十一話「教会本部」
パールックに存在するエリークス教の本部。
それは中央都市全体を見ても三本の指に入るくらいの大きな建物だ。
教会なのは知っていたが、エリークスという名はコゼットに教えて貰った。
エリークス教は友愛と協力を司る女神エリークスを崇めている。
人族、エルフ、ドワーフ、獣人族という四つの種族全てが友好な関係を築くのを是として活動しているそうだ。
信徒が増えていくにつれて自然と孤児院が出来ていったそうな。
この世界に来てあまり経っていないが、この宗教しか聞かない為他の神様は崇められていないのだろう。
憐れなり。
ちなみに「じゃあどんな活動してるの?」と言われると知らない。
そこまで興味が沸かなかった。
あぁ、朝の掃除の時間があるのは知ってたな。
やってたのは信徒じゃなくて孤児院の子供達だったが。
そして現在その教会本部の前に俺は居る。
「ユウイチさん、中に入らないんですか?」
俺は……ではなかったな。
コゼットも居るから俺達は……だ。
ここ最近はシルバーウルフ乱獲しまくってたんだけど、コゼットに「いつ教会に行くんですか? 調べ物ありますよね?」と言われたので「じゃあ明日行く」となった訳だ。
「入る入る。さ、行こうか」
中に入ると壁に掛けられた豪華な装飾や模様の入った柱が並んでいた。
床の真ん中には絨毯が一直線に敷かれており、その左右にある椅子は木で出来ているもののどれも均一で丁寧に作られている事が分かる。
大きさもそうだが内部に関してもイストにあった教会とはえらく違うな。
溢れる程、とはいかなくてもそこそこに人もいる。
椅子に座って祈っている人族のおばあさん。
それに連れられている孫らしき子供。
それを横目に見ながら神父っぽい服を着ている人を発見したので捕まえる。
「すいません。書庫にある本が見たいのですが入れて貰う事は出来ますか?」
「えぇ構いませんよ。ただ、書庫の外へ本を持ち出さないようお願いします」
「分かりました」
神父さんに書庫の場所を聞きそちらへ向かう。
廊下にも装飾品が壁に飾られている。
「なんでこんなに豪華なんだ? 向こうの教会と違いが大きすぎる気がするんだけど」
ふと沸いた疑問をコゼットに投げかける。
「ここの教会は四つの国からの支援がありますから。全部の教会がボロボロだったら誰も信仰しようと思わないでしょうし」
ふむ。
言い方は悪いが力があるってのを見せてる感じか。
まぁ金が無けりゃ孤児も養えないしな。
書庫に入るとこちらも規模が違った。
元の世界を基準にしても「大きな図書館」という感想が出る程に。
「これは……探すのが嫌になるな」
「わたしもこんなに広いとは思ってませんでした」
始まる前からうんざりしてしまったが、そういう訳にもいかない。
この都市に来た意味がなくなってしまう。
二手に分かれて棚の本を片っ端から見ていく。
歴史の本やちょっとした御伽噺なんかもたくさんある。
あっ、魔法の本だ。
ちょっと読もうか……いやいやまた今度にしよう。
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なるほど。
攻撃系の水属性上級を使えても初級ヒールしか使えない者もいる……か。
逆もまた然りで上級のヒールが使えても攻撃系は初級水属性魔法しか使えない者もいる。
つまりヒール系統は純粋な水属性って訳じゃないけど、水属性を使う者しかヒールを覚えられないから水属性カテゴリに分類されてるんだな。
普通に回復魔法カテゴリじゃいかんのだろうか?
どのみち俺は使えないみたいだしどっちでもいいんだけど。
「何やってるんですか?」
「うん? 魔法書読んで……」
気付けばコゼットが真横に立っていた。
あ、コレちょっと怒ってるやつや。
しまったな。
いつの間にか夢中になっていたらしい。
自分の使える魔法がファイアボールとフレイムピラーの二種類だからな。
ウォーターボールとヒールは知ってるけど水属性だから使えないし。
他の魔法も知りたかったんだよ。
ちなみにフレイムピラーはファイアボールと同じ初級に分類されていた。
そろそろ中級の魔法も覚えたいなぁと思っている。
「わたしはずっとマジメに探してたのに……」
「いや、済まん。よし、ちゃんと探すよ」
一つの本を熟読していたから見に来ていたらしい。
若干ぷりぷりしながら自分の持ち場に戻るコゼット。
次は本気で怒られそうだな。
マジメに探そう。
探し始めて二時間程経過しただろうか。
残念ながらそれらしい本は見つかっていない。
そもそもそんな本が存在しているのかすら不明なんだ。
よし、そろそろ止めにしよう。
この棚見たらもう終わり!
そうしよう。
おや、「黒の覇者」発見。
こっちにも置いてあるんだな。
内容は……多分同じ。
一字一句は覚えてないし流れしか覚えてないけど。
他に気になる本は……あ。
この真っ白の表紙はアレか?
