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マヤにしてっ!  作者: 白沢 雄
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マヤが好き! 12

 わたしが目を覚ますと、眼前に夜空が広がっていた。屋上から落ちた時のようだ。

 あの時ほどではないが、全身には痛みが残っていた。この惑星で生活している以上、引力の全てを無効にするわけにはいかない。最悪、生身のままで宇宙に飛んでいく危険を考えると、この程度の痛みは仕方が無い。

「マヤはっ?」

 慌てて飛び起きると、マヤはすぐ近くでわたしに背を向けてしゃがみこんでいた。立ち上がるのももどかしく、わたしは四つん這いでマヤに近づいた。

「どうしてよマヤ? 何でチナと入れ替わったりしたのよ!」

 わたしに振り返ったマヤは、ボロボロと涙を流して泣いていた。

「あたしのせいで、チナが壊れてしまった」

 確かにチナは、様子が尋常でなかった。あれは、マヤの仕業だったのか。

「あたしが、和美を選んだから。チナには、あたししかいなかったのに、そんなの思いやらなかった。だからチナは、絶望してしまった」

 結局、チナとマヤは結ばれなかった。マヤがわたしを選んでくれたのは素直に嬉しかったし、何も得るものが無かったチナの結末は気の毒に思う。それがどうしてチナと入れ替わった理由になるのか判らない。

「あたしの心は、たとえ前世が破壊魔王でも人殺しでも、なお友達でいてくれる和美がいたから救われた。あたしがチナに出来る事は、そんなあたしの一番大切な人を譲ることだけだった」

 つまりマヤは、わたしにチナをマヤと思い込ませ面倒を見させるつもりだったのだ。しかも、自分はチナとして死のうとしていた。

「何やってんのよ」

 わたしは、マヤの胸ぐらを掴んで立ち上がった。今のマヤは全然力が無くて、わたしでも簡単に持ち上げられた。

「マヤがいなくなって、わたしがどんなに心配したと思ってるのよっ? マヤはわたしを信じていたくせに、どうしてマヤを信じていたわたしを騙すのよっ!」

 わたしは、泣きながらマヤを揺さぶった。マヤのかけていた紫色のメガネが、その勢いでずれ落ちた。

「ご、ごめんなさい。和美」

 マヤが、素直に謝った。わたしが思った以上に、マヤは心身が消耗していると判って、何か急に気の毒に感じた。

「うん、わたしも言い過ぎたわ。ごめんなさい」

 わたしは手を離して、マヤに抱き着いた。マヤも、両腕を回して抱き着き返した。わたし達は、涙を流しながら互いに抱き合った。

「どうやら、結果は出たみたいだな」

 エフェメラさんが、チナをお姫様抱っこしてやって来た。チナは、相変わらず焦点の定まらない目をして、何も見えても聞こえてもいないようだった。

「平岩先輩なら意識を戻せるかもしれないが、どうする?」

 エフェメラさんは、チナをそのままにしても良いんだと言っているのだ。しかし、わたしの気持ちは決まっていた。

「チナを、平岩さんの所に届けて下さい」

 わたしの結果はもう出たけど、チナはまだ結果を見ていない。今のチナが運命だなんて、思いたくない。

「本当にいいのか? また命を狙われるかもしれないぞ?」

「その時は、受けて立つわよ」

 彼女だって、マヤが好きでした事だ。やっぱりわたしは、彼女を嫌いになれない。

「言っとくけど、あたしは誰も選ばないわよ。だって、みんなあたしのものなんだもん」

 そう言って、マヤは笑った。早くもマヤは、本調子に戻ったみたいだ。

「ほらマヤ、忘れものだ」

 エフェメラさんが、マヤに指先ではじいてメガネを放った。マヤは、指先で苦も無くキャッチして顔に掛けた。

「あはは。やっと和美がよく見える。うん、ただいま和美」

 そう言って、マヤは笑った。早くもマヤは、本調子に戻ったみたいだ

 わたしは、足元に落ちていたチナのメガネを拾ってチナのポケットに入れた。

「あれ、何か入ってる?」

 ポケットを探ると、そこにはイヤリングが入っていた。片方はマヤがつけていて、警察にもう片方が没収されていた筈だ。いや、マヤなら警察から取り返すのもたやすい。チナの右耳にそのイヤリングをつけると、左耳からダイヤのイヤリングを外した。

「こっちの方が、貴女にふさわしいわ」

 わたしは、マヤの左耳を引っ張ってダイヤのイヤリングをつけた。

「マヤは、両方つけてなさい」

 マヤの両耳には、異なるイヤリングが輝いている。マッチングはしていないが、マヤらしい感じになったと思う。

「あ、そうか。友達って二人いても良かったんだ。どっちかを選ぶ必要は無いのよね」

 そう言って、マヤは両耳をいじりながら自分に納得した。

「そろそろ、ここから立ち去ろう。もうすぐ騒がしくなる」

 そう言ってエフェメラさんが指した校庭を見ると、巨大な氷の塊がまるで白鯨が打ち上げられたみたいに横たわっていた。さっき聞こえた轟音の正体は、氷山の墜落だったのだ。

「空中に浮いていた時は、僅かな力でも簡単に横滑りしたので、なんとか校庭に誘導出来たのだ」

 どうやらわたし達が屋上にいる間に、エフェメラさんが氷山の相手をしてくれていたらしい。彼女の面倒見のよさは、本当に有りがたい。

 チナを抱えたまま歩き出したエフェメラさんが、振り返った。

「紙バッグは、どうする?」

 そういえば、エフェメラさんの部屋に置きっぱなしだった。わたしを押しのけたマヤが、エフェメラさんに向かって身を乗り出した。

「ああ、あれ? まだ使うから、一緒に行きましょ」

 まだ使う? マヤはもう、巫女の生まれ変わりではないと判っているのに。

「これからは、今のあたし達が着る服を作りましょう。チナの分も一緒に」

 とても魅力的なな提案をしながら、マヤはわたしの手を引いて駆け出した。

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