魔力量だけで選ばれた妹と、選ばれなかった姉
「お姉様は魔力がほとんどないのに、どうしてあの方と親しくお話しできるの?恥ずかしくない?」
妹のベラリーが、不満そうに私を見つめていた。
私の名はフローラ。プラチナ帝国、ロッシュラルク子爵家の跡取り娘として育てられた。
目の前にいる妹のベラリーは、ことあるごとに姉の私を貶めてくる。
現在私は、寄り親であるアプリコット公爵家で、侍女見習いとして奉公している。
次代の主従関係を強固にするため、寄子の跡取りは一年以上、公爵家で奉公する。それが昔からの習わしだった。
私がお仕えしているキャロット・アプリコット公爵令嬢は、とてもお優しい方だ。
魔力の乏しい私にも分け隔てなく接してくださる。
そして、妹が気にしている方は、公爵家の派閥に属するスカイブルー伯爵家の三男、ロイター様だった。
美しい容姿と優雅な振る舞いで、令嬢たちの憧れの的になっている男性だ。
確かに、私とはよくお話しする。
けれど、そのほとんどはキャロット様のお仕事についてだった。
それに、私は知っている。
ロイター様が婚約者を決めようとしない理由を。
あの方の視線は、いつだってキャロット様に向いているのだ。
かつて皇太子妃となることを約束されていたキャロット様。
今は事情があってそのお話もなくなったけれど、キャロット様の心にも、別の男性がいらっしゃる。
それぐらいは、私にも分かる。
「別に、親しくしているつもりはないわ。お仕事の話をしているだけよ」
「……ふうん」
ベラリーは納得していないようだった。
昔からそうだ。
私よりはるかに多くの魔力を持つ妹は、何かにつけて私と自分を比べ、自分の方が上だと私が認めるまで納得しない。
そんな妹のわがままを父も母も咎めなかった。
なぜなら、容姿が母譲りのベラリーは、両親から大事にされてきたから。
そのうえ、この魔法国家プラチナ帝国では、魔力量が重視される。
ロッシュラルク子爵家でも例外ではなかった。
容姿も魔力量も劣る私は、だからこそ勉強を頑張ってきた。
魔力が少なくても、当主になれば父も母も褒めてくれる。
そう信じていたからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから一年後。
公爵家での奉公を終え、久しぶりに実家へ戻った私は、お父様から思いがけない話を聞かされた。
「フローラ。お前に代わり、ベラリーを次期当主にしようと思う」
「……はい?」
思わず聞き返してしまった。
お父様は真剣な顔をしていた。
「お前も知っているだろう。我が領地では、長年、水路の建設が望まれている」
もちろん知っている。
川から遠い農地では、水不足が大きな問題になっていた。
水路が完成すれば、領地はもっと豊かになる。
「ベラリーの膨大な魔力なら、土属性魔法で水路を造れる。あれほどの魔力量は、この家の歴史でも例がない」
「ですが、お父様。魔力量が多いことと、魔法を正確に扱えることは……」
「分かっておる!だからこそ、ベラリーには修行もさせているのだ」
横にいたベラリーが微笑んだ。
「お姉様。今までお疲れ様でした。これからは私に任せてくださいませ」
……ああ。
また、あの目だ。
私を見下すような、勝ち誇った目。
昔から、何度も向けられてきた視線だった。
歯をグッと食いしばる。
けれど。
私は小さく息を吐いた。
アプリコット公爵家で学んだことを、忘れてはいけない。
「承知しました。お父様が当主として決められたのでしたら、従います」
「そうか!分かってくれるか!」
お父様は喜んでいた。
ベラリーも嬉しそうだった。
結局、私の頑張りは無駄だった。
そう考えるとやるせなくて仕方がなかった。
ただ、私は最後に一つだけ尋ねた。
「次期当主が変わるのでしたら、アプリコット公爵家での奉公はどうなさるおつもりですか?」
「お前が済ませたではないか」
「ですが、奉公は次期当主本人が……」
「それは形式的な話だ。ベラリーには水路建設の準備がある」
それ以上、何を言っても無駄だった。
