第6話「余白――誰が書くのか」
御前会議室。
雇い主が、一枚の原稿を円卓の中央に置く。
「カノジョが書いた」
全員が、原稿を見る。
博士が、眼鏡を押し上げて言った。
「……エッセイ、ですか」
「そう」
「なぜ」
「観測者を、やめたから」
長老が、眉をわずかに動かす。
「観測者をやめると、文章を書くのか」
「そういうことらしい」
「らしい?」
「私にも、よくわからない」
女将が、小さく笑った。
「雇い主さん、それでよく人に“書け”と言えますね」
「だから、皆さんにも書いてほしい」
沈黙が、落ちる。
隊長が、短く聞いた。
「何を」
「この世界で、あなたが見つけたもの」
博士が、すぐに反応する。
「世界観の説明ですか」
「いや」
「設定資料?」
「違う」
「では」
雇い主は、少し考えてから言った。
「あなたが、この世界のどこに立っているのか」
沈黙が、もう一度落ちる。
長老が、腕を組んだ。
「それなら、私には書けん。見つけたものより、見なかったものの方が多い」
女将が、続ける。
「私は、食べ物のことしか書けないかもしれませんよ」
「それでいい」
青年が、首を傾げる。
「何を書いても?」
「何を書いても」
博士が、腕を組んだまま言った。
「では、科学についてでも」
「いい」
スターが、短く続ける。
「光についてでも」
「いい」
監査役が、静かに口を開く。
「世界の矛盾についてでも」
「もちろん」
しばらく黙っていたカノジョが、言った。
「好きなものを書けばいいのよ」
全員が、彼女を見る。
「伝えようとしなくてもいいの。
自分が、この世界のどこに立っているのか。
それを書けば、きっと伝わる」
雇い主は、その言葉を聞いて、中央の原稿をもう一度見た。
「……そういうことか」
カノジョは、微笑む。
「余白って、そういうものでしょ?」
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『彼女の余白』――世界観断章




