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マヤにしてっ!  作者: 白沢 雄
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マヤと行く! 13

 屋根に到着すると、マヤはわたしから右手を離して避雷針を掴んだ。

「ほら、早く和美も掴まって」

 わたしがマヤの首に回していた両手を離して避雷針に抱き着くと、マヤはわたしの両足を優しくそっと屋根の上に下ろした。

「煙突まで、歩ける?」

「這って進めば、何とか」

 煙突までは十メートル程度あり、マヤのような真似はわたしには無理だ。だけど、この程度でマヤに甘えたくもなかった。

「うん、判った。頑張ってね」

 マヤも、わたしの気持ちを察してくれたのか手を貸す気は無いようだった。避雷針を掴む手を弱めながらゆっくりとしゃがむと、わたしは屋根に両手をついた。今いる場所は急こう配の屋根の頂上部で、わたしは両手足でてっぺんを挟むような姿勢になって少しずつ前進した。

 こんな時は、何故か風が強くなったように感じてしまう。

「だ、大丈夫、大丈夫。わたしは大丈夫」

 足がすくみそうになるが、呪文のように同じ言葉を繰り返す事で何とか平常心を保ち続けていた。たった十メートルがとても長く感じられる。結局、煙突まで五分くらい掛かってしまった。

「和美さん、よく頑張ったな」

 わたし達より後にロープを上っていた筈のエフェメラさんが、いつの間にか先に煙突に到着していた。ずっと下を向いていたから、飛び越えられても気付かなかったのだろう。

 エフェメラさんは、何故か座布団程度の大きさの木の板を持っていた。どうやら煙突は使っていないらしく、その木の板で蓋をしていたのだ。逆に言えば、飾りでない本物の煙突という事だから、ここから入れる可能性は高い。

「先にフライデイを煙突から室内に飛ばしてみたが、確かに一階に誰かがいる。それが多分部長だろう。暖炉は使われていないが、掃除も特にしていない。まあ、服がそんなに汚れる事はないだろう」

 すすまみれの心配はないのは、有難かった。煙突の穴を覗き込んでいると、マヤがわたしの襟を掴んだ。

「さあ、さっさと入るわよ!」

「うわっ」

 わたしとマヤは、三階建ての屋敷の屋根から一階まで続く煙突を一気に降下した。

「あはははは!」

「ひゃあああ!」

 リュックを背負った二人が落ちるには煙道が狭いせいか、そんなにスピードが無かったのは幸いだった。暖炉の下にあるダミーの灰の山に、わたし達は鈍い音を立てて着地した。落下した勢いを利用して器用に暖炉から転がり出たマヤは、暖炉で尻餅をついたまま立ち上がれないわたしに右手を差し出した。

「ほら、立って」

「ありがと、マヤ」

 間の抜けた返事をしながら、マヤの手を引いてわたしは立ち上がった。

「二人とも、無事か?」

「ひっ!」

 暖炉の中から、エフェメラさんが首だけ逆さまに煙道から出して話しかけた。突然だったので、何か生首みたいでビックリさせられた。どうやら、器用に手足を広げて煙道を逆さにになって降りて来たらしい。人間でないせいか、逆さまになっても髪の毛は下に向かわずに背中に向かって伸びていた。

 暖炉からテキパキと這い出たエフェメラさんが、わたしの格好を見て首をひねった。

「不思議と、全然汚れてないな?」

 確かにエフェメラさんみたいに要領良く無かったのに、わたしの服は意外に綺麗だった。しかし煙突の中が掃除されていたにしては、エフェメラさんの方は服の所々に白い埃がまだら模様になってついていた。どういう事なのか気になったが、改めて暖炉を覗いている暇はない。

「エフェメラ、部長は何処にいるの?」

 マヤに尋ねられて、エフェメラさんは暖炉の向かいの壁を指した。

「すぐ隣の部屋で、体温の反応がある。窓からはカーテンが閉め切られていて、中が見えなかった」

 それを聞いて、マヤは壁に耳を近づけた。

「うーん、やっぱり何も聞こえないわね。あたし達に気付かない事はないから、誘っているみたいね。でも、この部屋にカメラは無いようね。壁の中のマイクだけかな?」

 壁を手で撫でまわすように調べながら歩いたマヤは、部屋の角にあるドアに辿り着くとそのままドアノブに手を伸ばした。

「マヤッ!」

 わたしが何の警戒もしていないマヤに注意しようとすると、マヤはこちらを振り向いてウインクした。

「大丈夫よ、和美。だって部長は、あたし達に来て欲しいんでしょ? だったら罠なんかで邪魔はしないわよ。問題は、部屋に入ってからよね」

 そう言ってマヤは、平然とドアを開けた。

「あ、待ってよ」

 わたし達も、マヤに続いて廊下に出た。いかにも洋館といった趣のある廊下は、床に赤い絨毯が敷かれていた。天井にはシャンデリアを模した電灯が煌々としていて、廊下の脇には大きな壺やら西洋風の甲冑やらが数歩ごとに並んでいた。甲冑を見ていると、路地裏に出現した黒い体を連想させた。

「まさか、あの甲冑も襲って来ないでしょうね」

「それは無いでしょ」

 マヤは、何のためらいも無く即答した。

「えっ? どうして判るの?」

 わたしの疑問を聞いて、マヤは首を傾げた。

「だって、アレぜーんぶ、年代物の本物よ。動く鎧を作るんだったら、もっと新品で頑丈な物を使うはずよ」

「えっ? 本物!?」

「それに、あの壺だって百年も前の舶来品よ」

「はあーあ」

 そんなのが当たり前のように何体も並んでいるなんて、まるで異国の城内のようだ。部長も凄いが、骨董品の価値も判るマヤにも本当に感心してしまう。これもマヤにとっては、前世の知識が出ただけの事なのだろうか?