そもそも私の話をまともに取り合ってくれたことなどなかったのだから。
私は翌日、お父様の許可を得てアプリコット公爵家へ戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まあ。そんなことになったの?」
事情を聞いたキャロット様は、少し驚いていらっしゃった。
「はい。申し訳ございません。寄子の次期当主として奉公しておりましたが、その立場ではなくなってしまいました」
「あなたが謝ることではないわ」
キャロット様は、私をじっと見つめた。
「それで、フローラ。あなたはこれからどうしたいの?」
「できましたら、引き続きキャロット様にお仕えしたいと思っております」
「もちろん歓迎するわ」
そう言って、微笑んでくださった。
「では、正式に私の侍女になってちょうだい」
「ありがとうございます!」
こうして私は、アプリコット公爵家で働き続けることになった。
その後、ありがたいことに筆頭侍女まで任せていただいた。
一方、実家ではベラリーが次期当主として教育を受け、ロイター様に近づこうと、社交界でも熱心に活動していたらしい。
けれど、ロイター様の気持ちが変わったという話は聞かなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数年後。
アプリコット公爵家の派閥に属する貴族たちが集まる夜会が開かれた。
新たにロッシュラルク子爵家を継いだベラリーも、お父様とともに出席していた。
「お初にお目にかかります。公爵閣下。わたくしがロッシュラルク子爵家を継ぎましたベラリーと申します。どうぞお引き立てくださいませ」
ベラリーが優雅に淑女の礼を取る。
公爵閣下はうなずき、隣にいらっしゃるキャロット様へ視線を向けた。
「あなたがベラリーね」
「はい!」
「で、ロッシュラルク家は今後、我が公爵家から離れるということでよろしいわね?」
「……え?」
ベラリーの笑顔が固まった。
「認めていた魔石の取引も、来月をもって打ち切るわね。書類の方は……」
「な、何をおっしゃっているのでしょう!?」
「あら。次期当主が一年以上、我が家で奉公するという習わしを忘れたの?」
「それは……」
「次の時代に主従関係を引き継ぐための、大切な奉公よ。あなたは一度も務めていないわよね」
お父様が慌てて口を挟んだ。
「ですが、フローラが奉公を済ませております!」
「そのフローラを、あなた方が跡取りから外した。だから、我が派閥から出ていくので、今日はその挨拶かと思ったわ」
それは静かな声だが、強烈な皮肉だった。
けれど、お父様は何も言えなくなってしまった。
「次期当主として私に仕えたのはフローラよ。あなた方がその関係を捨てたのなら、我が家も考えを改めなくてはならないの」
ベラリーの顔が青ざめた。
公爵家との取引を失う。
寄り親の庇護を失う。
それが子爵家にとって、どれほど重大なことかようやく理解したらしい。
「あの……キャロット様」
私は思わず声をかけた。
「フローラ?」
「お姉様!?」
ベラリーとお父様が私を見て驚いている。
キャロット様は微笑んだ。
「紹介するわ。私の筆頭侍女、フローラよ」
私は一礼した。
正直に言えば、お父様にもベラリーにも、少しくらい困ってほしいと思っていた。
けれど、寄り親を失えば、苦しむのは領民たちだ。
あの人たちまで巻き込むわけにはいかない。
「キャロット様。どうか、私に免じて猶予をいただけませんでしょうか」
「正気なの、フローラ?この者たちはあなたを捨てたのよ?」
「はい……ですが、領民は守りたいのです」
「……優しいのね、フローラ。その優しさが私は好きよ」
思わず頬が熱くなった。
キャロット様は少し考えた。
「いいでしょう。あなたの願いに免じて、三か月待ちます」
「さ、三か月……?」
「その間に、当主として認めるに足る功績を示しなさい。できたなら、寄子として引き続き認めましょう」
ベラリーとお父様は、何度も頭を下げていた。
