死にたがりの赤ずきんと気の長い狼の迂遠な関係 - イチ
『イチ。』
「死ぬときになったら教えてね」
こうもはっきりと、お前が死ぬのが待ち遠しいと言われたのは初めてだ。
「出来るだけ、身体が欠損しない死に方で。あ、でも、お薬はやめてね」
そして、死に方に注文をつけられたのも。
フェンスの外側で、丸い白線で彩られた砂色の地面を眺めていたとき、彼女は現れた。
「死ぬの?」
彼女は抑揚のない声を発しながら、止めようともせず、いつの間にかフェンスの内側から身を乗り出して、僕の横にいた。
「え、どうだろう」
僕はそう返した。
さっきまで死ぬテンションでうきうきしていたのは確かだ。でも、今はどうだろう?
「勿体ないね」
彼女がこういったものだから、僕は少し落胆してしまった。まったく止めようともせず、自然に会話してたのに、勿体ないだなんて。束の間持てていた興味が、あっさり霧散してしまった。命を粗末にするな、と似た言葉は、もう聞き飽きている。
「悩み?」
彼女の口元には微笑みがあった。でも、目は全然笑ってない。まるで人形のグラスアイ。ただそこにあって、人としての造形を保つために存在しているみたい。肌も不自然に白くて、顔も嫌に整っていて、長い黒髪なんて、まるで日本人形。背も高く、プロポーションだって良い。完璧だ。まるで誰かがそういう風にデザインしたんじゃないかと思えるくらいに。美人というには、あまりにも無機質で、不自然なヒトだ。
「いや、つい、癖で」
でも、僕はその瞳に、嘘をつけなかった。
自殺癖。僕はこの癖を、そう呼んでいる。時々さっきみたいに、やたらとテンションが上がって死のうとしたり、気がついたら腕にカッターが突き刺さっていたりする。
今のところ直前で我に返ったり、周りに止められたりで、自傷癖に止まってはいるけれど、きっといつかは死ぬんだろう。病気ではなく、事故でもなく。このみょうちくりんな、僕だけの癖によって。
「癖か。じゃあ、死んじゃうね」
驚きもせず、呆れもせず。彼女の声は、びっくりするほど清々しい。
「でも、勿体ないよ」
二個のガラス玉が、僕を見つめている。
「こんなに白くて、柔らかくて、美味しそうなのに」
「あっ……」
不意に冷たい指先が、僕のタートルネックのインナーから滑り込み、首筋をなぞりあげた。背筋を電流が駆け抜けて、身体がぞわぞわっとして、力が抜ける。
僕は慌ててフェンスにしがみついた。危うく屋上から落ちて、本懐を遂げてしまうところだった。
「どうせ死ぬなら、死体を私にちょうだい。食べるだけ食べたら、こっそり埋めてあげる。でも、ここで死ぬのはだめ。警察に持って行かれてしまうから。死ぬなら……、そうね、地下室とか山奥とか、人目に付かないところがいい」
「食べたいの? 僕を?」
「うん、すごく」
彼女は笑った。ガラス玉に感情が染み出して、ようやく人間なのだと思えた。そして、そんな彼女は、すごく魅力的な少女だった。