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マヤにしてっ!  作者: 白沢 雄
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マヤになる! 6

 全校集会と宿題の提出が終ると、もう今日は帰るだけだった。その筈だったのだが、マヤの包みがどうも気になっていた。

 先生が注意をしないという事は、私物ではなさそうだった。そういえば、ミツル先生が顧問をしていたのは美術部だった筈だ。

 もしかしたら、美術部に関係あるのだろうか? しかし、マヤはどこのクラブにも所属していない筈だ。

 ホームルームが終わってすぐに、わたしは振り返ってエフェメラさんに尋ねた。彼女も美術部員なので、何か知っているかもしれない。

「ねえ、エフェメラさん。あそこの銀墨さんの包みって、キャンバスに似てるよね?」

 エフェメラさんの返事を聞いたら、真相は簡単に判った。

「マヤなら、夏休み中に何度か部室に来ていた」

 そう、マヤは美術部で絵を描いていたのだ。

「でも、彼女って美術部じゃないでしょ?」

 その質問には、話せば長くなるからとエフェメラさんが言うので、歩きながら話しを聞く事になった。

 なんでもマヤは、夏休みの初日にいきなり部室にやってきたそうだ。


               *


 この日は、モデル役のエフェメラさんを他の部員達が囲んで、デッサンをしていた。美術部にはエフェメラさんを含めて五人しか部員はいなかったので、結構モデルをやらされるらしい。モデルといっても高校生の部活なのでヌードになるわけはなく、エフェメラさんは制服姿のままだった。

 一年生に至っては、エフェメラさん一人だけだった。いかに彼女が人気者だとはいえ、部活まで同じにする程の熱心な追っかけがいる訳ではなかったのだ。

 確かに、この学校は教科にしても美術の扱いは良くなくて、授業は教室で行われていて美術室だった部屋は物置となっていた。その為、絵を画くのも旧校舎の三階の突き当たりにある部室だった。

 そこへ、部室の扉をバンと勢い良く開けて、マヤが入ってきたのだ。

「うんうん、やっぱりここね」

 そう言ってマヤは、挨拶もしないで窓際まで部室を横切ったのだ。勝手に窓を開けて外を見回し出したマヤを、ミツル先生は当然注意した。

「銀墨さん、あなたは何しに来たの?」

「ここなら、体育館の屋上が見えるのよ」

 振り返りながら、マヤは質問に答えた。ここでマヤは、ようやく自分が居る場所に気が付いたようだった。

「あれ? みんな、絵を画いているの?」

「ここは美術部なんだから、当前でしょ。邪魔をしないで、さっさと出て行きなさい」

 マヤも納得したみたいで、先生の言葉に頷いて部室を出て行った。小さな騒ぎもこれで終わりだろうと誰もが思っていたが、二時間ほど経ってマヤが再び部室の扉を開けた。

「みなさん、お待たせー!」

 そう言って誰も待っていない部室に入ろうとすると、マヤの前に先生が立ちはだかった。

「だから、絵を画く邪魔をするのはやめなさい」

「邪魔するわけ無いわよ。だって、あたしも絵を画くんだもん」

 確かにマヤは、画材を持っていた。彼女は今まで、わざわざ買い揃えていたのだ。

 これで文句は無いだろうとばかりに部室に入って来た彼女は、重武装をしていた。水彩と油彩の絵の具に絵筆を両手に持ち、右の脇にはスケッチブックを挟んでいた。しかも背中には、新品のキャンバスとイーゼルまでおぶっていたのだ。

「あなたは、入部したいの?」

 先生に尋ねられても、マヤはまともな返事をしなかった。

「あたしは、美術部ではなくてこの部屋に用があるの。ここは絵を画く所だから、あたしも絵を画くの。判った?」

 そんな理屈では、判るわけがない。しかし、絵を画く意思があるのなら、いずれは入部してくれる可能性も考えられた。ただでさえ部員が少ないのに、部員が増える機会を潰したくはなかった。

 どうしようか迷っている先生に提案したのは、エフェメラさんだった。

「わざわざ画材まで揃えたのだから、体験入部みたいなものだと思えばいいのでは?」

 先生も折衷案を受け入れ、こうしてマヤは部員達と一緒に絵を画く事を認めてもらった。他の部員達も、部員数の少なさは気にしていたので渋々ながら了解した。

 もっとも、マヤはいつも体育館が見える窓際に座っていたので、モデルを見ないで外の景色ばかり画いていた。

 何故かマヤは、画きかけの絵を部室に置いておかずに持って帰っていた。机からはみ出る程の絵を持って帰るのは、大変だろうに。それが、教室で見た包みの正体だったのだ。


               *


 これは、なんともマヤらしいエピソードだと思った。少なくとも、体育館の屋上にこだわっている所は彼女でなければ起こり得ないだろう。

 マヤは、どうして体育館の屋上に固執するのだろう?

「そうだ、一度聞いてみるのもいいかもしれない」

 全く接点の無いわたしとマヤだから、彼女に話し掛ける切っ掛けに丁度いいと思った。

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