が、去り際、ベラリーは私を憎々しげな目で見た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、ロッシュラルク子爵家が選んだのは、長年の悲願である水路建設だった。
ベラリーの土属性魔法なら、大規模な工事も短期間で終えられる。
約束の三か月を守るにはこれしかないと、お父様たちは考えたらしい。
私も、成功を願っていた。
水路が完成すれば、領民たちの暮らしが豊かになるのだから。
しかし、その願いは、最悪の形で裏切られた。
水路工事に携わってきた技術者は、お父様に進言したという。
「旦那様、お考え直しを!たとえ、土属性魔法を使っても、水路の調整は難しいです。最低でも半年は時間をかけませんと!」
「半年だと!!そんな時間があるか!!一刻も早く完成させねばならん。なあに、大丈夫だ。ベラリーならやってくれる!!」
そう言って、お父様は技術者の忠告を無視し、強引に工事を進めたという。
ベラリーは膨大な魔力を解放し、川沿いの土地を一気に掘り進めようとした。
ベラリーは自らの膨大な魔力量を誇っていた。
それを見せつけるかのように魔力を使ったという。
ところが、その魔力を制御できなかった。
掘り崩された大量の土砂が川を塞いでしまい、水位が急激に上昇した。
技術者の危惧した通りのことが起きてしまい、堤防が決壊した。
水は農地へ押し寄せ、家々をのみ込み、多くの領民が住まいと畑を失ってしまったのだ。
水路どころではなかった。
領地そのものが、甚大な被害を受けたのだ。
事態を重く見たアプリコット公爵家は、ロッシュラルク子爵家の領地統治権を停止した。
復旧事業は、公爵家が直接行うことになった。
そして。
「フローラ。あなたに、故郷の復旧の指揮を任せるわ」
キャロット様が、私にそうおっしゃった。
「……私に、ですか?」
「ええ。あなたはあの領地をよく知っている。それに、公爵家で学んだこともあるでしょう?」
私は深く頭を下げた。
「謹んでお受けいたします」
お父様とお母様に認めてもらいたくて、ずっと努力してきた。
結局、親に認めてもらうことはなかったけれど、キャロット様は見ていてくださった。
それだけで胸がいっぱいになった。
ロッシュラルク領の復興。
領民のため、キャロット様のため、そして自分のために復興を頑張ろうと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
故郷の惨状は、想像以上だった。
畑は泥に覆われ、家を失った人々が避難生活を送っていた。
私は公爵家から派遣された技術者たちとともに、復旧を進めた。
まず、食料と住まいの確保。
次に、堤防と農地の修復。
そして、水路建設計画の見直し。
ここへ来るまでは、どうして私がベラリーの後始末をしなければならないのかという考えがくすぶっていた。
けれど、泥に埋まった畑を見た瞬間、そんな思いは消えてしまった。
ここは、私が生まれ育った故郷なのだから。
幸い、公爵家で学んだ知識が役に立った。
とりわけ大きかったのが、魔力制御の技術だった。
私の魔力量は、今もわずかしかない。
けれど、この数年で、プラチナ帝国にも外部から魔力を供給する魔道具が普及し始めていた。
これを利用すれば、私でも必要な魔法を使えるのだ。
魔道具から供給される魔力を、術式に沿って正確に制御すればよい。
それには、魔力量よりも制御の精密さが求められる。
私は公爵家で、その訓練を重ねてきた。
もちろん、私一人で水路を造れるわけではない。
土木技術者が地形を調べ、職人たちが水路を整え、領民たちも力を貸してくれた。
私は魔道具の出力を調整しながら、一つずつ工事を進めていった。
そして、ロイター様も協力してくださった。
「フローラ。上流の水門について、確認してもらいたい」
「はい。すぐに参ります」
私たちは何度も図面を広げ、意見を交わした。
ロイター様は、いつでも真剣だった。
少なくとも、仕事の上では、互いを信頼できる関係だったと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ベラリー様。本日もお食事はこちらにお運びいたしますか?」