「さあ、開けるわよ」

 行きつけの店に入るかのような自然な振る舞いで、マヤは木製の重たそうな扉を開けて部長が待ち構えている部屋に入った。マヤの後を追ったわたしは、マヤの肩越しに部屋の中を見た。

 どうやらこの部屋は、寝室みたいだった。天蓋のある大きなベッドが、部屋の中央でデンと構えていた。ベッドの上では、エフェメラさんが言っていた通り誰かがうずくまっていた。

「あ、あなたは!」

 そこにいたのは、平岩部長では無かった。彼女がこんな所にいるなんて、絶対に有り得ないはずだった。

「朝島先輩っ!?」

 信じられない事に、そこにいたのは殺されたはずの朝島先輩だったのだ。ブラウス姿の先輩は、ベッドの上でうずくまって震えていた。

「いいかマヤ、状況が掴めるまでは慎重に……」

「まあステキッ! 宇宙人と入れ替わっていたのねっ!」

 予想通り大喜びしたマヤは、エフェメラさんの注意を全く聞かずに駆け出してベッドに飛び込んだ。

「あ、ああ……」

 何か言いたそうだったが、先輩は口が上ずるばかりで声が全然出ていない。マヤは、いつぞやの滝畑さんの時と同じように先輩の手を取った。

「もしかして、今の先輩が宇宙人なの? それとも、殺された方が宇宙人? ねえ、どっちなのよ?」

 歓喜のあまり瞳孔が開いた目をこれでもかという位に見開いて、マヤは朝島先輩に顔を近づけた。強烈な視線から逃れられない先輩は、全身が硬直していた。蛇に睨まれた蛙っていうのは、こういうのを言うのだろうか? まあ、あの様子だと、目の前の先輩は普通の人だと思う。

「安心したまえ、和美さん。念の為調べてみたが、矢張りあの先輩は本物だ」

 エフェメラさんは、室内にフライデイを既に子幾つも飛ばしていた。恐らく、サーモグラフとかX線とかで先輩の体内を調べたのだろう。ただ人間というだけでなく、先輩本人だと判るなんて、個人データーを以前から収集していたとしか思えないけど。

 いや、今は裏を考える必要はない。マヤだってそう言っていたじゃない。先輩が本物なら、やる事は一つだ。

 わたしは早速、先輩のベッドまで駆け寄って質問した。

「昨晩から今まで、一体何があったんですか? 学校では先輩が死んだって、大騒ぎしているんですよ」

 死んだと言われたのがショックだったのか、先輩は口を半開きにしたまま目を見開いて黙ってしまった。先輩自身にも、事情が呑み込めていないのだろうか。

「どうやら、今の先輩には何を訪ねても無駄なようだな。部長がどこにいるのか気になるが、今は先輩をつれて屋敷を出よう」

 エフェメラさんの提案には、わたしも賛成だ。先輩が生きているなら、マヤに掛けられている殺人の容疑は自動的に晴れる。真相が説明できないのは困るが、それでも警察に捕まるよりは遥かにましだ。

「ええーっ!? どうして帰るのよ? これから宇宙人に会うっていうのに」

 口をとがらせて、マヤが反対した。思った通りマヤは先輩とは別の意味で、事情が呑み込めていなかった。というか、部長が宇宙人というのは、もうマヤにとっては決定事項になっているみたいだ。

 ベッドの上で四つん這いになっているマヤの腕を、わたしは掴んだ。

「別に今日でなくても、ここに来ればまた会えるわよ」

 エフェメラさんは、先輩に肩を貸して立ち上がらせようとしていた。今マヤの面倒を見るのは、わたしの役目だ。わたしの腕を振りほどこうとするマヤに、彼女が興味のある事を言って何とか言う事を聞かせようとする。

「いいからマヤ、屋敷から出なさい! 朝島先輩を助け出せば、また体育館に行けるようになるから!」

 体育館と聞いて、マヤが抵抗をやめた。どうやら、効果があったみたいだ。

「そうだ、体育館に行こう」

 本当にわたしの言った事に効き目があったのかは微妙だが、マヤは自分からベッド

離れて立ち上がった。

「そうと決まれば、長居は無用だ。さあ、ここから出よう!」

『そんな事はさせないわっ!』

 エフェメラさんの言葉に、誰かが返事をした。部屋全体に響き渡るその声には、聞き覚えがあった。

「ぶ、部長?」

 続いて、部屋全体が揺れ出した。

「な、何なのよ?」

 異常事態に慣れていない朝島先輩が、エフェメラさんにしがみついてうろたえていた。わたしだって、夏休みの前だったら同じような反応をしていただろう。そう考えると、わたしはマヤに関わってから少しの間に随分変わったんだと実感する。

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