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マヤにしてっ!  作者: 白沢 雄
32/44

マヤが好き! 1

 エピクリマ大陸は、滅びの時を迎えていた。唯一残されたこの祭壇も、床一面がひび割れていた。

 近づかなければよく見えなかったマヤそっくりの少女の顔が、今ははっきりと見えた。崩れ落ちた屋根の向こうの空はさっきまで黒かったのに、今は七色に輝いていたのだ。

 広場に散らばっていた瓦礫の正体を知って、わたしは青くなった。崩れ落ちた屋根のかけらだと思っていたのは、広場を埋め尽くしていた人たちの変わり果てた姿だったのだ。石となって崩れ落ちた人々の中には、苦悶の表情を浮かべた顔が残っている者もいた。

 わたしと抱きしめ合っている少女は、震えながら輝く空を見ていた。

「ねえ、怖いの?」

 わたしが尋ねると、少女は首を横に振った。

「そんな事はないわ。だって、あの方が来るのだから」

 あの方? 一体誰の事を言っているのだろうか? それを尋ねようとしたわたしを、少女が突然突き飛ばした。

「え?」

 とりわけ大きい割れ目に足を取られて尻もちをついたわたしを、少女は怪しい笑顔で見下ろしていた。わたしの腕の中で怯えていたのが、まるで嘘だったみたいだ。

「あたしのせいで、この国は滅んだ。その罪はとても重くて、今までのあたしは震えるしかなかった。でも、もう後悔はしない。国と引き換えにしてでも、あたしは愛を手に入れるのよっ!」

 少女は、舞台から飛び降りて駆け出した。


               *


 また、あの夢を見た。少女がわたしの前から突然去って行く夢は、わたしにとって衝撃的だった。まるで、わたしの前からマヤが去って行ったかのようで、胸に大穴が空いたような喪失感を味わった。

「マヤは、消えたりしないよね」

 あの夢は、過去に本当にあった出来事だろうか? 夢で判るのは、景色と音声だけだ。その時のわたしが何を考えていたのかは、判らない。マヤも夢の自分がどうしてわたしを見限ったのか、判っていないのだろうか。

 そういえば、わたしはマヤのコスプレをしたまま就寝していた。グッショリと汗で濡れた洋服を、わたしはベッドから起きるなり体からはぎ取った。


 一夜明けた朝、わたしはどうしようか迷ったが、マヤに会いたいという気持ちが最後に勝って、学校に行くことにした。きっとマヤなら、何食わぬ顔をして学校に来ているだろう。そもそも、事件を起こしたという自覚も無さそうだし。

「お早う、和美さん」

 どんな顔して教室に入ろうかと校門をゆっくり歩きながらくぐると、エフェメラさんが背後から声をかけてきた。

「あ、エフェメラさん、お早うございます」

 そういえば、昨日は先生と何を話したのだろう? マヤはどうしたのかも気になったわたしは、エフェメラさんに尋ねてみた。教室まで歩きながら、エフェメラさんはあらましを語ってくれた。

「昨日は、ファミレスに連れられて三人で食事したな。キンピラ牛蒡にフレンチトーストッて、和美さんは好きか?」

「何よそれ? マヤッて、面白い食べ合わせをするのね」

「いや、先生の注文だ。マヤは三食ピラフで、私はカイザーサンドだからな」」

「……」

 誰だって、意外な一面はある。食べ合わせ程度は、今更ビックリする事ではないだろう。

「それで、食事をしながら話しをしたのだが、まさか自分が人間じゃないとは言えないからな。事件については、警察に話した内容をそのまま使いまわした」

 それじゃあ、わたしとお母さんの会話と大した違いはないのか。

「ただ、学校で暴れたのは問題だったからな。昼休みに校長室で謝る事を、別れ際に約束した。問題は、マヤが自分のしでかした事を自覚していない点だ」

 ああ、それは判る。自分のしでかした事を謝れと言われれば、普通の悪人は何で学校で暴れていけないのかと言い張るけど、マヤの場合は何が問題なのかが判ってない。学校で立ちまわったのが呼吸や食事と同列の感覚になっているのだ。本当の意味で罪悪感が無い人間は、逆に悪事を楽しめない。だからって、はた迷惑には違いないけど。

「和美さんからも、マヤに何か言ってくれないか」

 まあ、そこは暴れた経緯で壊した物や汚した物に対して責任を取るように言うしかないだろう。

 そんな話をしているうちに、わたし達はもう教室の前に到着した。エフェメラさんはわたしの斜め後ろにいるので、わたしが扉を開けなければいけない。結局、どうしようか決められなかったわたしは、もう深く考えずに一気に扉を開ける事に決めた。

 ガラガラッ!

 歪んだレールの上をなぞりながら開く扉が濁った音を立てると、クラスメート達が条件反射のように一斉にこちらを向いた。やっぱり一昨日の騒ぎが原因なのか、教室がさざ波のようにざわめいた。殺人容疑はとっくに晴れたとはいえ、やっぱり気味悪がられているんだろうな。

 居心地が悪い中へ、わたしは黙って足を踏み入れた。

「皆さん、おはようございます」

 わたしと対照的に、エフェメラさんはいつものようにクラスメート達に挨拶をしていた。その凛々しい態度は、わたしには真似出来ない。クラスメート達も、エフェメラさんに関してはまだ信用しているか、そうでなくても半信半疑といった感じの態度だった。

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