マヤと行く! 16
部長の話しを全部聞き終わった時、マヤはすっかり退屈していた。どうやら、部長が宇宙人で無かった事がお気に召さなかったみたいだ。
「そうすると、エピクリマ大陸の技術を最初に研究をしていたのは、屋敷の前の持ち主という事なのか?」
エフェメラさんの質問に、部長は首を縦に振った
「でも、前の持ち主は私の実家に多大な借金をしたまま他界して、屋敷を差し押さえた実家は地下室なんて何も知らなかったわ」
それはつまり、エピクリマ大陸の文献を最初に誰がどうやって入手したのか全く判らない事になる。
「判らない事だらけだけど、マヤの無実さえ晴れれば、わたしはもういいわ。マヤはどうする?」
わたしに聞かれて、マヤは右手を上げてひらひらと振った。
「エピクリマ大陸の技術は魅力的だけど、この功績は部長のものだからね。わたしにはどうこうする権利はないわ」
既に、いや初めからマヤの論点は別の所にあった。エフェメラさんは、下を向いて首を横に振った。肝心のマヤがあれでは、苦労のしがいもないだろう。
「私たちは、これで帰らせて貰おう」
部屋に戻ったエフェメラさんは、さっきからへたり込んだままの朝島先輩の手を取って立ち上がらせた。
「部長が朝島先輩を監禁したことを、わたし達は警察に言わなければいけません。ここに警察が来る前に、部長はどこかに逃げて下さい」
わたしにうながされて、部長は首を縦に振った。
「さあ、帰りましょうマヤ」
「うん、もうここに用はないしね」
完全に興味が失せたのか、マヤはあっさりしていた。
*
わたし達にとっては終わった事件だったが、大変なのはその後だった。
警察の安置所で保管されていたホムンクルスの死体が、泡になって崩れてしまったのだ。その直後に本物の先輩をつれてわたし達が警察にやって来たので、当然ながら質問攻めにあった。
事件を全て平岩部長のせいにして、わたし達は監禁された朝島先輩を助けたのだと警察に言い張り続けた。被害者である朝島先輩も話しを合わせてくれた。いや、誘拐された本人にも事情が判らなかったので、わたし達の描いたシナリオを鵜呑みするしかなかったのだ。
それでも、朝島先輩殺害容疑が晴れたせいか、拘束されたのは一晩だけで済んだ。
次の日、わたしには母さんが、マヤとエフェメラさんにはミツル先生が警察署まで迎えに来てくれた。昨日からずっと心配していたのか、二人とも疲れ切った顔をしていた。母さんの目の下のくまを見ると、申し訳ない気持ちになる。
マヤたちは先生に連れられて行ったので、今日はここで二人とお別れとなった。わたしと母さんは、家につくまでずっと黙っていた。
昨日から母さんに何があったのかは聞いていないが、想像はつく。昼過ぎにいきなり警察が訪ねてくるし、ケータイは繋がらないしでは、焦燥感がつのるばかりだろう。
家に戻ったわたしと母さんは、ダイニングキッチンのテーブルを挟んで向かい合って座っていた。言いたい事があるはずなのに、母さんは言い出せなくて困っているみたいだった。きっと、夏休みの突然はじけたわたしを思い出しているのだろう。
わたしも、母さんには秘密にしたくはなかった。しかし、マヤの超能力とかエフェメラさんの正体とか、秘密にしなければいけない事が多すぎた。それに、マヤと共有している秘密があると言うのは、今のわたしにはかけがえのない宝物だった。母さんには申し訳ない気持ちはあるけど、そこだけは譲れない。
結局、警察に説明した内容をそっくりそのまま語るしか無かった。
わたしの話を全部信じたわけではないだろうが、母さんは黙って全部聞いていた。わたしはますます申し訳なくなった。
「あ、あの、心配かけて御免なさい」
今頃になって、最初に言わなければいけなかった事をわたしは口にした。わたしがやっと謝ったので、ようやく母さんは立ち上がって晩御飯の準備を始めた。
晩御飯の準備が整った頃に父さんが仕事から帰ってきたが、何も言わなかった。どうやら、本当に大変なことがあったのを知らないでいるみたいだ。昨日から働きづめだったとはいえ、父さんがこんなに鈍い人だとは思わなかった。
でも、もしかすると父さんみたいな態度の方が普通なのかもしれない。非常識の連続だったこの数日間の体験のせいで、何が普通なのか判然としなくなってしまった。
夜の寝室で、わたしは夜空を見上げていた。こうして静かな日常の中にいると、昨日の様々が出来事が夢のようだった。だけど、あれは全て真実なのだ。
でも、本当に大事なのはマヤがわたしの趣味を好意的に解釈してくれた事だ。この事の方が、超能力やホムンクルスよりもよっぽど鮮明に記憶していた。
何よりも、マヤとあれだけ長い時間を過ごしたのが、嬉しかった。屋上での、マヤの言葉を思い出す。
『友達っていうのはね、そばにいるだけで高潔な気持ちにさせてくれる。そんな人間を言うのよ』
結局マヤは、滝畑さんも部長も憎まなかった。それは、わたし達の理解の外にある価値観によるものかもしれないけど、そこにもマヤの輝いている理由があるとわたしは信じている。
マヤのコスプレに着替えたわたしは、ケータイを広げてマヤの姿を熱心に観察した。
「マヤ……」
無性にマヤに会いたくなって、わたしは涙を流しながらベッドに潜った。




