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十二話「資金集め」

 教会で見つけた白い本の一件以来、俺は再び資金を集めていた。

 家を借りるために。

 各地の教会に本があるのなら家を買わずに旅をした方がいいかと思ったが、コゼットと話し合った結果落ち着く場所があってもいいかとなったので家を借りる予定はそのままだ。


 資金集めの方法としてはシルバーウルフさんに狩られてもらっていた。

 安定して勝てるようになってるし、何より一番近い。


 が、すっかり慣れて緊張感が無くなったので今日からは一歩先に進んだナントカの沼へ行く予定だ。

 そしてそこでフロッグナイトを狩る。



 道中にある雑木林を歩いているとシルバーウルフが目の前に飛び出してきた。

 今日は用は無いんだけど。

 そんなこっちの心境なんぞお構いなしとばかりに牙を剥き出しにして低い唸り声をあげる。


 こうなると無理か。

 どうにも帰ってくれそうにないので仕方なくこちらも剣を抜く。


 相手が飛び掛ってくる距離までじりじりと近づく。

 多少誤差はあるが、ある程度近づけばこいつ等は一気に飛び掛ってくるのだ。

 こっちが途中で向かって行ったり中途半端な距離から剣を降るとまた違った行動をするのだが。


 ちなみに既に攻撃態勢に入られている場合、当たり前だが逃げても追いかけられる。

 その場合はファイアボール等の飛び道具で牽制に成功すれば一度仕切り直しが出来る。

 牽制しなかったもしくは失敗した場合は勿論そのまま飛び掛られる。


 剣を構えたまま近づき、相手の範囲に入ると案の定飛び掛ってきた。


 それを回避しつつ胴体を切り裂く。

 シルバーウルフは着地すら出来ずに地面へと落ちる。

 追加の一撃で頭部を狙い命を断つ。


 最近のお決まりの流れだ。


 倒した後も気を抜かずに辺りを警戒する。

 どこぞのカエルのおじさんが「勝利に酔いしれた時こそ隙が生じる」って言ってたけど、あれは本当だった。

 一度魔物を倒した直後を狙われて痛い目にあった。

 腕を噛まれたくらいで済んだがあんなのは二度とごめんだ。



 しばらく歩くと案内が書かれている看板の場所へとやってこれた。

 それに逆らわず沼と書かれた方向へ向かう。


 十分程も歩くと雑木林を抜けた。


 それまで柔らかな土だった地面は粘り気のある泥へと変わっていた。

 ここは入り口だからまだマシなのだろう。

 奥に行けばより水分を含んだ土になっているのがここからでも見て分かる。


 ゆっくりと歩く。

 今の内に足元の感覚を覚えて戦闘中に滑らないようにしないとな。


 まだ少し遠いが先にフロッグナイトらしき魔物が見える。

 泥で足元を汚し、ぬめぬめとした皮膚が気持ち悪い大きなカエルだ。

 ボロボロだが槍を持っている辺り知能が高いのかもしれない。


 相手は三匹。

 ふーむ。

 どうにか一匹だけおびき出せないものか。


 そんな事を考えながら近づいていくと、相手がこちらに気付いた。

 自分の意識を警戒から戦闘へと切り替え、剣を取り出す。


 するとそれが合図だったかのようにフロッグナイトは三匹同時に向かってきた。

 一匹だけでは来てくれなかった。


「ファイアボール」


 現れた二つの火の玉を魔物へ向かって発射する。

 が、回避された。


 射程範囲に入った瞬間撃ったとはいえやるな。

 考えなしの魔物じゃないという事か。


「ファイアボール」


 もう一度二発撃つ。

 今度は足元に。


 予定通り二匹は足を止め後ろへ飛び退く。

 残りの一匹は躊躇することなく走ってくる。


 槍の攻撃範囲に入る。

 突くか?

 薙ぐか?


 フロッグナイトは槍を振り上げた。


 まさかの斬りつけ!?

 刃の部分が短いのに?