聖書もどき。
ん、前のと少し違う。
続くとか書いてあったしこれがその続きか?
『神に造られた存在は数を増やしすぎた』
『時に争い、時に自然の力で、それは数を調整した』
『それでも数は増えていった』
『そして次第に溢れていった』
『溢れた者は落ちていった』
『時に自ら消滅し、時に自らが造り出した世界へと』
『続く』
また続くのか。
そもそも前のやつは何て書いてあったっけ?
えーと、確か……。
「ユウイチさん、これ見て下さい」
「お、コゼットか。どうした?」
差し出されたのは「黒の覇者」の本。
何冊あるんだよ……。
「これイストの教会にあった物と少し違うんです」
中を見る。
えーっと、どれどれ。
うん? 同じだと思うけど、何が違うのだろうか。
「一番後ろのページを見て下さい」
そう言われたので途中をすっ飛ばし最後のページを開く。
『白き本は真実の本である 神藤良嗣』
そんな言葉が一言だけ書かれていた。
へったくそな字で。
直筆って事は本人が書いた?
なら信じていい?
いや、安直すぎか。
……しかし白き本か。
もしかして今しがた見た聖書もどき?
それじゃあ最初に見たやつとさっき見たのを合わせて解読出来れば……。
「なぁコゼット、これと同じ表紙の本がイストの教会にもあったんだけど覚えてるか?」
こっちで見つけた白い本をコゼットに見せる。
「神書ですよこれ。イストにもありますし。そういえばこれも白い本ですね。あっ、でもでも中に書いてある文字が読めないんですよね」
「……読めない? コゼット以外の人も?」
「はい、イストの神父様も読める人を見た事ないって言ってましたよ」
俺には同じ日本語で書いてあるように見える。
神書ってのも気になるが、誰も読めないから「神が作りし~」とか言ったのだろうか。
いや、この際この本の名称はどうでもいい。
「なぁコゼット、これ、読めないんだな?」
最終確認だ。
本を開いてコゼットに中の文字を見せる。
「え……えぇ、読めませんよ? ユウイチさんは読めるんですか?」
「読める。というか俺には他の本と同じ文字に見えるんだよ」
となるとこれは当たりか。
手がかりなんてそうそう見つからないと思ってたのになんという好都合。
この内容は記録しておいた方がいいよな。
司書らしき人に紙とペンと許可を貰い白い本の内容を書き写していく。
「よし! これでここの白い本の内容は頂いた」
「なんか泥棒みたいな台詞ですねそれ」
何か言われているな。
それよりこれからだ。
どうもこの白い本はこっちの世界の人には読めないらしい。
情報収集しても場所まで、内容は自分で本を見るしかない。
イストに戻るか?
いや、あるのは分かってるんだし他の本を探すのがいいか。
来た道を戻るのが面倒すぎるとかそんなんじゃあない。
断じて違う。
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宿に戻ってきた。
こんなに早く手がかりが見つかるとは。
いや、浮かれるのは早いか。
神藤とやらが白い本の内容は事実と書いてあったが、帰る方法が分かるとは書いていなかった。
結果が予想出来ないから過度な期待はしないようにしておこう。
「なぁコゼット、これからの事だけど他の本を探す方向でいいか?」
「いいですけど、イストに戻るのは後回しにするんですか?」
コゼットがちょこんと隣に腰を下ろし水の入ったコップを手渡してくれる。
「本が揃って帰る算段がついた、ってなったらコゼットをイストに送らなきゃならんだろ?」
流石にそこら辺に放置する訳にもいかないしな。
俺はそんな外道にはなりたくない。
そうなると先に他の本を調べて、最後にイストを再調査するのが効率的だろう。
「ふぇ? わたしをイストに送る……ですか? イストから出てきたのに?」
あれ?
言いたい事が伝わってないっぽいな。
というか微妙に噛み合ってない?
「いやだって俺が帰ったらどうすんのさ」
「え? 連れて行ってくれるんじゃないんですか?」
えぇ……。
向こうまで付いて来る気だったのこの子。
「一方通行だったらどうするんだ? 戻って来れなくなるんだぞ」
「はい、その時はその時です」
「そ、そうか。ならいいんだ……」
良くないだろ。
このままだと前回と同じ様に押し切られてしまう。
何か言わなければ。
「良かったぁ。手伝った後捨てられちゃうのかと思いました」
ほっとした顔でそう告げるコゼット。
そんな事言われるとなんだか俺がすげー酷い事言ったような気がしてくる。
「お、俺がコゼットを捨てるなんて有り得ないさ。ははは。好きなだけ付いて来るといい」
「……は、はいっ! えへへ」
今までで一番いい笑顔だ。
こうなると何も言えなくなってしまう。
何だか押し切られた感が拭えないが、本人は嬉しそうだしまぁいいか。