「青年とホシとネコ」〜絵本風〜
別に書いている連載小説『ヒュー 〜ホシたちの物語〜』の大元の話です。
絵本だったらこんな感じかなぁ、って体で書いてます。
『ヒュー〜』の中でも使用しています。
とあるところに、とあるふしぎなホシがありました。
そこには、とある青年と、小さなネコが住んでいました。
そこは走れば一日で一周できるほどの小さなホシで、
彼らは気づいたときからそこに住んでいました。
そこにはたかい塔が建っていて、中には数えきれないほどの部屋がありました。
中にはたまに食料があったり、服や本やDVDがあったり、からっぽだったりする
のです。
青年は、なんどか部屋の数を数えようとしたのですが、何日歩いても走っても
いっこうに先が見えないので、けっきょくまだ数えきれていません。
なので、ふだんはその中のひとつを使ってくらしています。
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青年はものを作るのが好きでした。
ネコのねどこだったり、絵だったり、彫りものだったり。
あと、青年は体を動かすのが好きでした。
飛んだり跳ねたり、かけっこしたり。
ホシを走ってどれだけ早く一周できるか、ためしたことも何度かあるのです。
いっしょにいるネコはアメリカンショートヘア。
このホシで青年にひろわれ、以来なついています。
と言ってもネコなので常にベッタリというわけではありませんが。
そんな感じで、
時にケンカしたりなかなおりしたりしながら、二人はくらしていました。
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ところで、このホシには、ときどきいんせきが落ちて来ます。
くうちゅうでもえつきる、キレイなながれ星のときもありますが、
たまに地面まで落ちてくることもあります。
青年はそれらを時によけたり、パンチでくだこうとして大ケガをおってみたり、
せっかく作った彫刻をこわされてがっかりしたりしながら、
それでもめげずにくらしているのです。
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ところでもう一つ、このホシにはふしぎなことがありました。
二人がくらしている塔はふだんはとある平原に建っているのですが、
寝て起きると、たまに崖の上に建っていたりするのです。
また次の時は砂漠のどまん中。
また次の時は真っ白な雪山の中。
ふかい海の底だったり、たかい雲の上だったこともあります。
その時々でたいへんはたいへんなのですが、
もう二人にはなれっこなのでした。
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ある時、二人は遠くに落ちるいんせきを見ました。
行ってみると、じめんにあいた穴のそばに、一人の女の子がたおれていました。
二人とも、今までそんなことは無かったのでびっくりです。
でも青年は、女の子のことは本やDVDで見たことがあるので、
声をかけました。
「こんにちは」
女の子は答えました。「こんにちは。ここはどこ?」
青年は答えます。「う〜ん、ぼくのホシ・・かな」
「そうなんだ・・パパとママは?」
「えっと・・今はいない、かな」
「いや、あたしの」
「あ、そっか・・・やっぱいない、かな」
「そうなんだ」
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その後なんにちかのあいだ、青年と少女はホシで遊びました。
雪山で雪合戦したり、山林で虫を取ったり、海辺で泳いだり、キャンプしたり。
そんなことは初めてで、青年はとても楽しかったのです。
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ところがある日、青年と女の子が遊んでいると、
突然女の子の体が光りはじめました。
青年はおどろきましたが、どうすることも出来ません。
女の子もふしぎそうな顔をしていましたが、
女の子の体は、そのまま消えてしまったのです。
辺りじゅう探しましたが、女の子はもちろんどこにもいません。
あまりに突然のことだったので、青年はさよならも言えませんでした。
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青年は少し変なきぶんでした。
今まではネコと二人、普通に楽しくくらしていたのに、
とたんに寂しい気がしてきたのです。
そんな青年を見て、ネコは少し心配でした。
側によりそって、指をなめてあげます。
「(ボクがいるよ)」
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なんにちか落ちこんでから、青年はすこしだけ元気になりました。
何かしたかったので、ひさしぶりに数えきれない部屋を数えにいくことにしました。
今度は、一週間ぶん以上の水と食べ物をもって出かけました。
もちろんネコもいっしょです。
おもったとおり、なんにちも走りましたが、いっこうに先は見えません。
ネコもはじめはいっしょに走っていましたが、そのうち疲れて
青年のリュックにもぐりこんでしまいました。
そのうち食べ物もなくなり、トボトボと歩きはじめた青年に、
ネコは声をかけました。
「もう帰ろうよ」
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青年は、こんどだけは先を見たかったのですが、
仕方ありません。
だけど、もう帰りの分の食べ物も食べてしまい、
今引き返してももどれるかどうか分からないのです。
あるていど来てからはどの部屋も空っぽなのは
今までのことで分かっているので、
ふだんのように食べ物の部屋を見つけられる可能性もありません。
青年は少し後悔しました。
自分だけならまだしも、ネコまでつれて来てしまった。
せめてこいつだけは助けなきゃ。
青年は疲れた体を引きずって、元来た方へ歩きはじめました。
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その時です。
すごい音とともに、そばの壁がばくはつするようにこわれ、
青年とネコは危うくがれきに飲まれそうになりました。
ゆれが収まってからおそるおそる顔をあげると、
おそらくいんせきがあけたであろう穴が、外にまで続いていました。
青年は、いつもはめいわくな存在だったいんせきに感謝しました。
「ありがとう」
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こうして二人は助かりました。
外に出てみると、とてもいい天気でした。
壁にあいた穴は、なぜかまた次の日には消えていました。
このホシではそんなことはもうなれっこだったので、
もう二人とも気にはしません。
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それよりも、青年はいんせきのことを考えていました。
助けてくれたのもそうだし、
考えてみれば、女の子に会わせてくれたのもいんせきだったのです。
そりゃあ今までもたいへんだったけど、
実はその時々で、何かしてくれていたんじゃないか?
いやそれよりも、このホシじたいが、
ずっと自分たちに何かしてくれていたんじゃないか?
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そうしてしばらく、時がたちました。
その後、いんせきが落ちた後には、時々
色んな人がホシにやってくるようになりました。
時に男の子だったり、女性だったり、虫や魚だったり、
モヤモヤとした得体の知れないものだったり。
仲よくなったり、遊んだり、ケンカしたり、触れ合ったり。
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みんな青年に何か今までとは違うかんかくをもたらしては
帰って行きます。
さびしさはあるけれど、青年はそんな出会いが
だんだん楽しくなってきました。
そんなようすを、
ネコは今日も目を細めて見ているのでした。
お し ま い 。
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