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短編B-③ 『観測者が最初の一行を書く日』  作者: Taku


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第6話「余白――誰が書くのか」

御前会議室。


雇い主が、一枚の原稿を円卓の中央に置く。


「カノジョが書いた」


全員が、原稿を見る。


博士が、眼鏡を押し上げて言った。


「……エッセイ、ですか」


「そう」


「なぜ」


「観測者を、やめたから」


長老が、眉をわずかに動かす。


「観測者をやめると、文章を書くのか」


「そういうことらしい」


「らしい?」


「私にも、よくわからない」


女将が、小さく笑った。


「雇い主さん、それでよく人に“書け”と言えますね」


「だから、皆さんにも書いてほしい」


沈黙が、落ちる。


隊長が、短く聞いた。


「何を」


「この世界で、あなたが見つけたもの」


博士が、すぐに反応する。


「世界観の説明ですか」


「いや」


「設定資料?」


「違う」


「では」


雇い主は、少し考えてから言った。


「あなたが、この世界のどこに立っているのか」


沈黙が、もう一度落ちる。


長老が、腕を組んだ。


「それなら、私には書けん。見つけたものより、見なかったものの方が多い」


女将が、続ける。


「私は、食べ物のことしか書けないかもしれませんよ」


「それでいい」


青年が、首を傾げる。


「何を書いても?」


「何を書いても」


博士が、腕を組んだまま言った。


「では、科学についてでも」


「いい」


スターが、短く続ける。


「光についてでも」


「いい」


監査役が、静かに口を開く。


「世界の矛盾についてでも」


「もちろん」


しばらく黙っていたカノジョが、言った。


「好きなものを書けばいいのよ」


全員が、彼女を見る。


「伝えようとしなくてもいいの。

自分が、この世界のどこに立っているのか。

それを書けば、きっと伝わる」


雇い主は、その言葉を聞いて、中央の原稿をもう一度見た。


「……そういうことか」


カノジョは、微笑む。


「余白って、そういうものでしょ?」


――次頁へ。


『彼女の余白』――世界観断章

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