マヤと行く! 5
マヤが揃えた『準備』を見て、わたしは自分の見込みの甘さを痛感した。
懐中電灯や折り畳み傘はまだいい。しかし、方位磁石やロープまで持っていくなんて、まるで登山だ。
他にもマヤは、ペットボトルを数本リュックサックに入れていた。わたしも、十リットル程度の水が入ったポリタンクを載せたカートを任された。しかし、いくらマヤには超能力があるといっても、本気で殺しに来る犯人を相手にするには、やはり不安が残る。
宇宙人の仕業だと思ってないわたしは、気休め程度だけど武器を用意する事にした。とはいえ、女子高生が雑貨屋でいきなり買っても怪しまれない刃物なんて、果物ナイフかカッターナイフ程度だ。カッターにはいい思い出が無いので、わたしは果物ナイフを買ってカートにセロハンテープで巻いておいた。一応、マヤの分も用意しておこう。
準備が済んだわたし達は、ファミレスで作戦会議を開いた。マヤが、テーブルの上にチキンピラフと並べて地図を広げた。
「和美が見た現場って、ここよね」
マヤは地図に赤く印をつけた。割と縮尺の大きい地図だったが、わたしが死体を見た路地までは無かったので、大雑把な印になってしまった。
「和美は、なにしに路地に入ったの? もしかして、花摘み?」
「違います! わたしがあそこに行ったのは……」
マヤがどう反応するのか予想できたわたしは、声が尻すぼみになってしまった。
「ん、どうしたの?」
マヤが首をかしげながら、わたしの顔を覗き込んだ。このままでは、本当にわたしが路地で用足しした事にされてしまう。
「あそこで、見たのよ。マヤにそっくりな人を」
「あたしにそっくり?」
マヤが目を輝かせた。やっぱりマヤは、宇宙人の仕業だと思っているに違い無い。こうなったら、全部打ち明けた方がいいだろう。
「外見も服装も同じで、眼鏡だけが違っていたの。イヤリングだって、マヤと同じだったし……。そうだ、イヤリングよ!」
「イヤリングがどうしたの?」
わたしはマヤに、イヤリングの持ち主について思った事を話した。そもそも警察がマヤを疑ったのは、わたしが落としたイヤリングの購入者を全員調べたからだ。その中で怪しいと睨まれたのが、マヤだった。だとするなら、マヤにそっくりな少女もイヤリングの持ち主の一人として、警察が調べている筈だ。その事を警察に出頭して打ち明ければ、マヤの容疑も晴れるかもしれない。
そこまで説明した所で、マヤは首を横に振った。
「言いたい事は判ったけど、多分それは無理ね」
「どうして? 宇宙人がマヤに化けていたから?」
「だって、あのイヤリング、あたしもこないだ落っことしたんだもん」
「えっ?」
それじゃあ、あの少女もわたしみたいに、拾ったイヤリングをつけてマヤのコスプレをしているだけって事? 真実は、あまりに呆気なかった。顔までそっくりというのは、もう変装とか特殊メイクのレベルで、わたしよりスゴいけど。
「このイヤリングについて警察に聞かれて、あたしは正直にこないだ落としたって言ったのに、なんであんなに怒るのかな?」
まあ、そこは信じろっていう方が虫のいい話だろう。勿論、現場にイヤリングを落としたわたしが一番悪いんだけど。
それにしても、わたしみたいにマヤのコスプレをしたがる人が本当に他にもいるのだろうか? 勿論、マヤの良さが判るのはわたしだけ、なんて思ってはいないけど。実際にエフェメラさんもマヤが嫌いじゃないし。
「あたしに化けた宇宙人に遭うためにも、話しを戻すわよ、和美」
マヤが、現場の周囲の何ヶ所かに印をつけた。
「もし、ヒューマンミューテレーションが再び起きるとしたら、同じくらい暗い場所でしょうね。区画が広い場所は、当然その中心が暗くなるわ」
宇宙人の仕業だと思っている割には、マヤは意外にまともな推測を立てていた。
「この繁華街なら、あたしもよく行く店があるし、イヤリングを紛失した時期にも確かに行った覚えがあるわ」
わたしとマヤ、謎の少女の三人が同じ場所で活動していないと、イヤリングの件は偶然でなく故意だとしても説明が確かにつきにくい。
「腹ごなしが済んだら、早速行きましょう」
そう言って、マヤは地図をたたんだ。いいタイミングだと思ったので、わたしはマヤに疑問に思っていた事を尋ねてみた。
「どうしてマヤは、それが宇宙人の仕業だと判ったの?」
わたしの質問に、マヤは何かカードみたいな物を出して答えた。
「実は、校長室から抜け出す時についでに持って来たんだけど、これが警察に見せられた現場の写真なの。これを見ると判るけど、死体の致命傷となった……。和美、聞いてるの?」
危うく吐きそうになった口を押さえて、わたしはウンウンとうなった。
食事中に、えらい物を見せられてしまった。思えばわたしは、マヤに何か聞く度に後悔しているような気がする。
マヤのように、平気な顔で真っ赤なピラフをほお張る真似は出来なかった。
それでも、見落としがあってはいけないと思い、写真を見る為に夕食を勢い良く口の中に詰め込んで一気に飲み込んだ。これで、歯を食いしばりながら写真を見れば、もう戻さないだろう。
改めて写真を見ると、大変な事が判った。
「え? 朝島先輩じゃないの!?」
何と、被害者は、美術部の朝島先輩だったのだ。
「今頃になって何言ってんのよ、和美」
「だって、昨日の路地は暗かったし、写真みたいにフラッシュで照らされていなかったから、女性としか判らなかった」
まさか、被害者が身近にいる人だとは思わなかった。どうやら、マヤが疑われる理由は、イヤリングだけでは無かったようだ。
「そうか、だから全校集会を開いたんだ」
考えてみれば、警察が来ていたのは秘密だったのだから、マヤが校内で暴れて逃げ出しただけだ。まあ、目ざとい生徒の何人かには感付かれていたようだが。
わたしが思うに全校集会は、生徒が殺されたから夜間の外出は控えましょうとかいう内容だったに違いない。
そうなると、警察が来た本当の理由は朝島先輩が殺されたからで、マヤからは事情を聞くだけだったのだろうか? まあ、イヤリングは無くしたですました上に宇宙人の仕業だとか言って、マヤも事態を悪化させていたけど。マヤは悪気も無ければ嘘も全然ついていないから、余計にタチが悪い。
「だけど、マヤが理由も無くこんな残酷な真似が出来ると、どうして思えるのかしらね」
「ホント、理由があればやるけどね」
「いや、そうじゃなくて……」
やっぱり、尋問に乱入して正解だったのかな。
そういえば、動機は何なのだ? 見落としていた事実に、わたしは気がついた。
「ねえ、マヤって女の子よね?」
「そりゃそうよ。男だったら、和美を今頃いただいているわよ」
嬉しいような恐ろしいような、それでいてくすぐったい気持ちになったが、わたしは話しを続けた。
「そう、そこよ。女の子のマヤが疑われているって事は、朝島先輩は殺されて腹を裂かれたけど、それ以外の事は全くされていないって事でしょ? 少なくとも、犯人の性別を特定出来るような目には合っていない」
わたしの推理に、マヤは頷いた。
「つまり宇宙人は、地球人との交配を試みていないという事ね。そうなると、どうして腹を裂いたのかしら。地球人の腹には、他には胃腸や肝臓、腎臓が入っているけど、それらがどうして宇宙人の研究材料に成り得るかよね」
犯人が宇宙人にしろ地球人にしろ、やはり写真だけでは動機は判らないようだった。