 馬鹿じゃないか。


 槍の刃の内側へと踏み込む。


「シッ!」


 まずは槍の柄に向かって一撃。


 くたびれたそれはあっさりと砕ける。

 そして素早く腹部に剣を突き刺し、薙ぐ。


 カエルとは思えない叫び声を上げながら一匹目が倒れる。

 声を上げている以上死んではいそうにない。

 しかし武器は破壊し行動も不能にした。


 意識を次へと向ける。


 二匹は仲良く近づいてきている。

 こちらも駆けていく。


 距離にして十メートル。


「フレイムピラー!」


 片方を丸ごと火の柱で焼き尽くす。

 足を止めずに最後の一匹へ。


 槍の範囲に限りなく近づいた所でこれまで何度も使用した言葉を発する。


「ファイアボール!」


 全力の三発同時。

 一発は頭部へ。

 残り二発は胴体へ。


 今度は避けられる事もなく全て命中する。


 頭部へ放った一発は頭を。

 胴体へ放った二発は胴体を。

 それぞれ狙った箇所をバラバラにした。


 フレイムピラーの効果は魔力を込める量にもよるが五秒から十秒。

 今回は全力でやったから十秒程度は効果が続くだろう。


 火の柱が消え、全身に酷い火傷を負っているフロッグナイトが見える。


「生きてるのか……」


 驚いた。

 まだ立っている。

 激しく鈍くなっているが動いてもいる。


 槍は柄が燃えたのだろう。

 地面に刃の部分がある。


 火傷を負い動きも鈍くなっているにも関わらずそれでもこちらに向かって歩く。

 いつの間にか腹を半分切り裂いたフロッグナイトも立ち上がり槍を手に歩いて来ている。


 倒すつもりで攻撃したのにタフなやつらだな。


 剣を握り直しまずは近くの槍が燃え無手となった一匹に向かう。

 元々近かった為、数歩で到着し首を撥ねる。

 体がまともに動かないのか反撃をする素振りすらなかった。


 残りの一匹は傷口から黒いもやが出続けている。

 放っておいてもその内消えるのだろうが、いつまで待てばいいのか分からない。


 近づいて行くと槍を握った腕を振り上げたが、腕を落としそのまま頭部を攻撃すると光となって消えた。


「ふぅ……」


 その後何匹かのフロッグナイトを倒し、少し休憩を取る事にした。


 フロッグナイトはシルバーウルフより明らかに体力が多い。

 どこから持ってきたのか全ての固体がボロい槍を手にしている。

 槍というより棒を使うかのようにただ振り回すだけなんだが。


 ちゃんと対処は出来る。

 が、毎度三匹以上で出てくる上に体力が多いから魔法も使って戦わないと体力満タンの三匹を同時に相手をしなけりゃならなくなる。

 要は面倒くさい相手だという事だ。

 もっと魔法でこうバーンと派手にやれないもんかねぇ。


 もしかしたらここらはパーティー向けなのかもしれないな。

 そろそろ俺もパーティーを組むべきか。


 いや。

 今は好きな依頼を受けてるけど、それはソロだから出来るんだよなぁ。

 それに狩る量が増えたとしても報酬山分けしたらこのランクじゃ手取りが少なくなりそうだ。

 暮らせていけるとしても今より質素な生活になるのはちょっと避けたい所。

 ……もうしばらくはソロでいいか。


 そのまましばらくあれこれと考えていたが、ふと腹が減っている事に気付く。

 今日は……というか今日も一度昼に戻る予定だったから何も持ってきていない。


 そろそろ帰るか。

 遅くなったらコゼットがうるさそうだ。

 この前昼を忘れて狩りに没頭してたら帰った時にしこたま心配されたしな。

 言葉を交わすのも恥ずかしがっていた控えめなコゼットはどこへいったのやら。



 早く帰ろうと少し足早に来た道を歩いていく。

 慣れたもので、この道を歩く新鮮な気持ちはもうすっかり無くなった。


 雑木林の中間辺りまで戻ると戦闘中の冒険者を見かけた。

 この辺りで誰かを見かけるなんて珍しいな。


 全くって訳じゃないけど、皆どこに行ってるのか狩場ではほとんど見ない。

 街中だとわらわら居るのに。


 その冒険者は魔法使いがよく着ているローブ系の防具を身につけていた。

 フードを被っていて顔はよく見えない。

 貴重? かどうかは分からんが、俺と同じソロプレイヤーのようだ。

 戦っている魔物はおなじみのシルバーウルフである。

 完全に魔法使いタイプなのか距離を取って魔法のみを使って戦っている。


「エアスラッシュ」


 お、あれは確か風属性の初級だったかな。


 放った魔法はギリギリで回避され、相手は一瞬怯んだのちに追撃する。

 逃げる二本足。

 追う四本足。

 当然あっという間に二本足が追いつかれる。


 そろそろ手助けした方がいいか?

