マヤが好き! 2
クラスメートたちがエフェメラさんに以前と変わらない態度で接している一方、わたしに対しては冷たい態度を取っている。どうやらわたしは、クラスのアイドルをそそのかして悪の道に引きずり込んだ外道だと思われているみたいだ。いや、そもそも友達が少ないわたしは、暖かく接して貰った覚えはマヤとエフェメラさんにしかなかった。
「Hyvaa huomenta!」
背後から、聞き覚えのある挨拶が聞こえてきた。勿論これは、マヤがエフェメラさんに挨拶しているのだ。
「Hyvaa huomenta!」
エフェメラさんも、笑顔で挨拶を返した。しかし、教室の生徒達はマヤを白い目で見ていた。二人が仲良くするのが、どうしても我慢ならないのだろう。マヤに面と向かって何か言ったりする生徒はいなかったが、ヒソヒソと何か陰口を叩いている声は聞こえてきた。まるでエフェメラさんの人気に反比例して嫌われているようだ。
そんな事など、マヤは全く気にしていない。本当に自分の興味が無い事には、気に掛けないのだろう。
そういえば滝畑さんはどうしてるのかと見てみると、自分の席でうつむいていた。言いたいことがあるけど、マヤは怖いという事だろうか。
自分の席にカバンを置くと、マヤは本らしき物を取り出した。それが今日発売されたばかりのFRマガジン最新号なのは、言うまでもない。
「それは、コンビニにでも売っていたのか?」
「少し遠いけど、朝から営業している本屋があるのよ」
学校に来る前に、わざわざそこに寄って来たのか。本当にマヤは、FRマガジンが好きなのだろう。マヤは、エフェメラさんの机の上に全く遠慮する事無く雑誌を広げた。エフェメラさんは、迷惑がらずにそのまま自分の席に座る。前の席のわたしが横向きに座って腰をひねると、エフェメラさんと向かい合う姿勢になった。
それにしても二人は、周囲の視線に全く動じない。マヤは全く視線を感じておらず、エフェメラさんは視線に耐える芯の強さがあった。どちらにしても、二人の横で居心地を悪く感じているわたしとは、レベルが違う。
「今月は、エピクリマ大陸の終焉について特集されているの」
その言葉を聞いて、わたしは今朝の夢を思い出した。あの夢では、マヤに似た少女は自分のせいで国が滅んだと言っていた。一体何をしたのだろうか? いや、そんな事よりも彼女に見捨てられた事の方が重要だ。どうしてそんな事になったのか、その経緯が今月号に書いてあるかもしれない。マヤから直接聞くのが不安だったわたしは、どんな事が書かれているか知りたかった。
マヤに会ってからはこんな記事でも信じるようになったが、まさか記事の内容をあてにするなんて思わなかった。
マヤが広げたページを三人で覗き込むと、そこにはアクセサリーを見せびらかしている女の子が写っていた。これは、ダイヤモンドのカットを十二種類に分類した誕生カットというアクセサリーの広告だった。誕生石がガーネットやムーンストーンだったりする女の子には、これを彼氏に買わしていると聞いている。
「いや、グッズの広告はいいから」
エフェメラさんに突っこまれて、マヤはページをめくりなおした。
「漫画の連載が終わって、今月からページの配置が変わっているわね」
今さら驚く事ではないが、先月までなら見たいページを一発で開けるほどに、マヤはFRマガジンを読み込んでいたのだ。丁寧に確認して、マヤはセンターカラーを開いた。
『エピクリマ大陸最後の日!』
血のようなといよりはトマトのような真っ赤な大見出しの下には、凄惨な景色が描かれていた。これは、地獄絵図と言うべきだろうか。記事の本文も、血文字のようなオドロオドロしい字体で書かれていた。でも、現実味のないデザインの建物が破壊されたり、SFヒーローみたいな服装の人が爆発に巻き込まれても、あまり怖くない。
むしろ気になったのは、遠くの洋酒のビンみたいな形をした塔の屋上で戦っている存在だ。どこかで見たような黒い手が林立して、銀色の服を着た人間と戦っているのだ。キャプションも、矢印の横に書いてある。
『宇宙人の作った人造人間「レイ=デイ」に対抗する為に、大陸の賢者達はホムンクルスを製造した』
人造人間といえば、心当たりは一つしかない。レイ=デイという言葉にも聞き覚えがあったし。当然のようにマヤも気付いて、エフェメラさんに向かってキャプションを指して見せた。
「これって、間違いですよね。去年のバックナンバーでも、双子の巫女の姿が全然おかしかったし」
「それに、エピクリマの人達は爆発ではなくて石にされたのよね。あたしも、和美と一緒に舞台から見下ろしていたわ」
わたしが見た夢と同じ内容を、マヤが言った。わたしとマヤが同じ夢を見ていた事を確認出来て、嬉しくなった。あの夢の結末は、脳裏から離れないけど。
マヤも相槌を打ってくれたが、わたしは思い出していた。エピクリマ大陸の技術を研究していた平岩部長が、エフェメラさんの事を古代文明としか言わなかった事を。始めて見たとも言っていた。それは、エフェメラさんがエピクリマ大陸の技術で産まれたのではないという事だ。
そういえば、部長の述懐だと黒い手がついていた黒い体も現代の工学技術の産物で、エピクリマ大陸の技術とは無関係だった。
だけど、エフェメラさんは言っていた。エフェメラさんの誕生には、エピクリマ大陸が深く関わっていると。彼女がエピクリマ大陸に関わってるとしたら、それは大陸を沈めた側ではないのか?
しかし、エフェメラさんは黙って紙面を見つめていた。ほんの数秒間だったが、とても長く感じられた。
ぽつりと、エフェメラさんは呟いた。
「大事な話がある。昼休みに校長室に行った後で、屋上に来てくれないか」
「だったら、校長室に行かないで、そのまま屋上でお昼にしましょうよ」
いや、その優先順位はまずいだろう。一昨日もお昼を優先させたのが、事態が悪化した原因の一つだったし。
「マヤ、校長室で壊したものについては、謝らないと」
わたしに言われて、マヤは首をかしげた。
「そうれもそうかもね。じゃあ、校長室に行くわ」
何とかマヤを説得する事が出来て、わたしもエフェメラさんも一安心した。