侍女の声が聞こえた。
「……そうしてちょうだい」
あの水害以来、私はずっと屋敷に閉じこもっていた。
私の魔法が失敗したせいで、多くの領民が家や畑を失ってしまった。
以前は笑顔で迎えてくれた人々が、今では私を見ると恨みがましい目を向ける。
そんな視線に、もう耐えられなかった。
気づけば、数か月が過ぎていた。
ある日、私は久しぶりに屋敷を出た。
川沿いの農地へ足を運ぶと、そこには信じられない光景が広がっていた。
壊れた畑は整えられ、石で補強された水路が、農地の間をまっすぐ延びている。
まだ完成していないものの、理想としていた水路が、ほとんどできあがっていた。
そして。
「フローラ様!これで来年は、もっと畑を増やせそうです!」
「ありがとうございます。でも、水路は完成してからの管理も大切ですからね」
領民たちに囲まれ、笑っている姉がいた。
あの、魔力量の乏しい姉が。
「……お姉様?」
私は呆然と立ち尽くした。
自分が成し遂げるはずだった大事業。
自分が領民たちから感謝されるはずだった。
なのに、その場所にいるのは姉だった。
「フローラ。東側の工事も順調だそうだ」
さらに、聞き覚えのある男性の声がした。
見ると、私が憧れてやまないロイター・スカイブルー様だった。
「ありがとうございます。ですが、昨日の図面は少し修正したいと思っておりまして」
「またかい?」
「よりよい水路にしたいものですから」
二人は顔を見合わせて笑っていた。
私は胸が締めつけられるような思いがした。
ずっと憧れていたロイター様。
姉から当主の座を奪えば、自分にも振り向いてくださると思っていた。
けれど、ロイター様は今も姉の隣にいる。
「……ベラリー?」
姉のフローラが私に気づいた。
「久しぶりね」
「……はい」
私は、それしか言えなかった。
「水路を見に来たの?」
小さくうなずく。
「もう少しで完成するわ。今度こそ、領民のみんなが安心して使えるものにしたいの」
姉は穏やかに微笑んだ。
私は、水路を見つめた。
美しく整えられた石組み。
緩やかな傾斜。
必要な場所に設けられた水門。
自分は、ただ大きな魔法で土を動かそうとしていた。
完成した後のことなど、考えてもいなかった。
「……お姉様」
「なあに?」
「……立派な水路ですね」
姉は少し驚いた顔をした。
そして、微笑んだ。
「ありがとう。でも、みんなで造った水路よ」
そこへ職人が呼びに来た。
「フローラ様!こちらも確認をお願いいたします!」
「はい、今参ります!」
姉は再び人々の輪へ戻っていった。
ロイター様も、その後に続いた。
私は、二人の背中を見つめていた。
自分が欲しかったものが、そこにあった。
領民からの信頼。
豊かな領地。
そして、憧れの男性と笑い合う日々。
けれど、自分には手に入れられなかった。
ギュッと拳を強く握りしめた。
魔力量では、姉に勝っていたはずだった。
魔力量の多い私こそ、当主にふさわしい。
当主になれば、姉が積み重ねてきた知識も、経験も、人々との信頼も得られると思った。
だが、そのどれ一つとして、奪うことはできなかった。
いずれロイター様の心までも、姉は手に入れるのではないか。
私は、そのような予感を抱きながら、水路を流れる水を見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから時が過ぎ、水路は無事完成した。
以前よりも多くの畑へ水を届けられるようになり、領民たちの生活も落ち着きを取り戻した。
一方、ロッシュラルク子爵家は、今回の失政の責任を問われ、正式に取り潰された。
ベラリーは爵位を失い、無謀な水路建設を進めたお父様も責任を問われ、貴族身分を剥奪された。
そんなある日、私はキャロット様に呼ばれた。
「フローラ。少しお話があるの」
「はい。何でしょうか?」
「あなたに、旧ロッシュラルク子爵領を任せたいの」
「……私に、ですか?」
「ええ。領地を復興させたのは、あなたですもの。それに、もともとあなたは跡取りであったし、その教育も受けていた」