 そんな事を考えながら足を一歩踏み出した瞬間。


「ソニックムーヴ」


 冒険者がそう唱えた瞬間に移動速度が跳ね上がりシルバーウルフを引き離した。

 元の距離に戻るとくるりと振り返り手をかざす。


「ストーンバレット」


 今度は土の塊が飛んで行く。

 突っ込んでいくシルバーウルフの頭に、先が尖り高速で放たれた土の塊が衝突する。

 ギャン……と一度吼えたきりシルバーウルフは動かなくなり数秒後消えていった。


 風属性と土属性。

 二属性を扱えるって事はエルフか。


 しかし戦い方が上手かったな。

 無傷で勝利している。

 俺は魔法だけと言われたら流石に何度かダメージを受ける自信がある。


 感心しながら眺めていると戦闘を終えた冒険者と目が合った。

 おっと、見すぎたか。

 もう無視するのも態度悪くなるし挨拶くらいしておくか。


「こんにちは。俺は冒険者なんだけどそっちも同業者……でいいのかな?」


 冒険者はコクリと頷く。


 ふむ。

 これは無口タイプか。

 以前なら二言三言申し訳程度に言葉を交わしてグッバイする所だが、丁度魔法の事も聞きたかったし色々質問してみるか。

 この手のタイプなら当たり前の事を知らなくても突っ込まれそうにないし。


「そちらさんはエルフなんだろ?」


 コクリ。


「魔法凄かったな! 俺も魔法使えるんだけどさ、新しい魔法って早く覚えるコツとかないの?」

「……ないと思う」


 お、喋った。声小さいからちょっと聞き取りづらいけど。

 というかさっきは魔法に意識が向いてて気付かなかったけど、声が高い。

 子供? にしては背が少し高いから女か?

 まぁ、どっちでもいいな。

 今は魔法の事だ。


「そうか。俺初級しか使えないから早く中級を覚えたかったんだけどな」

「……魔物を倒してたらいずれ覚える」

「なら魔物を倒さずに毎日魔法をぶっ放してても上達はしないって事?」

「…………それなら扱いが上手くなるだけ」


 なるほど。

 要は敵を倒してレベルアップすれば新しい魔法を覚えるよって事ね。

 扱いってのは強弱とかそんな感じか?

 気にした事ないからよく分からんな。


「教えてくれて助かった。狩りの邪魔して悪いな。それじゃ」


 手を振って別れる。

 向こうも少し手を振ってくれた。

 無愛想だけど悪い人じゃなさそうだな。

 ちょっとした時間だったが他の冒険者との関わりも悪くない。



 中央都市に戻り宿に向かう。

 少し遅くなったがこのくらいなら許容範囲だろう。

 部屋まで歩いていくと丁度コゼットが出てくる所だった。


「ただいま。ちょっと遅れたけど昼飯にするか?」

「おかえりなさ……泥だらけですね」

「ん? ふむ、流石にこれじゃ店には入れないか」


 そういえばそうだったな。

 足が泥だらけになるのは分かっていたが、当初は全身に泥を浴びる事になるとは思っていなかった。

 よくよく考えれば激しく体を動かすんだから当たり前なんだけど。


「もう……先に着替えますか? あ、でもでもお昼からもまた同じ場所で戦うんですか?」

「あーそうだな。同じ場所で狩る予定だから昼からも汚れるわ」

「そうですねぇ……。だったら屋台で買って外で食べましょう」

「それが一番か。んじゃさっそく行くか。腹減った」



 そんなこんなでフロッグナイトと戦う日は外で食べる事が決定した。


 しばらくは泥だらけになると伝えると、「外で食べるのも楽しいからいいですよ」と返ってきた。

 流れで洗濯もよろしくと伝えると、「はいはい」と苦笑しながら言っていた。



 それからしばらくの間フロッグナイトを集中的に討伐し続けた。

 割と時間がかかったが、なんとか家を借りる資金が貯まった。

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