やはり俺達の青春旅行は間違っている その1
本シリーズ初の続き物。小刻みに進めたいと思います。
「いやー、言ってみるもんだねー」
2011年5月3日。
合間に挟まった、平日を乗り越えて訪れた3,4,5日の3連休――その記念すべきスタート初日、神楽葵はリビングのソファーで呟いた。
陽光を照らし返す紺碧のショートカットに、意志の強そうな同色の瞳。丈の長いパーカーとホットパンツに包み込まれた健康的な肉体――主に足――を惜しげもなく見せびらかす彼女は、近年稀に見る上機嫌っぷりだった。何なら鼻歌を口ずさんでいても不思議ではない。
「前からさ、あたしはでっかいのを買ってたんだょ、うん。でかいしバカだし大雑把だし気は利かないけど、幼馴染を労るくらいのことは出来るやつだってね」
「あ、葵ちゃん……それはいくらなんでも酷いと思う……」
褒めているのか貶しているのか解らない発言へ、苦笑しながら返事をしたのは伊達雪音――きめ細やかな茶髪と、ふんわり柔らかな表情が愛らしい美少女だ。服装まで活動的な葵とは対照的に、フリルのついたキャミソールに薄手のカーディガン、膝丈のスカートと全体的に可愛らしい感じでまとめられている。
「せっかく鷹さんの好意なんだから、もうちょっと、ね?」
「いや、だから感謝してるんだょ? でも、あいつってマイナス方向のポイントも多いし。どーしてもこう、一定ライン超えないっていうかさ」
「そ、それは解るんだけど……」
どう見ても、擁護しようとしていた雪音の旗色が悪かった。というか、そもそも擁護している鷹の素行が悪すぎるのだ。幼なじみはともかく、その他一般ピーポーに対して特に。
「うんうん。鷹ちゃんって普段いい子じゃないもんね~」
対面で腰掛ける二人の横、俗に言うお誕生日席に陣取った声の主は、劣勢の雪音を援護――ではなく、素直に思ったままに、あっさりと客観的意見を述べた。冗談みたいな量のピンク髪とトレードマークの黄色いリボンを揺らしながら、八重葉風見はのんびりとした口調で話を続ける。
「それにほら、おばかさんだし」
「お前にだけは言われたくないと思うぞ……」
ただしそれは、聞き捨てならないセリフだったわけだが。
「あ、お兄ちゃん。準備終わったの?」
「ああ」
黙って第三者でいるつもりだったのに、風見の身の程知らずに思わずつっこんじまった。
“補習の女王”、“赤点クイーン”、“入学も卒業も奇跡”等等、不名誉なあだ名の持ち主の発言とは思えない。どんだけ棚上げしたんだあいつは。それは引越し業者でも別料金取るレベルだぞ。
「兄貴、遅いょ」
「うちの優秀な妹を誰かさんの相手に取られてなきゃ、もうちっと早く出来たんだけどな……そもそも集合は十時なのに、九時前に押しかけてきやがって。本来の時間には充分間に合ってるっての」
風見に負けないくらいの棚上げを指摘してやると、葵は神速で顔を逸らした。あれで聞こえてないフリというから、始末が悪い。
「あうう……ごめんね、お兄ちゃん。ロクに準備手伝えなくて……」
「別に責めてないから、謝るな。雪音。全部こいつらが悪い……ったく。都合が悪くなったら顔を背ける癖、そろそろやめろっての」
ため息と共に、黒髪の青年――伊達一護は雪音の隣へ腰掛けた。すっきりとした目鼻と愛嬌のある表情が同居した、端正な顔立ちの青年である。中肉中背だがすらりとした体のラインをカッターシャツと薄手のジャケット、スラックスで纏った様は、それなりに見栄えのするものだった。
「ほぅ……んー……まぁ、ギリッギリ合格、かな? ちょい落ち着きすぎな気もするけど」
「ぬかせ」
いつもより少しだけよそ行きを意識した格好へ、葵の目がきらりと光る。青髪の幼なじみは、進学してからファッションチェックを頻繁にするようになった。ちなみに雪音と風見も一応、それぞれ合格点は貰っている。主観的判断なので気にしなくてもいいんだが、たまに雪音は助言を元に服装を変えたりしていた。
「さて、と。ただ待っているだけも芸が無いか」
「どこに電話するの~?」
「鷹。こっちのメンツは揃っちゃったしな。向かってるなら、ちょっと急いで貰おうと思って」
というわけで、迎えに来るはずの相手へコール。
「出るかな? でっかいの、あんま電話出ないんだよね。ここ最近は特に」
「ほら葵ちゃん、トレーニング中とかだからじゃない?」
「それもあるかもだけど、昔っからだからにゃー。っていうかゆっき、でっかいの擁護しまくりだね?」
「葵ちゃんが歯に衣着せないからだよ……」
「はにきぬ? なんか美味しそうだねっ」
「……少しは静かにしろよ、お前ら」
人が電話している横で、ガールズトーク(?)繰り広げるなっつーに。
「……しかし出ないな。あいつ」
「おょ? 車止まったょ?」
いつまでも繋がらない電話にいらだち始めた頃、家の前に車が止まるのが見えた。伊達家のリビングは庭に面しており、生垣の向こうに道路が見えるのだが――葵の言う通り、そこに車の屋根が飛び出している。
……いや、飛び出してきたのはもう一人。
「あ、鷹ちゃんだ」
天へ反逆する金の短髪、やぶ睨みの鋭い目つきを隠す趣味の悪いサングラス。ここからだと生垣で頭しか見えないが、それで充分だった。
月都鷹。今まさに一護がコールしていた最後の幼なじみは、車から降りるとこれみよがしに電話を取り出し、こちらを見てにやりと笑う。
「……あいつ、気づいてたのに出なかったのか」
もうすぐつくから面倒くさい、というのと驚かせようというのが半々くらいに違いない。相変わらず、悪趣味な奴だ。
「ンじゃ、出るぞ。雪音、戸締りは?」
「あと玄関だけだよ、お兄ちゃん」
「流石に気が利くな。褒めてあげよう」
「えへへ……褒めて褒めて♪」
雪音の頭を撫でてやりながら、荷物を持って立ち上がる。他のメンバーも同じように、一抱えもあるバッグを持ってそれぞれ腰を浮かしていた。
――さて、2011年5月3日。
記念すべき3連休の初日。
そして幼なじみだけでの一泊二日、小旅行のスタート日である。




