マヤになる! 1
みんなは、何か趣味を持ってる?
わたしが最近はまっているのは、コスプレ。もちろん、コスチューム・プレイの事よ。
コスプレって、いいよね。いつもと違う自分に変われるんだから。
でもね、わたしのコスプレって、みんなが思っているのとはちょっと違うの。
普通、コスプレって、アニメやゲームのキャラクターの格好をするでしょ? それから、憧れている芸能人やカリスマモデルなんかの真似をする人も珍しくないよね。
わたしがコスプレしてるのは……
いつも学校で会っている、クラスメートなの。
*
わたしは、八尾和美。今年の春に入学した私立早宮女子高等学校に通う、一年生よ。
……自己紹介、終わり。
いや、冗談じゃなく、本当にわたしってこれしか話す事がない。趣味だって、さっき話したコスプレしかない。
自分って本当に薄っぺらで空っぽな存在なんだって、思い知らされる。
だからだろう。あの夏の出来事から、わたしが彼女のコスプレをするようになったのは。
*
今日は二学期の始業式の日だった。
早宮女子は、有名大学への進学率がこの町では一番高い、いわゆる進学校だ。
入学した時から、生徒達は大学受験の準備を始めるし、クラス分けなんかも入試の成績で決定される。
わたしが教室に入ると、わたしがコスプレしているクラスメートの姿は無かった。机にカバンがないので、まだ来ていないのだろう。
「おはよう、八尾さん」
聞きなれた声が、後ろからした。振り向くと、そこにはエフェメラ・ゴサマーさんが立っていた。彼女は、遙か北の国のどこかから来た留学生だが、この国で生まれたかのように会話は流暢で、国語で満点になったこともある。
「あ、エフェメラさん。おはようございます」
エフェメラさんの席は一番窓際の最後尾で、わたしはすぐ前の席だ。この学校は、クラス分けは成績順だが、席の配置はクジ引きで決まっている。だから、わたしの成績がエフェメラさんより上というわけではない。実は彼女は、今年からこの国に来ているというのに、成績学年で二番目だった。
透き通るような白い肌と淡い茶色の長髪に茶色い瞳。成績そのままに知性的な顔立ちをしている彼女は、校内で知らない人はいなかった。
話している言葉は堅苦しい本で憶えたと思われる事務的な口調なのに、実際は社交的な性格の彼女は誰からも好かれていたのだ。
しかし、わたしが憧れているのは彼女ではない。わたしが憧れていた人はむしろ、エフェメラさんとは逆に皆から距離を置かれていた。
わたし達が同時に着席すると、エフェメラさんが隣の席のよしみで話し掛けてきた。窓際の列だけ席が一つ多いので、エフェメラさんに隣接した席はわたしだけなのだ。
「君は、夏休み中には何かあったのか?」
夏休み明けのお決まりの質問だったが、わたしは一瞬だけ困ってしまった。まさか、クラスメートのコスプレをしていたとは、言えない。
「結局、ゼミの合宿しか遠出しなかったわ」
ゼミの合宿と聞いて、エフェメラさんは一瞬だけ動きを止めた。わたしは、説明不足だったかと反省した。
「ああ、そうか。君も大変だな」
次の瞬間、エフェメラさんはちゃんと理解したのか判らない返事をした。本来は演習と訳されるゼミナールを予備校という意味で使っている上に略語になっているのだから、留学生の彼女が意味を推測出来たら神業に近い。でも、知ったかぶりをしている様子ではない。
「エフェメラさんは、夏休みは何処かに行ったの?」
わたしからも尋ねると、エフェメラさんはタブレットPCを取り出した。
「わたしは、一週間ほど故郷に帰っていたんだ。見るかい?」
そうエフェメラさんが言ったとたんに、わたし達の周りは人だかりになった。どうやら皆も、彼女の故郷に興味があるみたいだった。よく見ると、他のクラスの生徒まで混じっている。
「まとめて送信するから、受け取ってくれ」
画像を送られて満足したのか、周りの生徒達は十人程度に減った。わたしのケータイも受信していたが、ここがわたしの席なので動くに動けなかった。勿論、皆はエフェメラさんに注目しているのだが、人の輪の中心にいたことの無いわたしには居心地が悪かった。
「Hyvaa huomenta!」
突然の聞き覚えのある声に、わたしは息を飲んだ。銀墨マヤが来たのだ。
彼女こそ、わたしがコスプレしているクラスメートだった。




