奢るから露天に食べ物買いに行こうぜ」
「………………だめ」
やはり。
食べ物ですら釣れない。
葛藤しただろうに断るとは。
間違いなくコゼットの力が働いている。
先程から数を減らしていっているクッキーが証拠だ。
アレを使って俺の見張りでもさせているんだろう。
「……心配してた」
「いきなりなんだよ?」
「……すぐ無茶するって」
あぁ、なるほど。
コゼットがそう言っていたのか。
「冒険者なんだぞ? よくある事だろ」
「……強引に攻めたって聞いた」
「誰が? 何に?」
「……ユウイチが。アジトにいた親玉に」
親玉て。
いや、親玉はどうでもいい。
確かにCランクになったばっかりの俺が特攻しすぎた感はある。
ブラッドオークの時も似たような感じだった。
しかしそういう事か。
内部であった出来事を知ったからあんなに心配してるんだな。
「まぁ言いたい事は分かった」
「……大人しくしてる?」
「してるしてる」
「……そう。ならいい」
そういうと再びクッキーに手を伸ばすアティナ。
大人しくしていると言ったのに、まだ居続けるようだ。
静かな部屋となったので今回の限界突破について考える。
前回は使用後に意識を失った。
今回は使用後に意識を失わなかった。
残りの体力も関係しているのだろう。
前回は意識も朦朧としていた時に使用した。
その後はダメージ受けてないけど結局気絶したからな。
相変わらずほいほいと使えるものじゃないが、上手く使えば使用後も動けるようになるかもしれない。
そういえば他の魔法みたいに強弱とかつける意識もしていなかったし。
あれが魔法カテゴリに入るかは分からんけど。
やってみる価値はあるだろう。
考えていたらさっそく試してみたくなった。
外でやりたいが、発動だけなら家の中でも問題あるまい。
失敗したらまた酷い筋肉痛のような痛みがまっている。
だが問題ない。
幸い報酬が良かったからな。
しばらく依頼を受けなくても生活していける。
ちょっとやってみるか?
見た目じゃ分からんだろう。
バレやしない。
「ユウイチさーん。具合どうですか?」
「うぉっ!」
つい驚いてしまった。
まだやましくは無いのに。
「な、なんですかそんなに驚いて」
「いやいや、何でもないんだ。あ、具合? 問題ないぞ」
「そうですか? あ、アティナちゃんユウイチさん見ててくれてありがとう」
「……気にしないで」
晩ご飯の支度してきますね、と言ってコゼットは出ていった。
様子を見に来ただけか。
結局その日は何となくタイミングを逃した気がしたので実験はせず過ごした。
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翌日。
コゼットの許しを得て都市の外へとやってきた。
本来なら大黒柱の俺がもっとオラオラやってもいいんだろうがそんな事はしない。
生活が苦しくなったら強引に稼いだりもするかもしれんが。
ま、今は好きにやらせていいだろう。
「さて、と」
グッと体を伸ばしストレッチをする。
意味はなさそうだが何となく気分だ。
今まで使った限界突破。
あれをもう少し弱く発動出来るならかなり便利だ。
弱めに。
弱めに。
そうイメージしながら声を出す。
「限界突破」
ドクン。
心臓が跳ねた。
意識が切り替わったような感覚。
もしかして失敗?
今までと同じか?
いや、違う。
前はもっとこう、戦闘狂的な気分になった気がする。
誰にも負けない。
誰にでも勝てる。
そんな事を思っていたはずだ。
大丈夫だ。
今はそんな気分でもない、落ち着いている。
手元にある石を拾う。
掌に乗る程度のサイズだ。
「ふぅ」
一つ息をその石を吐き握り締める。
今までの俺ならこの石を力一杯握っても何も変化は無かっただろう。
当たり前だ。そんな怪力は持ってなかったからな。
だけど今は違う。
もしかしたら……と思う。
グッと力を込める。
「ぐぬぬぬ……」
あ、ダメだ出来ない。
これ出来ません。
石を握り潰すとか常識的に考えて無理だろ。
もっと強い力じゃないと……。
ドクン。
先ほどより心臓が大きく跳ねた。
なんだこれ?
力が沸いてくる。
ミシッミシッ。
力を込めている石からそんな音がする。
あぁ、いけるはずだ。
砕けない訳がない。
「ぐぎぎ……」
パキパキッ。
「オラァァァァッ!!」
バガンッ!
掌にあった石がバラバラになり地面に転がる。
おぉ……。
やった、やってやったぞ!
「ふぅ……ふぅ……」
意識的に解除する。
これは、成功か。
しかし途中で力が上がった気がする。
一杯一杯でよく分からなかったが多分調整したんだろう。
砕けた事が何よりの証拠だ。
もうちょっと練習が必要だな。
出力の調整が出来るとわかったんだ。
これを使いこなせればきっと強くなれる。
こうして、秘密の特訓が始まった。