「あなたが領主になってくれるなら、領民も喜ぶだろうし、私も心強いわ」
願ってもないこと。
私は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
故郷の領民たちが安心して暮らせるのなら。
私にとって、これほど嬉しいことはなかった。
お父様、お母様に褒めてもらいたくて努力をしてきたけれど。
とうとう、その機会は得られなかったけれど。
それでも、私を見てくれている方がいる。
それだけで、もう、何も言うことはない。
こうして私は、新たな家を興し、旧ロッシュラルク子爵領を治めることになった。
「それから、もう一つ」
キャロット様が、いたずらっぽく微笑んだ。
「領主となるのでしたら、あなたを支えてくれる伴侶も必要でしょう?」
「……はい?」
「私は、ロイター・スカイブルー様がよいと思うのだけれど」
「…………」
返事に困ってしまった。
ロイター様には、長年想い続けている女性がいる。
その女性は、目の前のキャロット様なのだから。
「……キャロット様。ロイター様は……」
「分かっているわ」
キャロット様は小さく微笑まれた。
「私も、そこまで鈍感ではないつもりよ。あの方の好意には気づいているわ」
「……そうでしたか」
「でも、私にも忘れられない人がいるの。その気持ちは、今も変わらないわ」
キャロット様は少しだけ遠くを見つめた。
そして、再び私へ視線を戻した。
「それに、フローラ。ロイター様はあなたのことも、とても大切に思っていらっしゃると思うわ」
「……私を、ですか?」
「ええ。あなたが領地の復興に苦労していたとき、いつもそばで支えてくださっていたでしょう?」
確かに、そうだった。
水路の設計に悩んだときも。
工事が思うように進まなかったときも。
ロイター様は、何度も力を貸してくださった。
「もちろん、決めるのはあなた自身よ」
キャロット様が微笑まれた。
「あなたは、あの方をどう思っているの?」
私は、しばらく考えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数日後。
私はロイター様をお呼びした。
「本日は、お時間をいただきありがとうございます」
「いや。フローラ、君から話があるとは珍しいね」
私は少し緊張していたが、きちんと自分の気持ちを伝えようと思った。
「私と、婚約を考えていただけませんか?」
ロイター様は驚いた顔をした。
さらに私は、理由を言った。
「あなたの実務能力と誠実さ、そして家柄を考慮してのことです」
ロイター様は、少し困ったように微笑んだ。
「……君らしいな。感情ではなく、政略を前面に出して交渉するなんて。私も貴族だ。結婚は個人の感情を優先すべきでない。それぐらいのことは分かっている。だが……どうしても忘れられない方がいるんだ」
「はい。存じております」
「知っていたのか!?」
「もちろんです」
私は微笑んだ。
「ですが、私はあなたを尊敬しております。共に仕事をして、あなたがどれほど誠実な方なのかも知りました」
「フローラ……」
「だから、どうでしょう。私は貴族としてアプリコット公爵家を支える家の当主になります。ロイター様は、そんな私を支える配偶者になる。そうすれば……」
「そうすれば、共にキャロット様を支えることになる、かな」
私はにっこり笑って、
「愛は、共に歩みながら育てるもの、とも申します」
私は、まっすぐにロイター様を見つめた。
「貴族としての責務を果たしながら、キャロット様をお支えし、互いに尊敬し合える夫婦を目指す。それでは、いけませんか?」
ロイター様は、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……少し、考える時間をもらってもいいだろうか」
「もちろんです」
私は笑顔で答えた。
「お返事を、お待ちしております」
これからどうなるのかは、まだ分からない。
けれど、私は焦っていなかった。
領地も、人との信頼も、一日で築けるものではない。
少しずつ積み重ねていくものなのだから。




